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Space Battleship YAMATO Farewell 2
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Space Battleship ヤマト 2205

望まれぬ発進
 Farewell 2.1 暁の発進
The departure of a morning glow


「長官! 呉軍港第四ドック群に不穏な動きがあります!」

「呉の第四ドック? ヤマトに何かあったのか?」

 防衛軍艦艇整備予算関係の書類を読んでいた端末から顔を上げた藤堂長官は、デスクの前に立って大声でがなり立てる総参謀長に視線をあわせるが、突然のことに驚きを隠せないようである。

「これをご覧ください!
 0600時現在、すでにヤマトの補助エンジンの起動が確認され、物資の搬入とともに旧乗組員を中心に続々と人員が集まっています」

〈ヤマトが・・・〉


〈とうとう、動いたか・・・〉

 昨日の旧司令部や戦没記念式典でのやり取りから今回の行動は十分に予測できたことではあったが、日系軍部の発言権維持と影響力拡大を望んでいるグループに無関係とはいえない藤堂平九朗は、あえて無視、あるいは刺激するような行動を取っていた。

「長官! お分かりでしょう?
 直ちに中止命令をだして頂きます!」

「うむっ・・・」

 今や地球連邦軍や統合地球軍だけではなく地球防衛軍でも主流派となりつつあるといってよい北米欧州連合の息のかかった総参謀長は、自身の背後にある力を背景に命令といってもよい口調で強引に藤堂長官への意見具申を押し付ける。

 命令系統としては地球の宇宙防衛戦力の全てを統括する防衛軍のトップに立っているとはいっても現実的な勢力バランスから、もはや藤堂長官も総参謀長の意見を真っ向から拒否することが出来ないのが現状なのであった。

〈この世は全てゲーム・・・ パワーゲームだ・・・
 何を賭けるか、何を得られるかだけの違い・・・〉


「呉第四ドックへ繋げ!」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「艦長代理。 地球防衛軍司令本部よりの第一級緊急通信が入っています」

「分かった。 繋いでくれ」

 古代の命令により相原通信士が最終調整を行っていた通信制御席スクリーンに映し出された総参謀長は、最終的なガミラス戦役の勝利によって得た現在の地球防衛軍が持つ強大な権威を示すように強硬な口調で命令を発した。

『ヤマト乗組員へ告ぐ! ヤマト乗組員へ告ぐ!
 地球防衛軍命令である。 直ちに全ての作業を中止し退艦せよ!』

「・・・・・・」

 第一艦橋で発進に向けた準備を行っていた旧ヤマト幹部乗組員は、みな無言で通信スクリーンから流れる強い口調の警告命令を聞いていたが、古代は相原の横へ立つと艦内放送を切り替えて総参謀長の声を全艦へ流した。

『諸君達の行為は重大な軍規違反である! 直ちに中止せよ!』

『これ以上の行動を続ければ地球連邦に対する反乱と見なすことになる!
 直ちに全員退艦せよ!』

 古代の行動に驚いて見上げる相原を押し留めるように静かに頷いた古代は、内心にある動揺を抑えて真っ直ぐに総参謀長が写るモニターを見詰めていた。

『もう一度繰り返す。 直ちに退艦せよ!
 ここで退艦すれば寛大な処置により罪には問わない。 直ちに退艦し原隊へ復帰せよ!』

 地球防衛軍といえども官僚主義と有縁ではいられない。

 いや、滅亡寸前にまで追い込まれた戦乱によって発言力と組織の肥大した現在の地球防衛軍は官僚組織の典型ともいえ、全てをなかったことにする内部処理というのはヤマトに乗り組んだ人々ではなく将来のある司令部高級士官たちが最も望んでいることであった。

「軍規違反・・・」

「反乱・・・」

 最初から分かった上での行動とはいっても、実際に防衛軍司令部より明確な軍規違反を突きつけられると内心に動揺がないといえば嘘になる・・・
 ヤマト艦内各所で各責任者の指示を受けて慌しく出航用意を続ける新たに乗り組んだ人員はもちろん、それぞれに指揮を取るベテランの旧乗組員の間にも少なからず動揺が広がる。


『みんな。 聞いての通りだ! これが我々の現実なんだ!
 防衛軍命令に従う者は速やかにフネを降りてくれ』

「これ以降、本艦に残る者は十分に覚悟してくれ・・・
 これが我々の船出なんだ!」

 軍楽隊の演奏もパレードもない・・・
 もちろん見送る人々の声援も・・・
 それに沖田艦長もいない・・・

〈我々は反乱軍なんだ・・・〉

 第一艦橋でも、あえて過激な表現を行う古代の言葉にそれぞれに自身の心の中を問う沈黙が広がるが、上部機関からの命令ではないどころか、明確な命令違反となる今回の行動には防衛軍から与えられた階級は意味をなさない・・・

 それぞれが自分の中にある何かによって行動しなくてはならないのだ。

〈不安です・・・ 沖田さん・・・
 第三艦橋で我々のパレードを見守っていたときも同じ気持ちだったのでしょうか?〉
 


「艦長代理。 乗組員総員退艦者なし・・・
 降りる者は一人もいません!」

「そうか・・・」

 自席の端末で乗組員名簿を確認していた井之上船務班長からの報告を聞いた古代は、ホッとした安堵の気持ちと重大な責任を背負うことへの息が詰まるほどの緊張が混じった複雑な心境のまま、独り言のような言葉を小さく漏らした・・・


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「うぬ・・・ 長官命令を無視するつもりか!
 こうなったら仕方がない。 第四ドックへの電源供給を停止せよ!」

「待て、総参謀長!
 まだ乗組員が全員揃っているわけでもあるまい。
 もう少し説得してみるんだ」

 先のガミラス戦での国際連合宇宙防衛機構を拡大強化した緊急編制と、続く激戦による崩壊から、新たに編入された日本統合防衛艦隊を中心に再編された地球防衛軍には、現実的な人員不足という問題もあって副官配置が異常に少ないという組織的な欠点があり、実際には命令系統に属していないスタッフであるはずの参謀が、各部門の代理指揮官として司令官の権威の下で実行部隊に直接命令を下してしまうという責任と権限が曖昧になる問題が多分に残っている。

「長官! 長官は彼らに対して甘すぎます!
 彼らに発進は不可能であることを教えるべきです!」

「しかし、な・・・
 この反乱が連邦会議で公になれば、私はもちろんのこと、
 君も管理責任を問われることになるかもしれんのだぞ」

 公式な命令ラインに乗らないことで重過ぎる結果責任により発想が硬直化することを軽減するための参謀配置の意味と、現実の地球防衛軍での曖昧な責任と権限の問題点からくる責任範囲の不明確という総参謀長の不安を突いた藤堂長官は、「君も」という言葉を意識的に強調して発音した。

「・・・・・・」

「よし。 私が直接説得してみよう・・・」

 責任という参謀職にある者が最も恐れる言葉で総参謀長の行動に制限を掛けた藤堂は、続けて自ら助け舟を出すように提案をするが、それまでの強硬な態度から一転して緊張した状態に置かれていた総参謀長の顔には、直接的な責任を回避したことからくる明らかな安堵の表情が浮かんでいた。


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「艦長代理! 藤堂長官より緊急直接通信です」

「分かった。 メインパネルに回してくれ」

 映像通信を通して無言で敬礼を交し合った二人の胸の奥には様々な思いが交錯していたが、先に右手を下ろした藤堂が静かな語り口で問い掛ける。

『古代。 どうしても考えは変らんか?』

 その態度と口調から、藤堂長官の苦悩と気遣いを十分過ぎるほどに感じ取った古代は、湧き上がった感情に一瞬言葉が詰まり戸惑いを見せたが・・・

「・・・ はい!」

『君達は、そこを出たときから反逆者として追跡されるだろう・・・』

 かつて全人類の命運を賭けた命懸けの任務を成し遂げた若者達・・・
 そして、その困難で長大な旅に命を賭した心からの戦友の部下達・・・
 それを罠に掛ける私は地獄へと落ちるだろう・・・

『かつての栄光を担った君達を思うと残念でならない・・・
 考え直してくれ、古代!』

「長官! 我々もヤマトの栄光と苦難を忘れてはいません。
 だからこそ! だからこそ行くんです!!」

 全くの純粋な正義感からくる古代の燃えるような瞳を直視することができなくなった長官は、涙を見せまいとするように目線を伏せると目を閉じた。

「艦内全機構異常なし。 エネルギー正常」

『補助エンジン出力安定。 波動エンジン起動回路確認よろし』

「長官! 行きます」

 徳川機関長よりの報告を聞いた古代は、モニター越しの藤堂長官へ綺麗な宇宙軍式の敬礼を送ると、自分への気合とともにヤマトの発進を告げた。


『古代・・・』
 


「総員乗リ組ミ完了シマシタ」

「いい加減なことをいうな、アナライザー!
 オレが躁艦しなくちゃならないのはどういうわけなんだ?!」

 出航予定時刻の繰上げにより必要物資の積み込み確認など手一杯の主計科の仕事を全員で行っている船務班に替わって、ヤマトのメインコンピューターへ接続されたAN8001/H1000アナライザーは乗組員の確認作業を行っていた。

「アリャ コリャシクジッタ・・・」

「タラップを上げろ! 全艦出航用意!」

「古代!」

 旧司令本部での集まりでも重い返事だった島大介が乗り組んでいない・・・
 古代の命令に驚きの声を上げる真田に古代は苦渋の表情を見せる。

「これ以上待てません。 出航します!」

『タラップ格納! 気密確認よろし!』

 古代の変らぬ決意に静かに頷いた真田は、全艦の安全確認を終えるとコム端末を通して03ドックへの注水を呉軍港コントロールセンターへ要請する。

「呉コントロールへ・・・ ドック注水願います」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「第403ドックへ注水はじめ!」

「司令! 防衛軍命令に逆らっては・・・」

 慌しいヤマトへの物資搬入に続いて要請の入った注水を迷わずに命じたの呉補給処司令に、第403ドックの当直士官である一尉は自身の制御卓から振り返り不安の声を上げるが、出航への最終準備に入ったヤマトを眩しげに見詰めていた司令は、澄ました顔に片眉を僅かに上げると背中越しに言葉を発する。

「んん? よく確認してみろ、我々には直接の作業中止命令など出ていないぞ。
 司令本部からの命令は、あくまでヤマト乗組員へ向けられたものだ」

「えっ? ああ、確かに・・・ そうですな」

 司令のとぼけた表情に吹きだしそうになるのを必死にこらえた一尉は、復唱を返しながら素早くドック注水のためのコマンドを軍港コントロール端末に入力する。

「03ドック水密確保よろし、注水はじめ」

『03ドック後部隔壁閉鎖確認よし! 注水用意全てよろし!』

〈沖田さん・・・〉

 2199年5月、第三次火星域会戦での第一遊撃艦隊旗艦「えいゆう」の僅かな生き残り士官であった能村次郎一佐(当時二佐)は、かつて自分達が文字通り命に代えて守ったフネの新たな旅立ちに、パワーアシストされた車椅子の上で可能な限り上半身の姿勢を正すと、防衛軍礼則と慣習には反するが残っている左腕での心からの海軍式敬礼を捧げ続けた。


 

−白色矮星到来といわれる日まで、あと154日・・・ あと154日−
 

 
 Farewell 2.2 月面基地
Lunar base of Terra Defense Force


「水位50・・・60・・・70・・・80・・・
 水位艦橋を越えます・・・ 安全水位確認よし」

 ドック全体への注水により第一艦橋前面窓も完全に水の中に沈み水中での十分な浮力を得られるようになったのを確認した古代は、ヤマトをドックへ固定している船台ロックを開放する命令を出した。

「両舷バランサー始動はじめ。 ガントリーロック解除」

『トリム安定しています。 水平問題なし』

「ようそろー ガントリーロック解除」

 艦底から遠く離れた艦橋へも鈍く響く金属製の巨大なロックが外れる振動と、計算値との誤差により調整のズレている浮力によって僅かに沈み込みながら右舷へと傾く船体の動きが感じられるが、水中での自由を得たヤマトに出航へ向けての命令が続いていく。


「もやい離れました。 出航安全確認よろし」

『前方進路障害物なぁ〜し!』

「左舷クリヤー」

「右舷クリヤー!」

「よし。 補助エンジン出力1/4。 微速前進0.5・・・」

「補助エンジン動力接続。 出力1/4。 両舷バランス正常、パーフェクト・・・」

 元々は航宙機のエースパイロットであった古代だが、大型艦艇の躁艦は得意とはいえないどころではなく波動砲発射の短時間の間でも苦労するレベルで、ましてや初めての水中機動とあってはフネを真っ直ぐ進めるだけでも冷や汗があふれ出してくるのが実態だ。

〈島。 お前がいてくれたら・・・〉

〈古代・・・〉

 本当のところは航海長の島大介がいないとはいっても躁艦は残った本職の航海班に任せたいところではあったが、人員不足の著しい航海班は突然のヤマト出航に対して航路計算を行うのに手一杯で、何時ものように自信満々の態度を示す古代が引き受けたのであった。

『メインゲートオープン』

「メインゲートオープン!」

 ドックが完全に満水したことを確認した呉軍港コントロールから連絡を受けた真田技師長が、ドックから海へと続くメインゲートが開放したことを報告する。


「ヤマト海中へ侵入します」

「・・・・・・」

 水流が完全にコントロールされているドック内と違って自然の海流がある海中へでることに一段と緊張した古代は、無言のまま汗の滲んだ手でヤマトの舵を握っている。

「波動エンジン内エネルギー注入・・・」

「補助エンジン、第二戦速から第三戦速へ・・・ 海面まで後6分」

 ヤマトは宇宙戦艦であり、元々の戦艦大和の基本スタイルを色濃く引き継いでおり、水中での運動性など設計時に考慮されているわけもなく、慣れない舵を握る古代は30ノット(時速約50キロ)に達する第三戦速まで加速した船体を必死に制御しようとするが、徐々に大きくなる船体の動揺に艦橋内のクルーにも隠し切れない不安が広がる。

「波動エンジン内圧力上昇・・・ エネルギー充填90%」

「波動エンジンへの閉鎖弁オープン。 波動エンジン始動まであと5分」

 いつもの機関室ではなく第一艦橋で古代のサポートをする徳川機関長も、ベテランの島と違い素人を誘導するように細かく報告を上げていくが、刻々と迫る海面に緊張を隠せない。

「落ち着け古代。 海面へ出ると同時に波動エンジンに点火してジャンプするんだ」

〈海中から空中への直接飛翔・・・ 本当にオレに出来るのか・・・〉

 硬い表情のまま真田へ頷いたのはいいが、水中での躁艦が初めてな古代にとって、もちろん海中から空中への飛翔などシュミレーションにおいても経験などなく、全くの未知の世界の話であり、刻々と迫る現実に一気に汗が吹き出てくる。


「補助エンジン水中内最大推力。 上昇角20度。 海面まで後3分」

「補助エンジン出力最大。 波動エンジン充填100%」

「波動エンジン点火2分前・・・」

「んっ?!」

 カウントダウンが続けられ高まる緊張に強張った肩に突然背後から優しく手が添えられ、反射的に振り返る古代の瞳に優しく微笑む待ちに待った笑顔が大きく写る。

「古代。 上出来だよ・・・」

「島〜!」

「話は後だ・・・ オレが替わろう」

 微笑みをたたえたまま古代と席を替わった島は、懐かしいヤマトの航海長席の感触を楽しむようにゆったりと座り込むと、目の前の計器類を素早く確認していった。

「フライホイール接続1分前・・・」

「海面まで後45秒。 現在補助エンジン水中最大戦速」

 さすがに見違えるほど安定した航行を見せるヤマトであったが、島といえども実際には経験したことのない機動に一つ一つの手順を確認するように徳川機関長ともに丁寧に躁艦を進めていく。

「波動エンジン充填120% フライホイール接続30秒前」

「該当海面に障害物なし」

「フライホイール接続20秒前・・・」

 海面が目前に迫り、徐々に透ける太陽の光が第一艦橋にも明るさをもたらし、キラキラとした波の煌きまでが感じられるようになるが、それにともない伝わってくる海面近くの揺れを島航海長は微妙に調整しながら空中跳躍へのカウントダウンを続ける。

「波動エンジン点火10秒前」

「艦首海面へでます」

「5・・・4・・・3・・・2・・・1」

「フライホイール接続! 点火!!」

 波動エンジンの点火する轟音をともなって海面から力強い噴射出力により一気に飛び出したヤマトは、島航海長の躁艦の癖である若干右舷に傾いた姿勢のまま、遥か水平線上に輝く太陽へ向かって晴れ渡った青空を濃紺の宇宙目指して一気に駆け上っていった。

「ヤマト発進!」
 


「大気圏内航行体勢、安定翼展開」

『ようそろー 安定翼、開き方用ぉ〜意!』

「上昇角40度。 姿勢安定。 慣性コントロール正常」

 船体各所から流れ落ちる海水に眩い太陽の光が反射した煌きを全身にまとったヤマトが、大きく展開した主翼の浮力と重力コントロールにより急速に上昇していき、艦尾後方からは波動エンジンの轟音が大きく海面に響き渡る。

「現在高度4,000メートル。 安全高度確認よろし」

「上昇角45度。 波動エンジン大気圏内出力一杯へ」

 日本地区では、もはや障害物となるものがない安全高度に達したヤマトは、エンジン出力を上げると更なる急角度で大気圏外へ向けて進んでいく。


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「くう・・・ もはや情状酌量の余地はなくなった!
 月面基地に阻止命令を出せ!」

「総参謀長。 黙って行かせてやれんか?」

「長官! このまま命令無視を見逃すことはできません!
 こうなったら防衛軍の威信にかけてヤマトを断固阻止します!」

 今回の阻止行動に対して長官の黙認を得ている総参謀長は、真っ向から反対することのできない藤堂の立場を分かっており、もはや司令長官代理といってよいほどの全面的な命令を下していく。

「・・・・・・」

「火星付近のアンドロメダにも連絡するんだ!」

 地球防衛軍指令本部中央作戦指揮室で次々に命令を出し続ける総参謀長に背を向けた藤堂長官は、ひとり窓際へ寄ると遥か遠くを上空へ向けて上昇していくヤマトへ向かって海軍式の敬礼を送り続けていた。

「沖田の子供たちが行く・・・」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「大気圏脱出10秒前・・・ 安定翼収納」

『安定翼、収め方用ぉ〜意!』

『フラップ及び各補助舵定位置格納確認よし』

『両舷主安定翼、船体固定ロック一番二番解除よろし』

 高度10万メートルを超えて大気の薄くなった現状では効果の得られなくなった安定翼を収納したヤマトでは、艦内各所で宇宙空間での航行へ向けての準備が慌しく行われているが、大気の流れによる影響がなくなっていくことにより島にとっては躁艦に余裕がでてきていた。

『安定翼、船体格納固定確認よろし』

「地球引力圏離脱します」

「波動エンジン出力上昇。 第二宇宙航行体制」

「第二宇宙航行体制。 ようそろー」

 完全に地球の引力影響圏を脱したヤマトでは出航時配置態勢が解かれ、舵を握る島航海長以外が席を離れられるようになると、それぞれが自然に青く輝く地球に向けて宇宙軍式の敬礼を送っていく。

〈多くの犠牲を払って取り戻した青い輝き、この美しい地球を永遠に守らなくてはならない〉

 改めて暗黒の宇宙空間に浮かぶ宝石のように光り輝く地球を見詰めた乗組員達は、その美しさとともに自分達が守らなくてはならない責任が心の奥底から湧き上がってくるのを感じていた。


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「レーダーに反応! 10時方向、距離4,000宇宙キロ! 航宙機多数!」

 神経が張り詰める出航作業が一段落して乗員の間に広がるホッとした気持ちも束の間、太田航宙統制官の鋭いレーダー報告に第一艦橋内は再び緊張に包まれる。

「どうやら月面基地の航宙隊だな・・・
 とうとう本格的な阻止行動にでてきたか?」

 ガミラス戦役末期の主力機であったF-96コスモタイガーと見た目はほとんど変わらないが、ミツビシ・イシカワジマとの技術提携によりエンジン換装を含む全面的な刷新を受けた新主力機のF-04コスモタイガーUは、コスモゼロの性能をも一部取り入れた全くの新型機と呼んでもよいほどの著しい性能向上を見せており、今年に入って順次機種更新が進んでいる。

「コスモタイガーU16機! 急速に近付く! 距離2,000!」

「・・・ 全艦戦闘配置!」

「古代?」

 地球防衛軍艦政本部航宙局による戦力評価シミュレーションによれば、従来のF-96Bコスモタイガー改40機分の戦力となるF-04コスモタイガーU16機の本格的な攻撃をまともに受ければヤマトといえども無事に済むとは考えられない。
 その事実を直接知る、艦政本部とも密接な交流のある中央技術研究本部長であった真田代将は不安の声を上げる。

『全艦戦闘配置! 全艦戦闘配置! 総員対宙戦闘に備え!』

「全パルスレーザー群、手動管制による自動追尾開始」

「煙突上部扉全開放、VLS対宙迎撃誘導弾発射用意よし」

 ヤマト艦内では、主砲、副砲はもちろん、防宙戦力の主力となるパルスレーザー砲塔、煙突ミサイル発射管制室等の配置に付いた乗組員が、刻々と近付く航宙隊に照準を合わせながら固唾を呑んで次なる命令を待ち続ける。

「・・・・・・」
 


「目標まで距離1,000!! 間もなく攻撃圏内に入ります!」

「・・・・・・」

〈本当に味方を撃つのか・・・〉

 航宙隊がヤマトの行動を妨害する存在だとしても防衛軍の命令に従っているに過ぎず、戦闘状態に陥る事態は考えたくもないのは実際に全員の気持ちであるのは間違いない・・・
 宇宙の平和を守るという気持ちで防衛軍命令に逆らってまで出航したにも関わらず、味方の命を奪うことになるのでは何のための行動か全く分からない。

 ものの数秒が数時間に感じられる極度の緊張の中で、見詰め続けるメインパネルに写るコスモタイガーUの機体に微かな動きが見られる。

「???」

〈これは、バンクを打っているんじゃないのか?〉

 すがるような期待の余り都合よく見えてしまうのかもしれないが、確かにパネルに写るコスモタイガーUは微かに左右に翼を振っているようにも見える。


「・・・・・・」

『こちら、元ブラックタイガー隊加藤三郎! ヤマト着艦を許可されたい!』

 不安の混じった気持ちのままメインパネルを見続けるヤマトクルーに懐かしい声が聞こえてくる。

 不安は一瞬で喜びの歓声に変わり、第一艦橋内には喜びの声に重なって引き続いての無線通信が入り続けている。

『こちら月面基地第三航宙隊所属山本明。 ヤマト航宙隊に参加したし!』

『統合地球軍航宙教導隊所属森雪。 ヤマト乗艦願います』

 メインパネルに拡大して映し出されたコスモタイガーUは完全に動きが分かる大きさに近付いており、ヤマトに対する着艦動作を取っているのがコンピューター軌道予測にも表されている。

「おお〜! 加藤と山本が! 雪さんもいるぞ!」

〈雪・・・〉

 今回の一連の騒ぎにより月面基地から統合地球軍への異動が遅れていた森雪三佐のヤマト乗艦に複雑な表情の古代は、他の乗組員の手前があり言葉には出せなかったが心の中には言い知れぬ感情が渦巻いていた。

『おい! 何をモタモタしている! 早く着艦口を開けんか!!』

 それぞれの感情が渦巻く中、第一艦橋には笑いを含んだ加藤の怒鳴り声が響いていた。


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「加藤! 山本! 飛田! 鶴見!」

 次々に着艦してくるコスモタイガーUを出迎えるために艦尾格納庫へ続々と集まってきた古代たち旧乗組員を中心とするクルーは、キャノピー越しに懐かしい顔を見付ける度に歓声を上げながら着艦エリアにまで入り込んで出迎えた。

「地球防衛軍二等宙佐加藤三郎以下航宙隊15名、ヤマト乗艦許可願います」

「乗艦許可します」

 近代化改装によって小型化された波動エンジンにともなって拡張された真新しい艦載機格納庫へ真っ先に降り立った加藤は、機体が停止するのももどかしくコクピットから這い出ると、懐かしさの感傷に浸る間もなく出迎えた古代と型通りの堅苦しいやり取りを終えて何時もの加藤節を発揮する。

「ひどいぞ! 俺たちを置いていくなんて!」

「すまん。 すまん。 突然で仕方がなかったんだ」

 加藤に続いて、一機、また一機と格納庫の駐機ハンガーに係留された真新しい機体から久しぶりのヤマトへ降り立ったパイロットたちは、次々にヘルメットを外して笑顔を見せると、それぞれに集まった懐かしい旧友からの手荒い歓迎を受けていく。

「おい! 山本ぉ〜! 幽霊じゃないだろうなぁ〜」

「ふっ・・・ ちゃんと足は二本とも付いてるよ」

「こいつ、心配かけやがって〜」

 イスカンダルへの航宙で重症のまま地球へ帰還し、そのまま病院送りとなっていた山本と本当に久しぶりに再会した同期の相原と太田は、機体から降りてくるのを待ちきれずに誘導員の制止を振り切って着艦したばかりのコスモタイガー山本機へ取り付いている。

「しかし、月面基地でも大騒ぎだぜ! ヤマトが謀反を起こしたってな」

「はっはっはっ! そりゃ、いいやぁ〜」

 懐かしい戦友からの手荒い歓迎と握手攻めの人の輪から抜け出した加藤は、再び古代と相対すると笑顔一杯で固い握手を交わしていった。

「それにしても航宙機を持ってきてくれたのは助かるよ。
 突然のことでヤマトには戦闘機が一機もなかったからな」

「今度のコスモタイガーUは凄いぞ! もう艦長代理の出番なんてないですよ!」

「言うなぁ〜 こいつ!」


「雪さん」

「ふぅ〜」

 最後に着艦したコスモタイガーUのコックピットから降りてきた痩身のパイロットがヘルメットを外すと、長い黒髪がオレンジ色の航宙機搭乗用耐圧服の肩に鮮やかなコントラストを見せて流れ落ち、切れ長の涼しげな瞳がゆっくりと見開かれる・・・

「雪・・・」

 本来であれば今回の移動で後方の教導隊教官配置となり、週末には古代との結婚式を迎えるはずだった森雪との思いもしない形での再会に、古代は続く言葉が見つからず沈黙した。

「元ブラックタイガー隊森雪。 ヤマト航宙隊への参加を希望します」

「雪・・・ 君は・・・」

「古代さん・・・」

 それまでの和やかな喧騒が一瞬で引いた格納庫に二人だけの世界が広がっていく・・・

「バカだよ、君は・・・ せっかく地球に戻れるっていうのに・・・」

「古代さんがいくなら、私も・・・
 もう、一人にはなりたくない」

 ガミラスとの戦乱で全ての血の繋がった家族を失っていた古代は、雪の重く心に響く言葉にただ無言で見詰め返すことしかできなかった。


『レーダーに未確認物体捕捉! 全艦警戒態勢! 全艦警戒態勢!』

「?!」

 それぞれの感傷に浸るのも一瞬で、艦内に流された当直の島航海長の警告放送に総員が慌しく持ち場へと走りだす。


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「どうした! 島!」

 第一艦橋へ駆け込んだ古代は航海長席の島へ駆け寄るが、無言で指差す島に導かれて艦橋上部に設置されたメインスクリーンを見上げる。

「・・・ アンドロメダか?」

 第15空間護衛隊として地球帰還時に接触していた古代が得ていた輻射紋データーにより、早期に宇宙背景放射より分離できた熱光源データーからアンドロメダを捉えたヤマトは、メインスクリーンにCIP(Computer Image Profiling)されたその強大な新型戦艦の三次元映像を映し出していた。

「くそぉ〜! いよいよ防衛軍も本気だな!」

 メインスクリーンに真っ直ぐ向かってくるアンドロメダの水平二連の波動砲口が威喝的な艦首が写しだされ、それぞれに見上げる第一艦橋のメインクルーにも動揺が広がるが、古代は自身の動揺を抑えるように抑えた声で静かに命令を発する。

「総員戦闘配置。 対艦戦闘用意」

「古代?!」

「針路、速度、そのまま・・・」


『総員戦闘配置! 総員戦闘配置! 対艦戦闘用意!』


 

−白色矮星到来といわれる日まで、あと153日・・・ あと153日−
 

 
 Farewell 2.3 アンドロメダ
TDF Space Battleship Andromeda


「長官。 艦首正面12時方向にヤマトを捉らえました。
 距離1万8,000! 23.5宇宙ノットで航行中」

「ヤマトの動きはどうだ・・・ こちらを捉えているか?」

 艦橋を埋め尽くす最新の電子機器の表示が煌く中、オペレーターたちが次々ともたらす報告を聞きながら後方上段のコマンダーシートに座る土方竜地球防衛艦隊司令長官は、直前左の副官席に座るいかにも切れ者という空気をまとった若い一佐に確認のための質問を投げかける。

「輻射紋データーを持っていないヤマトでは、熱光学迷彩を含む全面光電磁波管制を行っている本艦を8,000を切らなくては捕捉は難しいと思われますが・・・」

「しかし・・・ 相手は、あのヤマトだ。 油断はするな!」

〈長官・・・ あんな退役寸前の旧式艦に何を・・・〉

 先のガミラス戦において前線で戦った将兵のほとんどを失ったといってよい地球防衛軍は、急速という言葉では足りないほどの爆発的な拡大を遂げた艦隊戦力に人員が追いつかず、新型艦艇の人員省力化を徹底的に進めたが、若過ぎる乗組員の実経験不足は如何ともし難い。

「ヤマトまで距離1万5,000! 方位変わらず!」

「よし、総員戦闘配置! 両舷全速。 一気に距離を詰めるぞ!
 本艦の任務はヤマトの迎撃だ。 各員、それぞれの任務をまっとうせよ!」

『戦闘配置。 両舷全速。 対艦戦に備え』

『全艦戦闘配置! 全艦戦闘配置! 総員対艦戦に備えよ!』

 CIC(中央指揮所)に移った艦体総統制官(実質的な艦長)の最終的な命令に、戦闘艦橋のメインパネルに赤い警告文字が大きく表示されるとともに10万トンの巨大な艦内全域に大音響の戦闘配置命令と警告灯の点滅が広がるが、慌しくなるほどの人員の動きは見られない、主砲塔や機関室はもちろんほとんどの艦内主要設備が艦橋から集中コントロールされるアンドロメダには、艦橋とCIC以外に配置された人員は物理的なダメージコントロールを行う空間騎兵隊員12名を含む30名ほどに過ぎない。


「ヤマトに変った動きはないか?」

「はい。 針路速度、エネルギー反応とも変らず・・・ 距離1万2,000」

 アンドロメダ艦橋にもヤマトへ接近するとともに緊張感が高まっていくが、コマンダーシートで四面備わった広大なメインパネルに次々と表示される画像やデーターを見詰める土方には、変った動きが全く見られないことに理屈ではない言い知れぬ違和感を感じていた。

〈あのヤマトだ・・・〉

「うむっ 特に艦載機に注意せよ」

「はっ! 対宙警戒を厳とせよ!」

 ガミラス戦での戦訓から太陽系内域での迎撃戦を重視して整備された現在の地球連邦艦隊は、航洋性を捨てた重武装と単艦ごとの任務分担を大幅に進めたのが特徴で、人員不足も合わさって航宙機は新たに建造された12隻のM-22041式オリオン型航宙母艦を有する強大な三群の宙母機動部隊と、月面基地を中心とした基地航宙隊に集中配備されている。

「距離1万! 方位変らず!」

「・・・・・・」
 


「アンドロメダ方位変らず! 距離9,000!」

 全乗組員が戦闘配置に着き張り詰めた緊張感の支配するヤマト第一艦橋に、メインパネルに写るアンドロメダが大きく迫ってくるとともに太田航宙統制官の緊迫した報告だけが響き渡る。

「古代。 撃つなよ・・・ 撃ったら何もかもが終わりだぞ」

 メインパネルのアンドロメダに意識を吸い込まれたように見詰め続ける古代の横顔に、主任分析制御席に座る真田技師長が落ち着かせるように静かに忠告する・・・

「・・・・・・」

 実際、発砲をためらうであろうアンドロメダに先制して4,200宇宙キロの最大射程から全力斉射したとしても、一撃で強靭な防護力を誇るアンドロメダの戦闘能力を完全に奪えるとは思われず、本格的な砲撃戦に持ち込まれればヤマトに生き残る可能性はほとんどないといってよい。


「艦長代理! アンドロメダより入電です」

「古代。 話し合え。 土方長官と話し合うんだ」

 真田の助言に頷いた古代は、一息落ち着きを入れると相原通信士へ努めて冷静に命ずる。

「メインパネルに写してくれ」

「メインパネルに投影します」

 メインパネルに大きく映し出された、超近代的な機器類に埋め尽くされた艦橋後部を背景にした濃紺の宇宙防衛軍第一種軍装姿の土方司令長官とスクリーン越しの敬礼を交し合った古代は、たじろぐことなく土方の瞳を見詰め続ける。


『古代。 わたしの性格は分かっているはずだ・・・
 多くは言わん。 戻れ・・・』

「長官! 長官も、あの通信のことはご存知のはずです。
 この宇宙で何か重大なことが起こっているんです。 見逃すことはできません!」

 その性格そのままに単刀直入に切り出した土方に古代は真っ向から意見を具申していくが、直接の防衛軍命令を受けている土方には取ることのできる行動は限られている。

『否定はせん。 しかしヤマト一隻でどうしようというのだ・・・
 悪いことは言わん。 戻れ!』

「戻りません! 宇宙の平和を守る! それがヤマトの、我々の使命です!」

 最初から予想されたことではあるが、全く違った立場に立っている実直な性格の二人が話し合っても接点が交わることはなく、同じ主張を繰り返す時間だけが過ぎ、刻々と両艦の距離が詰まっていく。

『どうしても命令に従わないとなれば実力で阻止することになる』

「覚悟の上です!」

 距離が迫り、とうとう致命的な言葉を交し合った二人の間に一瞬の沈黙があったが、土方の覚悟を決めた一言が最後に伝わってくるとスクリーンの映像が消える。

『分かった・・・』

「・・・・・・」

 通信回路が閉じられ、アンドロメダの映像と各種データーの表示に戻ったメインスクリーンを誰もが無言で見詰めたままだったクルーの間に太田航宙統制官のレーダー報告が鋭く響く。

「距離5,000。 アンドロメダ右舷へ回頭中!」

 全砲門をヤマトへ向け威圧するために、最大射程距離付近で面舵を取って左舷を向けつつあるアンドロメダの動きに、この瞬間を待っていた古代は鋭い命令を発する。


「全艦、波動砲用意! 目標、艦首正面アンドロメダ」


「!」

「!!!」

 全く思いもしなかった命令に息を呑み悪魔の姿を恐る恐る振り返るように一斉に第一艦橋のクルーが目を見開き古代の横顔を見つめる中、その無表情な瞳に魅入られながら真田が全てを諦めるように絶句する。

「古代!! 正気なのか?!」
 


「長官! ヤマト艦首波動フィールド展開!!」

 4,500宇宙キロ付近のヤマト主砲九九式18インチ衝撃砲射程外で面舵を取り、射程距離で勝り圧倒的に強力な12門の四式改二型20インチ衝撃砲でのアウトレンジ態勢によりヤマトの行動を抑止しようと考えていたアンドロメダ艦橋に恐ろしいほどの衝撃が走る!

 まさか、味方艦に波動砲を撃つ気なのか?!

「古代・・・」

「長官!!」

 アンドロメダ艦首に二門装備された新型の拡散波動砲は、M-21991式ヤマト型に比べ威力は二倍ほどの圧倒的エネルギー係数であり、大幅に出力の上がった主機関とも相まってエネルギーチャージ時間も半分ほどに短縮されているが、右舷への回頭中で行き足の付いた艦首を正面へ戻すのには10万トンの質量にともなった時間が掛かる。

『最大脅威レベルを探知確認。 全艦非常緊急加速開始します』

「両舷全速! 緊急離脱!! 総員衝撃に備えろ!」

「機関全力発揮中!!」

 ヤマトの波動砲発射準備に伴う反応を捉えたアンドロメダは、備わった自動回避システムによりヤマトの充填に掛かるタイムラグの間に波動砲影響圏から離脱すべく全力での緊急加速を実施し、艦橋は戦闘準備どころではなく生存本能が勝った大混乱へ陥っていく。

「回避しろ!! 全力回避だ!!」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「島?」

「航路計算は終わっているよ」

 途中で古代の狙いに気付いた島航海長は既に航路計算を含むワープ準備を全て終わらせており、古代の問い掛けに笑いを含んだ言葉を穏やかに返す。

「さすが島だ」

 第一艦橋前部中央の戦闘班長席に立ち上がって右隣の席に座る島へ同じような笑顔を返した古代は、呆気に取られて固まっている他のクルーへグルリと視線を回す。

「お前には負けたよ・・・ 古代」

 一瞬早く意味に気が付いた真田の自照を含んだ苦笑いに続いて、各席に付いている乗組員がそれぞれの性格を現した反応を返していく。

「艦長代理!」

「古代さん・・・」

「すげぇ〜」

「はっはっはっ」

 第一艦橋内には一瞬の緊張が途切れた穏やかさが広がったが未だ完全に危機が去ったわけではない、全クルーは各自の制御卓へ意識を戻すとワープへの最終準備を行っていく。


『全艦ワープ態勢! 全艦ワープ態勢! 総員ベルト着用!』


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「くそぉ〜 やられた! 急速回頭! ヤマトの頭を抑えなおせ!」

「やめろ! もういい・・・ 行かせてやれ」

「しかし、長官・・・ ここで見逃しては長官のお立場が?」

 ヤマトの作戦に騙されたことに気が付いた副官が慌てて大声で命じるが、強力な新波動機関の緊急全力加速により8,000宇宙キロまで一気に離れたアンドロメダを、溜まった膨大な慣性速度を殺して再び戦闘可能宙域へと戻すにはしばらくの時間が掛かる。

 メインパネルには接的可能航路と作戦可能行動のデーターがさまざまに表示されていくが、土方長官は怒り立つ副官を制して静かに命じる。


「沖田の子供たちだ・・・」

「長官・・・?」

 端から乗り気な命令ではなかったが、実直な土方提督は命令は命令と割り切って全力でヤマトの阻止行動を取ったつもりだった・・・
 メインスクリーンに写る、見違えるほどに成長したかつての教え子の指揮するフネを眩しげに見詰めながら土方は姿勢を正すと一人海軍式の敬礼を送り続けていた。

〈やってくれたな・・・ 古代〉


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「古代さん。 アンドロメダより閉塞回路でレーザー通信です」

 他に傍受される恐れがほとんど考えれない利点はあるが、余りにも通信範囲が局限されているために戦闘時でも滅多に使われることがない主砲を使用したレーザーによるピンポイント指向通信が入ったことを相原通信士が古代へ伝える。

「読んでくれ・・・」

「貴艦の航宙の安全と無事を祈る。 地球連邦艦隊司令長官土方竜!」

 相原通信士が読み上げる電文が静まり返った第一艦橋へ広がり、それぞれの胸に響いてくる。

「土方長官・・・ 分かっていたのか・・・」

「土方教頭・・・」

 十数年前、宇宙戦士訓練学校の恩師であった土方からの心遣いを感じ取った古代は、防衛軍での自身の立場を危うくしかねない行動に心からの敬意を込めてアンドロメダ方向へ向けて宇宙軍式敬礼を捧げ続け、他のクルーもそれぞれに立ち上がり姿勢を正すと右腕を胸に当てた。


「よし。 ワープだ!」


 

−白色矮星到来といわれる日まで、あと152日・・・ あと152日−
 

 
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