「沖田艦長。 見てみぃ・・・ あんたの守った街の輝きを・・・
地下に逃れていた人類は再び地上に楽園を築こうとしている・・・
都市の光で夜空の星さえ霞んで見えるようだ・・・」
明日の可能性を夢見て歯を食いしばって耐えた戦時中と変らぬ夜空の星の輝きと張り合い、それを覆い隠すように無数に煌くメガロポリス大東京の巨大な光の渦・・・
大都市を見下ろすなだらかな丘の上に作られたガミラス戦役で命を落とした無数の宇宙戦士たちが眠る連邦記念墓地では、眼下の大都市を見守るように立てられた宇宙戦艦ヤマト初代艦長であった偉大な沖田十三名誉連邦軍会議議長たる宙将(戦死後二階級特進)を記念した巨大な銅像の前で白衣姿の佐渡酒造が一人一升瓶を抱えるように酒を飲んでいた。
「まるで、あのガミラスとの長く苦しかった戦の日々が夢のようじゃ」
「さぁ・・・ 呑んでくれ、艦長・・・
明日は、あんたの命日じゃからなぁ・・・」
無数の尊い人命と幾多の未来ある宇宙戦士を失ったガミラスとの激しい戦いも、宇宙の無限の広さと永遠ともいえる時の流れの中では一瞬のさざ波に過ぎず、もはや英雄の丘を訪れる人も絶えて久しい・・・
みんな、ヤマトやイスカンダルへの大航宙も忘れてしまったのかもしれない。
人々は現在の平和と繁栄を永遠のものと考え豊かな物質文明に酔っていた。
「んん? なんじゃい・・・」
一瞬、思ったよりも酔いが速く回ったかとも思った佐渡であったが、改めて見直して見るまでもなく目前で煌いていた大都市の光が急速に失われていき、僅かな非常灯だけの暗黒となった地上の上に煌きを取り戻した大宇宙の星の海が見違えるように明るく見えていた。
「何だかしらんが、星が綺麗になっていいわい。
明日まで、このままならいいがのうぉ・・・」
まるで未知なる宇宙の海を渡っていたときのように綺麗に見える星々に、佐渡はイスカンダルへの航宙を重ね合わせて沖田と語りながら一晩を飲み明かそうと思っていた。
「明日になれば、みんな集まってくる・・・
艦長。 あんたに会いにな・・・」
「佐渡先生〜!!」
「んんっ?!」
外灯も消えた暗闇の中、都市から続く道を駆け上がってくる人の声と大きく手を振る人影がかすかに見え、目を凝らす佐渡に闇の中から非常灯に淡く照らし出された懐かしい顔が徐々に見えてくる。
「おお〜 古代! 真田くんじゃないか」
「先生。 お久しぶりです!」
息を切らせて佐渡の前まで走ってきた制服姿の古代と真田は、銅像の沖田に向かって胸に拳を合わせる宇宙軍式の敬礼を捧げた後、破笑している佐渡に向き直って敬礼を交わす。
「いやぁ〜 すっかり立派になって見違えたぞ」
「佐渡先生は変りませんね〜」
都市全域の広範囲にわたって電力が止まって混乱するメガロポリスから徒歩で英雄の丘へやってきた古代と真田は、駆けつけ三杯とばかりに眼前に差し出されたグラスを苦笑いで受け取りながら銅像の前にそれぞれに陣取り懐かしい話を交わしていく。
「まぁ〜 おまえたちも呑め」
「おお〜い!」
「んん? おお〜 島、太田、相原じゃないか〜」
闇の中から、次々と懐かしい顔が現れてくる・・・
「徳川さん。 南部も一緒か〜」
「いや〜 東京中停電で酷い目にあいましたよ・・・」
明日の命日を待ちきれない地球にいる大方の戦友がそろう中、それぞれに久々に会った懐かしい顔と笑顔で近況報告や情報交換を交わしていく。
「久しぶりだな〜 島。
どうだい、空間輸送隊は?」
「はっはっ・・・ 宇宙の運び屋稼業だからな、たいくつだよ。
お前はどうだ、古代」
互いに宇宙に居るとはいっても配属の違うためにタイミングが合わず一年振りに顔を合わせた古代と島も、それぞれに背負う任務を忘れて懐かしい思い出に浸っていく。
* * * * * * * * * * * *
「総員整列! 沖田名誉連邦軍会議議長に敬礼!!」
近況報告も一段落して大方の旧ヤマト乗組員が揃ったところで、最年長の佐渡の号令で整列した全員が懐かしいヤマトの第一艦橋に立つ沖田元帥を思い出す、日本統合艦隊高級士官制服姿をかたどった銅像に向かって一斉に敬礼を捧げる。
「艦長。 地球に居るものは、ほとんど全員揃ったよ。
みな、それぞれに地球のために頑張っておる。
安心してくれ、艦長!!」
「はっはっはっ、懐かしいなぁ〜」
「古代さん。 雪さんは来られないんですか?」
「月面基地での引継ぎが長引いているらしくてな、明日の式典には間に合うはずだ」
それぞれに銅像の前で数人ずつの車座となったクルーたちは、佐渡が大量に持ち込んだ日本酒を酌み交わしながら時も忘れて談笑していたが、ところどころで怪しげな話も聞こえてくる。
「南部。 お前の実家はどうなんだ?
たかお型の巡洋艦はさっぱり配備されないが・・・」
「みんなも知っての通り、今や地球連邦軍の実権は北米欧州連合に完全に握られているからな。
極秘だった三連動干渉型ショックカノンの技術も実質はフェディラル・アームストロング社のものだ・・・」
初期の箱舟計画時から中心企業としてヤマトの開発建造に関わったことで波動機関に関連する新技術のほとんどを握っていた南部重工業も、北米欧州連合の台頭による日本排除のパワーゲームの流れの中で連邦軍はもちろん防衛軍の中枢からも徐々に追いやられていたのだ。
実際、新生地球連邦艦隊の基幹大型戦闘艦として戦時中に設計計画が開始され、戦後間もなく七万トン級主力戦艦の第一シリーズとして建造された8隻のM-22031式宇宙戦艦 ― G8(1,000万トン)級超大型遊星爆弾の被爆により完全消滅した都市であるトゥールーズ、ムンバイ、ワシントン、シャンハイ、サンパウロ、ノヴォシビルスク、ミカサ、ケーニヒスベルクの名を冠した旗艦設備戦艦 ― の建造に関わって以降、南部重工業による大型戦闘艦の受注実績はない・・・
「しかし、波動砲は?」
「フェディラル・アームストロング社は、拡散波動砲は独自技術だと主張している・・・」
イスカンダルからのヤマト帰還後、直ちに行われた地球防衛軍統合地球軍合同技術部特別調査委員会による徹底的な調査分析により、企業秘密をも含めて全ての技術を完全に暴かれていた南部重工業は、現実的には技術系企業の命といえる基幹技術の全てを奪われたといってもいい状態なのであった。
「ん! 何だ?」
「アンドロメダだ。 テスト航宙から帰ってきたんだ・・・」
英雄の丘の上空を眩い航宙灯と轟音を引きながら新横須賀軍港への帰還航路を取るフェディラル・アームストロング社製の巨大な戦艦アンドロメダにより宴を遮られた者たちは、それぞれに頭上を見上げながら驚きを含んだ声を上げるが、かなりのアルコールが入った南部康雄は自身の心の中の憤りを含めて拳を上げて怒りをぶつけていた。
「バカやろぉ〜〜〜!!」
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