「目標まで距離1,000!! 間もなく攻撃圏内に入ります!」
「・・・・・・」
〈本当に味方を撃つのか・・・〉
航宙隊がヤマトの行動を妨害する存在だとしても防衛軍の命令に従っているに過ぎず、戦闘状態に陥る事態は考えたくもないのは実際に全員の気持ちであるのは間違いない・・・
宇宙の平和を守るという気持ちで防衛軍命令に逆らってまで出航したにも関わらず、味方の命を奪うことになるのでは何のための行動か全く分からない。
ものの数秒が数時間に感じられる極度の緊張の中で、見詰め続けるメインパネルに写るコスモタイガーUの機体に微かな動きが見られる。
「???」
〈これは、バンクを打っているんじゃないのか?〉
すがるような期待の余り都合よく見えてしまうのかもしれないが、確かにパネルに写るコスモタイガーUは微かに左右に翼を振っているようにも見える。
「・・・・・・」
『こちら、元ブラックタイガー隊加藤三郎! ヤマト着艦を許可されたい!』
不安の混じった気持ちのままメインパネルを見続けるヤマトクルーに懐かしい声が聞こえてくる。
不安は一瞬で喜びの歓声に変わり、第一艦橋内には喜びの声に重なって引き続いての無線通信が入り続けている。
『こちら月面基地第三航宙隊所属山本明。 ヤマト航宙隊に参加したし!』
『統合地球軍航宙教導隊所属森雪。 ヤマト乗艦願います』
メインパネルに拡大して映し出されたコスモタイガーUは完全に動きが分かる大きさに近付いており、ヤマトに対する着艦動作を取っているのがコンピューター軌道予測にも表されている。
「おお〜! 加藤と山本が! 雪さんもいるぞ!」
〈雪・・・〉
今回の一連の騒ぎにより月面基地から統合地球軍への異動が遅れていた森雪三佐のヤマト乗艦に複雑な表情の古代は、他の乗組員の手前があり言葉には出せなかったが心の中には言い知れぬ感情が渦巻いていた。
『おい! 何をモタモタしている! 早く着艦口を開けんか!!』
それぞれの感情が渦巻く中、第一艦橋には笑いを含んだ加藤の怒鳴り声が響いていた。
* * * * * * * * * * * *
「加藤! 山本! 飛田! 鶴見!」
次々に着艦してくるコスモタイガーUを出迎えるために艦尾格納庫へ続々と集まってきた古代たち旧乗組員を中心とするクルーは、キャノピー越しに懐かしい顔を見付ける度に歓声を上げながら着艦エリアにまで入り込んで出迎えた。
「地球防衛軍二等宙佐加藤三郎以下航宙隊15名、ヤマト乗艦許可願います」
「乗艦許可します」
近代化改装によって小型化された波動エンジンにともなって拡張された真新しい艦載機格納庫へ真っ先に降り立った加藤は、機体が停止するのももどかしくコクピットから這い出ると、懐かしさの感傷に浸る間もなく出迎えた古代と型通りの堅苦しいやり取りを終えて何時もの加藤節を発揮する。
「ひどいぞ! 俺たちを置いていくなんて!」
「すまん。 すまん。 突然で仕方がなかったんだ」
加藤に続いて、一機、また一機と格納庫の駐機ハンガーに係留された真新しい機体から久しぶりのヤマトへ降り立ったパイロットたちは、次々にヘルメットを外して笑顔を見せると、それぞれに集まった懐かしい旧友からの手荒い歓迎を受けていく。
「おい! 山本ぉ〜! 幽霊じゃないだろうなぁ〜」
「ふっ・・・ ちゃんと足は二本とも付いてるよ」
「こいつ、心配かけやがって〜」
イスカンダルへの航宙で重症のまま地球へ帰還し、そのまま病院送りとなっていた山本と本当に久しぶりに再会した同期の相原と太田は、機体から降りてくるのを待ちきれずに誘導員の制止を振り切って着艦したばかりのコスモタイガー山本機へ取り付いている。
「しかし、月面基地でも大騒ぎだぜ! ヤマトが謀反を起こしたってな」
「はっはっはっ! そりゃ、いいやぁ〜」
懐かしい戦友からの手荒い歓迎と握手攻めの人の輪から抜け出した加藤は、再び古代と相対すると笑顔一杯で固い握手を交わしていった。
「それにしても航宙機を持ってきてくれたのは助かるよ。
突然のことでヤマトには戦闘機が一機もなかったからな」
「今度のコスモタイガーUは凄いぞ! もう艦長代理の出番なんてないですよ!」
「言うなぁ〜 こいつ!」
「雪さん」
「ふぅ〜」
最後に着艦したコスモタイガーUのコックピットから降りてきた痩身のパイロットがヘルメットを外すと、長い黒髪がオレンジ色の航宙機搭乗用耐圧服の肩に鮮やかなコントラストを見せて流れ落ち、切れ長の涼しげな瞳がゆっくりと見開かれる・・・
「雪・・・」
本来であれば今回の移動で後方の教導隊教官配置となり、週末には古代との結婚式を迎えるはずだった森雪との思いもしない形での再会に、古代は続く言葉が見つからず沈黙した。
「元ブラックタイガー隊森雪。 ヤマト航宙隊への参加を希望します」
「雪・・・ 君は・・・」
「古代さん・・・」
それまでの和やかな喧騒が一瞬で引いた格納庫に二人だけの世界が広がっていく・・・
「バカだよ、君は・・・ せっかく地球に戻れるっていうのに・・・」
「古代さんがいくなら、私も・・・
もう、一人にはなりたくない」
ガミラスとの戦乱で全ての血の繋がった家族を失っていた古代は、雪の重く心に響く言葉にただ無言で見詰め返すことしかできなかった。
『レーダーに未確認物体捕捉! 全艦警戒態勢! 全艦警戒態勢!』
「?!」
それぞれの感傷に浸るのも一瞬で、艦内に流された当直の島航海長の警告放送に総員が慌しく持ち場へと走りだす。
* * * * * * * * * * * *
「どうした! 島!」
第一艦橋へ駆け込んだ古代は航海長席の島へ駆け寄るが、無言で指差す島に導かれて艦橋上部に設置されたメインスクリーンを見上げる。
「・・・ アンドロメダか?」
第15空間護衛隊として地球帰還時に接触していた古代が得ていた輻射紋データーにより、早期に宇宙背景放射より分離できた熱光源データーからアンドロメダを捉えたヤマトは、メインスクリーンにCIP(Computer Image Profiling)されたその強大な新型戦艦の三次元映像を映し出していた。
「くそぉ〜! いよいよ防衛軍も本気だな!」
メインスクリーンに真っ直ぐ向かってくるアンドロメダの水平二連の波動砲口が威喝的な艦首が写しだされ、それぞれに見上げる第一艦橋のメインクルーにも動揺が広がるが、古代は自身の動揺を抑えるように抑えた声で静かに命令を発する。
「総員戦闘配置。 対艦戦闘用意」
「古代?!」
「針路、速度、そのまま・・・」
『総員戦闘配置! 総員戦闘配置! 対艦戦闘用意!』
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