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Space Battleship YAMATO Farewell 1
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Space Battleship ヤマト 2205

謎の白色彗星
 Farewell 1.0 予告・・・
The white comet of a mystery


 西暦2205年・・・

 総人口の8割に達する90億人以上を失い絶滅の危機に瀕した先のガミラス戦役終結から5年、宇宙戦艦ヤマトがイスカンダルより持ち帰った希少元素ガミラシュームにより地球に充満していた高濃度の放射能を除去した人類は、イスカンダル・ガミラスよりもたらされたオーバーテクノロジーにより地球環境の再構築を行うとともに、成体クローン技術を大規模に使用した人口急増による奇跡的な復興と経済発展を見せ、戦前を上回る繁栄と新たな溢れんばかりの物質文明を享受していた。

 さらには、この危機により完全な統一政体を実現した地球連邦政府により新たな地球防衛戦力としての地球連邦艦隊も整備され、強大な旗艦アンドロメダを象徴とする新造された波動砲装備戦艦36隻、航宙母艦12隻、巡洋艦84隻、駆逐艦・護衛艦560隻という先の戦役時のガミラス全艦隊をも遥かに上回る圧倒的な戦力が地球の絶対的平和を保障していた。

 しかし、苦しかった日々の記憶も薄れかけ新たな繁栄と平和に浸る人類に突然の不安が襲い掛かる・・・
 謎の相手からの不可思議な通信・・・
 メガロポリス東京の大停電・・・
 上空を飛ぶ未知の航宙機・・・
 太陽系外周第三艦隊に対する攻撃・・・
 金星太陽光発電所群の壊滅・・・
 刻々と迫り来る白色矮星・・・

 人類に新たな脅威が迫っているのだろうか?


 

−白色矮星到来といわれる日まで、あと158日・・・ あと158日−
 
 Farewell 1.1 新たな脅威
A looming crisis


「・・・・・・ 私は、ここに新たなる喜びと大いなる期待をもって新しい地球連邦艦隊旗艦となる宇宙戦艦アンドロメダの完成と竣役を、みなさまに御報告させて頂くものであります・・・」

 メガロポリス東京の新横須賀宇宙軍港に特設された雛壇の最上部では、軍港へ押し寄せた溢れんばかりの人々とTVモニターで見る無数の人々に向かって、昨年末にようやく行われた統一総選挙によりガミラス戦役中より臨時に取られ続けていた軍政に替わって選ばれた初の正式な地球連邦大統領となるロバート・A・ジェファーソンが、無数の有人無人カメラの砲列の中で止むことなく続くフラッシュと鳴り止まぬ拍手を受けながら絶大な自信のもと最新鋭戦艦進宙式の祝辞となる演説を行っていた。

「長く苦しい戦いだった銀河間大戦の痛手から、このように見事な復興を果たした地球を二度と再び不幸な戦火にさらすことがないよう今回新たに整備された旗艦アンドロメダを象徴とした地球連邦艦隊は、波動砲装備の強力な新造戦艦だけでも36隻・・・
 これは、もはや何者にも犯されることの無い永遠の平和と繁栄を達成し守り続ける力であり、我が地球が宇宙の真の平和と秩序を守るリーダーとなることの宣言でもあるのです」
 


〈あなたは、一体その何処で戦ったのか・・・?〉

 一段下がった貴賓席の一角に純白の第一種礼装姿で座る、今や名目上だけの最高司令官となった地球防衛軍司令長官藤堂平九朗宙将は、延々と続く演説を流し聞きながらガミラス戦役の苦しい日々をともに乗り越えてきた当時の暫定地球連邦会議臨時議長、戦後の地域間交流の再会とともに吹き荒れた激しい政争の末に絶望し失意のなか引退した有川誠一連邦会議議員のことを思っていた。

〈所詮は作られた大統領か・・・〉

 当初はガミラス戦役終結の翌年、2201年に行われる予定だった新たな連邦政府を形作るための地球連邦議会代議員選挙と、選ばれた連邦代議員よる一年後の連邦大統領選挙を様々な理由により伸ばし続けてきた北米欧州連合・・・
 その間に無制限といってよいほどの規模でなりふり構わず行われた成体クローン ― 通常のクローニングと違いラボでの遺伝子操作を含む急速生育と、脳に対する直接の教育マッピングを行った完璧な成人として誕生するクローン人間 ― その結果、信じられない速度で爆発的に人口と発言力を増大させたかつての旧大国連合は、昨年ようやく行われた総選挙により連邦政府機関の実権を手中に収めた・・・

 連邦政府の政治的実権をほぼ完全に掌握した北米欧州連合ではあったが、さすがにガミラス戦役末期の厳しい時期をほとんど独力で戦い抜いたといってよい日系人を宇宙軍の指揮系統から簡単に排除することはできなかったが、防衛軍の反対を押し切って先日行われた軍機構の大改編により、宇宙軍となる地球防衛軍と地上軍としての統合地球軍を政治的に統括する上部機関としての地球連邦軍軍令会議を新たに設けることにより日本を中心とした極東軍部の発言権を抑えることに成功した。

〈アンドロメダ・・・〉

 艦首軸線に並列して備えられた左右二門の230センチ複発干渉式拡散次元波動投射砲と20インチ三連装四基の50口径長砲身ショックカノンを主兵装とする強大な武装、そして、艦橋と一体化された特徴的な大型フェーズド・アレイ・コスモレーダーによる長大で多彩な索敵能力と超高速な多重情報処理、さらには、強力な指揮統制通信機能をも合わせもった10万トンクラスの新たな統合艦隊旗艦として基本設計計画が開始されたM-22051式新戦艦の記念すべき一番艦は、当初「Admiral J.OKITA」と命名される予定であったが、新生なった地球連邦を象徴するフネとして防衛軍艦艇命名基準を変更してまでの新政府の強引な手法により変更されたのだ。
 さらに、続く二番艦として復旧された月面基地オニヅカ連邦工廠での建造と艤装が急ピッチで続けられている「Admiral H.TOUGO」も艦名が変更されるだろう・・・


「・・・・・・ ?!」

 考え事をしている間に式典もクライマックスを迎えたようで、軍楽隊の演奏する高らかなファンファーレに続く華やかで軽快なマーチ風の音楽に送られるように新連邦艦隊旗艦「アンドロメダ」は、重々しい轟音と圧風を巻き起こしながら煌く陽光を受けて徐々に晴天の青空へ・・・ 紺碧の宇宙へと舞い上がっていく・・・

「沖田・・・」
 


「いやぁ・・・ 半年ぶりの地球か・・・」

 ラフな防衛軍第三種艦内服の上にネイビーブルーの空間護衛隊指揮官用外套を着込んだ階級のわりに若く見える一等宙佐は、狭い艦橋の中央部に設けられたコマンダーシートにゆったりと座って独り言のように呟いたが、目ざとく聞きとめた妙齢の女性士官がわざとらしい笑顔を作って自席から振り返る。

「早く帰りたいですよね〜 古代司令♪」

「んん? 何だ相原・・・」

 5年前のイスカンダルへの航宙で旧知の間柄の相原通信長の意味ありげな笑顔での問い掛けに、戸惑ったような疑問を返す指揮官席の古代は、さすがに地球連邦軍の絶対勢力圏へ入り緊張の続いた太陽系外縁部での警備任務から開放されつつある現状に表情も穏やかであった。

「帰ったら雪さんと結婚式でしょ? 私も早くいい人見つけたいなぁ・・・」

「ばっバカ・・・
 ああ・・・ 石田、到着予定は大丈夫だろうな?」

 半年に及ぶ長い太陽系外周警備任務から地球への帰還途上にある第15護衛隊旗艦「あきさめ」では、護衛隊司令となっている古代進一等宙佐が相原マイコ三佐の指摘に照れたように慌てて取り繕うように航海長の石田三佐に声を掛けていた。

「明後日は沖田提督の戦没記念日だからな・・・」

 正式名称M-22021式「エッサウイラ」型汎用空間護衛艦の一隻であるDES-142「あきさめ」は、ガミラス戦役終結後の切迫した復興時に準戦時標準艦として改良型のM-22022式とともに総計三百隻近くが大量建造された航洋型小型軍用艦で、基本船型を共有する小型有人戦闘艦の性能限界に達したともいわれる強武装で知られるM-22011式「アーレイ・バーク」型艦隊駆逐艦に比べて武装を若干減らして居住性と索敵能力を強化した汎用巡洋護衛艦であり、同型艦3隻とともに最小戦闘単位の護衛隊を編制し人類生活圏の太陽系内定期パトロール任務に就いていた。

「はい。 定刻の明日1455時までには到着予定です」

 不安がないといえば嘘になる若い航海長の生真面目な報告を聞きながら艦橋前面窓からみる宇宙空間には、ガミラス戦役で数々の激戦場となった火星の赤い姿が思ったよりも大きく写っていた。

〈そういえば、島もオレも若かったな・・・〉

『地球か・・・ 何もかもみな懐かしい・・・』

 かつての地球を思わせる赤い火星を見詰め続ける古代の脳裏に、イスカンダル航宙時の主任艦医だった佐渡酒造から伝えられた宇宙戦艦ヤマト初代艦長沖田十三提督の最後の様子が、5年経った今でも色あせることもなく昨日のことのように蘇ってくる・・・

〈沖田さん・・・〉


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「司令!!」

「どうした?!」

「途方も無いエネルギー量の通信が入っています!
 本艦の通信設備では入力エネルギーに耐えられません!」

 激しく鳴り響く非常警報と錯綜する怒号の中で、つい先程とは別人のような緊張感に包まれた表情と態度で自席の通信卓へ集中した相原は、想定外の膨大なエネルギーを持った通信の流入に制御不能になりつつある通信装置を必死でコントロールしていた。

「相原! それじゃダメだ! ケーブルを引き抜くんだ!!」

「はっ、はい!!」

 通信回路から溢れた高エネルギーがネットワークを組んだ艦橋内の他の回路に流入し処理不能な状態に陥りそうな状態で、安全装置も突破して広がり続ける流入エネルギーに古代は物理的にケーブルを切断することを命じ、自ら相原の足元に飛び込むと通信コンソールのパネルを引き剥がしエネルギーリークにより発光するケーブルを片っ端から無理やりに引き抜いていく。


「ふぅ・・・ 一体何だったんだ?」

「古代さん! 手が!」

 騒ぎの一応収まった護衛艦「あきさめ」艦橋では、プラスチックと空気の焦げた臭いと散乱した消火器の耐圧軽金属ボンベが片付けられず残されていたが、相原は古代司令の焦げた両手に驚きの声を上げる。

「ああ・・・ 大丈夫だ。 手袋が焦げただけだよ。
 それより、通信内容は記録されているのか?」

「はい・・・ 一部欠損していますが、大部分は記録されているようです」

「よし。 それじゃ、隔離回路に保存しておいてくれ。
 地球へ着いたら中央技術局の真田さんに分析してもらおう」

 部下の手前、冷静な態度をとる古代ではあったが、思い詰めたように焼け焦げた耐熱合成皮製グラブを見詰め続ける自身の奥底では、イスカンダルへの旅でも感じたとのなかった言いようのない不安が沸き起こってくるのを消すことができない・・・


「一体何だったんだ・・・ いったい・・・」


 

−白色矮星到来といわれる日まで、あと158日・・・ あと158日−
 

 
 Farewell 1.2 英雄の丘
TDF National Memorial Hill


「司令。 艦首正面12時方向1万2,000宇宙キロにECM反応あり!
 本艦のメモリバンクに輻射紋登録はありません!」

「メインパネルに映せ!」

 古代の命令により艦橋の大スクリーン中央に小さく映し出されたライトグレーを基調とした端正な艦影は、現在連邦艦隊主力として配備中のM-22032式7万トン級「アイオワ」型宇宙戦艦と基本スタイルは似ているが一回り大型で明らかに強力そうな禍々しいオーラをまとっていた。
 しかし、メモリーバンクに登録のないフネのためスクリーンにはデータ等は何も表示されず詳細は不明のまま刻々と変り続ける推定値と想定確率が目まぐるしく表示された。

「新型艦か? かなり大きいなぁ・・・」

「現在、本艦と該船は衝突進路を進んでいます・・・」

 通信制御卓からレーダーセンサー解析回路を呼び出した相原は、手元の入力パネルを素早く操作しながら様々なデータを次々に表示させていくが、突然スクリーンの表示に被さるように赤いゴシックフォントの警告サインが表れるとともに最優先回路で音声通信が入ってくる。

「司令。 該船より連邦軍正式コードで進路変更命令が入りました!」


『本艦は、新たに竣役した地球連邦艦隊旗艦アンドロメダである。
 第15護衛隊各艦は速やかに進路を開けよ!』

 メインパネルで徐々に大きくなっていく艦影に「あきさめ」艦橋ではクルーの動揺も広がっているが、コマンダーシートから立ち上がった古代は硬い表情のまま無言で正面のスクリーンを見詰めている。

「司令・・・ どうしますか?」

「通信回路を繋げ」

 戦隊副官を兼ねる戦隊先任士官である戦闘班長の不安を隠しきれない質問を受けながら、古代は戦闘班長へ頷くと落ち着いた口調で相原通信長へ命令を発する。

「はい。 回路オープンしました」

「こちらは第15護衛隊司令古代進。 進路の優先権は復路のこちらにあります。
 何か問題を感じられるのであれば、そちらが進路を変更されてはいかがですか?」

 古代は、正面から迫りくる巨大な戦艦を映し続ける頭上のメインパネルを見詰めながら通信コムへ話し掛けるが、謎の戦艦は映像回路を最後まで開かずに「あきさめ」へ向かって真っ直ぐ迫ってくる。

「距離800! 司令!!」

「針路速度そのまま。 直進しろ」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「第15護衛隊! 直ちに進路を変更せよ!
 貴艦らは本艦の進路を妨害してはならない!!」

「長官! このままでは衝突します!」

「・・・・・・」

『緊急回避開始、取舵一杯。 全艦緊急機動に備えよ』

 緊急事態を告げる警報が鳴り響き、四分割されたメイン右上のBスクリーンに衝突軌道予測が大きく警告表示されているアンドロメダ艦橋では、副官の怯えが混じった報告が切迫していたが、最終的にアンドロメダに備わった自動回避機構により左舷側ギリギリの距離で「あきさめ」を回避して擦れ違っていく。

「あきさめ、本艦左舷30メートルを通過! 続いて、むらさめ接近中!」

 艦橋左舷サイドに張り出した小さな見張り窓から直接目視確認を行っているベテランの掌見張長から緊迫した報告を聞く中央指揮席の土方宙将は、目深に被った制帽により表情は隠されているが眉庇奥から若干見える瞳には微かな笑いが現れていた。

「ふっ 相変わらず強情なやつだ・・・」

『脅威目標通過、基準針路に復帰。 緊急機動終了』
 


「いよぉ〜 久しぶり・・・ 半年間ご苦労だったな」

「真田提督、お久しぶりです」

 アンドロメダ進宙式の喧騒も静まった新横須賀軍港では、一年ぶりに顔を合わせた旧知の戦友に軽く挨拶する真田中央技術研究本部長に、キッチリとした宇宙軍式の敬礼で返す古代の昔と変らない態度に真田技術代将は照れた苦笑いを浮かべながら砕けた海軍式の応礼を返す。

「おいおい、オレは技官なんだから提督はやめてくれよ・・・
 それより、お前は相変わらず宙大へ行くつもりはないのか?」

 2200年9月、イスカンダル遠征からの帰還時に受けた一斉昇進で一佐となっていた真田は、通常年限の6年を待たずに今年春の定期昇進で地球連邦軍で最も若い将官となっていたが、ヤマト乗り組み前に防衛宇宙軍大学校を主席で卒業していた真田と違って、一般士官養成機関である宇宙戦士訓練学校をでるなりガミラス戦末期の激戦に巻き込まれた古代達にその機会はなかったのだ。

 実際には、同じ一佐といっても実質的には三段階に分かれており、兵科の場合は艦隊幕僚、艦長配置、隊司令の各段階を最短2年づつ経験していくのが一般的であるが、兵科士官と違い高級ポストの圧倒的に少ない技術士官や機関士官などにとっては一佐、いや実質的には二佐が上限であり将官への道は夢のまた夢といっていいのが実態ではあった。

「いえ、オレは宇宙にいるのが性に合っていますから・・・」

 人類を救うイスカンダルへの往復航宙を成しとげたというヤマトの艦長代理として残した比類ない絶大な実績があるといっても、官僚主義が支配する平時態勢となった地球防衛軍では高級幹部士官を養成する宙大をでていない古代には、現在の最年少一佐から現役将官への道は限りなく狭い・・・
 残されているのは、旧軍以来の温情として続けられている定年時の慰労金代わりとして退官日の前日付けで一階級昇進させる最後の営門をくぐる時だけの将官・・・

〈それでいい・・・ オレは、営門提督で十分だ・・・
 いや、早期退官して輸送船の船長も悪くないか・・・〉

 今や地球連邦内でも有数の大企業グループとなっている南部重工業フォールディングス傘下のナンブ・コスモ・ロジスティックス専務に収まっている、イスカンダル航宙時のヤマト砲雷長であった南部康雄予備役一尉からの強い誘いを受けていた古代は、最近それも悪くないかとも思っていた。

 連邦選挙以降急速に防衛軍に対する発言権をも増大してきていた北米欧州連合は、実質上日系人、いや日本人ばかりといってよい現状の地球防衛軍に強硬な姿勢の変革を迫っており、早期に予備役や退役へと追いやられる日本人高級幹部に代わって北米欧州を中心とする統合地球軍からの人員が多数送り込まれてきていた。

「そうか・・・ それも、お前らしいな・・・
 それにしても、帰還早々派手な騒ぎをやらかしてくれたなぁ〜
 地球防衛軍司令本部でも大騒ぎだぞ!」

 今度は、真田に替わり照れ笑いを浮かべながら頭を掻く古代を、危なっかしい弟を見るような態度で見詰める真田は笑いながら自分の公用エアカーへ案内した。


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「それじゃ、真田さんの所にも影響があったんですか?」

「そうだ。 危うく防衛軍司令部全てのシステムを道連れにするところだった・・・」

 透明な強化テクタイト製減圧チューブの中を時速800キロを超える高速で進み続けるエアカーの中では、古代が帰還途中に体験した謎の通信のことを説明したが、返ってきた真田の話を聞きながらメガロポリスの中心街から外れていく進路に違和感を感じて外の風景を振り返る。

「んっ 真田さん。 どこへ向かっているんですか?」

「中央技術局で分析を行えば、また同じ危険性があるからな。
 旧司令部の予備分析設備を使うつもりだよ」


「へぇ〜 ここは、今でも使えるようになっているんですね」

 懐かしいということとは少し違うが、僅かな可能性だけを信じて明日をも知れないガミラス戦の末期を戦い続けたかつての地球防衛軍司令本部へ着いた真田と古代は、若干澱んだ空気の中で久方ぶりに施設への入室を感知したシステムが自動起動し、次々に照明が点いて行くとともに機器に生命が吹き込まれモニター画面でシステムチェックが進められていくのを眩しげに見詰めていた。

『1603時、分析室システム起動開始。 現在システムチェック中・・・
 全システム使用可能まで210秒・・・ 200秒・・・ 190秒・・・』

「そうだ・・・
 5年前、イスカンダルから送られてきたメッセージカプセルを解析したのもここの設備なんだが、
 ここは、万が一の事態に備えて専用の非常自己動力も用意されて常に整備されているんだよ。
 まぁ〜 二度とそんなことが起こるとは考えたくもないがね」

「そうですね・・・」
 


「んん・・・ やはり、何かのメッセージのようだな・・・」

 旧司令部の主分析設備を全て稼働させた真田は、機器の暴走に万全の注意を払いながら二つのデータを付け合せ簡単な予備分析を進めていくが、どうやら何らかの音声を中心とする情報のようで、データ方式も言語構成も全く分からない現状では本格的な分析にはかなりの時間が掛かりそうであった。

「真田さん。 やはり、宇宙に何かが起こっているのでしょうか?」

「んん・・・ 現状では何ともいえんが、自然現象ではない可能性が高いだろうな」

 科学者である真田は意味のあるデータがない現状に慎重な返答を返すが、自身の心の中では言い知れぬ不安と胸騒ぎが広がっていくのを否定することはできなかった。


『非常警報! 非常警報! 地球防衛軍司令本部機能不良!
 地下第一、及び第二予備司令部機構自動起動! 総員非常配置! 総員非常配置!』

 モニターに表示される分析結果を腕組をして眺めていた真田の視界へ、表示画面一杯の大きさで赤い警告文字が表示されるとともに旧司令本部全体に大音響の警報と淡々としたコンピューターによる音声警告が流れてくる。

『1913時、緊急予備非常事態令が発令されました。
 連邦非常体制下で規定された目的以外の設備使用は制限されています。
 可及的速やかにシステムの使用を終了し保安係員の指示に従ってください』

 神経を逆なでする警報や警告灯とともに、それまで稼働していなかった全ての機器が次々と起動していくと、人気の感じなかった司令部に大勢の靴音が響き、警告や命令をやり取りする鋭い声が様々なところから聞こえてくる。


「一体どうなっているんだ!? 都市の電力が全て落ちているぞ!」

「金星の太陽光発電所群からの応答がありません!」

「大変なことになるぞ! 何としても電力を確保するんだ!!
 非常システムのバックアップ体制はどうなっている!」

 続々と配置に付く司令部要員たちの間に錯綜した情報が流れるが、全く情報が不足している現状では何も分からないということを確認することしかできていないというのが実際かもしれない・・・

「地上の全非常発電システムをフル稼働させていますが全く足りていません!」

「供給統制だ! 司令本部、公共輸送機関、医療機関、官公庁が最優先だ!
 他は全て停止しろ! 直ちにだ!!」

 情報網も混乱したメガロポリス全域から事故や火災の情報が錯綜し、司令本部でも状況を収拾するどころか状況を把握することさえ困難で、実際に何が起こっているのか全く分からない。

「何! 敵の攻撃?! 所属不明の航空機?」

「統合地球軍の防空態勢はどうなっている?!」


「真田さん。 何が起こったんですか?」

「どうやら、司令本部を含めたメガロポリス東京全体の電力が失われたようだ・・・
 やはり、何か異常事態が起こっていると考えざるを得んかもしれんな・・・」
 


「沖田艦長。 見てみぃ・・・ あんたの守った街の輝きを・・・
 地下に逃れていた人類は再び地上に楽園を築こうとしている・・・
 都市の光で夜空の星さえ霞んで見えるようだ・・・」

 明日の可能性を夢見て歯を食いしばって耐えた戦時中と変らぬ夜空の星の輝きと張り合い、それを覆い隠すように無数に煌くメガロポリス大東京の巨大な光の渦・・・

 大都市を見下ろすなだらかな丘の上に作られたガミラス戦役で命を落とした無数の宇宙戦士たちが眠る連邦記念墓地では、眼下の大都市を見守るように立てられた宇宙戦艦ヤマト初代艦長であった偉大な沖田十三名誉連邦軍会議議長たる宙将(戦死後二階級特進)を記念した巨大な銅像の前で白衣姿の佐渡酒造が一人一升瓶を抱えるように酒を飲んでいた。

「まるで、あのガミラスとの長く苦しかった戦の日々が夢のようじゃ」

「さぁ・・・ 呑んでくれ、艦長・・・
 明日は、あんたの命日じゃからなぁ・・・」

 無数の尊い人命と幾多の未来ある宇宙戦士を失ったガミラスとの激しい戦いも、宇宙の無限の広さと永遠ともいえる時の流れの中では一瞬のさざ波に過ぎず、もはや英雄の丘を訪れる人も絶えて久しい・・・

 みんな、ヤマトやイスカンダルへの大航宙も忘れてしまったのかもしれない。
 人々は現在の平和と繁栄を永遠のものと考え豊かな物質文明に酔っていた。


「んん? なんじゃい・・・」

 一瞬、思ったよりも酔いが速く回ったかとも思った佐渡であったが、改めて見直して見るまでもなく目前で煌いていた大都市の光が急速に失われていき、僅かな非常灯だけの暗黒となった地上の上に煌きを取り戻した大宇宙の星の海が見違えるように明るく見えていた。

「何だかしらんが、星が綺麗になっていいわい。
 明日まで、このままならいいがのうぉ・・・」

 まるで未知なる宇宙の海を渡っていたときのように綺麗に見える星々に、佐渡はイスカンダルへの航宙を重ね合わせて沖田と語りながら一晩を飲み明かそうと思っていた。

「明日になれば、みんな集まってくる・・・
 艦長。 あんたに会いにな・・・」


「佐渡先生〜!!」

「んんっ?!」

 外灯も消えた暗闇の中、都市から続く道を駆け上がってくる人の声と大きく手を振る人影がかすかに見え、目を凝らす佐渡に闇の中から非常灯に淡く照らし出された懐かしい顔が徐々に見えてくる。

「おお〜 古代! 真田くんじゃないか」

「先生。 お久しぶりです!」

 息を切らせて佐渡の前まで走ってきた制服姿の古代と真田は、銅像の沖田に向かって胸に拳を合わせる宇宙軍式の敬礼を捧げた後、破笑している佐渡に向き直って敬礼を交わす。

「いやぁ〜 すっかり立派になって見違えたぞ」

「佐渡先生は変りませんね〜」

 都市全域の広範囲にわたって電力が止まって混乱するメガロポリスから徒歩で英雄の丘へやってきた古代と真田は、駆けつけ三杯とばかりに眼前に差し出されたグラスを苦笑いで受け取りながら銅像の前にそれぞれに陣取り懐かしい話を交わしていく。

「まぁ〜 おまえたちも呑め」


「おお〜い!」

「んん? おお〜 島、太田、相原じゃないか〜」

 闇の中から、次々と懐かしい顔が現れてくる・・・

「徳川さん。 南部も一緒か〜」

「いや〜 東京中停電で酷い目にあいましたよ・・・」

 明日の命日を待ちきれない地球にいる大方の戦友がそろう中、それぞれに久々に会った懐かしい顔と笑顔で近況報告や情報交換を交わしていく。

「久しぶりだな〜 島。
 どうだい、空間輸送隊は?」

「はっはっ・・・ 宇宙の運び屋稼業だからな、たいくつだよ。
 お前はどうだ、古代」

 互いに宇宙に居るとはいっても配属の違うためにタイミングが合わず一年振りに顔を合わせた古代と島も、それぞれに背負う任務を忘れて懐かしい思い出に浸っていく。


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「総員整列! 沖田名誉連邦軍会議議長に敬礼!!」

 近況報告も一段落して大方の旧ヤマト乗組員が揃ったところで、最年長の佐渡の号令で整列した全員が懐かしいヤマトの第一艦橋に立つ沖田元帥を思い出す、日本統合艦隊高級士官制服姿をかたどった銅像に向かって一斉に敬礼を捧げる。

「艦長。 地球に居るものは、ほとんど全員揃ったよ。
 みな、それぞれに地球のために頑張っておる。
 安心してくれ、艦長!!」


「はっはっはっ、懐かしいなぁ〜」

「古代さん。 雪さんは来られないんですか?」

「月面基地での引継ぎが長引いているらしくてな、明日の式典には間に合うはずだ」

 それぞれに銅像の前で数人ずつの車座となったクルーたちは、佐渡が大量に持ち込んだ日本酒を酌み交わしながら時も忘れて談笑していたが、ところどころで怪しげな話も聞こえてくる。

「南部。 お前の実家はどうなんだ?
 たかお型の巡洋艦はさっぱり配備されないが・・・」

「みんなも知っての通り、今や地球連邦軍の実権は北米欧州連合に完全に握られているからな。
 極秘だった三連動干渉型ショックカノンの技術も実質はフェディラル・アームストロング社のものだ・・・」

 初期の箱舟計画時から中心企業としてヤマトの開発建造に関わったことで波動機関に関連する新技術のほとんどを握っていた南部重工業も、北米欧州連合の台頭による日本排除のパワーゲームの流れの中で連邦軍はもちろん防衛軍の中枢からも徐々に追いやられていたのだ。

 実際、新生地球連邦艦隊の基幹大型戦闘艦として戦時中に設計計画が開始され、戦後間もなく七万トン級主力戦艦の第一シリーズとして建造された8隻のM-22031式宇宙戦艦 ― G8(1,000万トン)級超大型遊星爆弾の被爆により完全消滅した都市であるトゥールーズ、ムンバイ、ワシントン、シャンハイ、サンパウロ、ノヴォシビルスク、ミカサ、ケーニヒスベルクの名を冠した旗艦設備戦艦 ― の建造に関わって以降、南部重工業による大型戦闘艦の受注実績はない・・・

「しかし、波動砲は?」

「フェディラル・アームストロング社は、拡散波動砲は独自技術だと主張している・・・」

 イスカンダルからのヤマト帰還後、直ちに行われた地球防衛軍統合地球軍合同技術部特別調査委員会による徹底的な調査分析により、企業秘密をも含めて全ての技術を完全に暴かれていた南部重工業は、現実的には技術系企業の命といえる基幹技術の全てを奪われたといってもいい状態なのであった。


「ん! 何だ?」

「アンドロメダだ。 テスト航宙から帰ってきたんだ・・・」

 英雄の丘の上空を眩い航宙灯と轟音を引きながら新横須賀軍港への帰還航路を取るフェディラル・アームストロング社製の巨大な戦艦アンドロメダにより宴を遮られた者たちは、それぞれに頭上を見上げながら驚きを含んだ声を上げるが、かなりのアルコールが入った南部康雄は自身の心の中の憤りを含めて拳を上げて怒りをぶつけていた。


「バカやろぉ〜〜〜!!」


 

−白色矮星到来といわれる日まで、あと156日・・・ あと156日−
 

 
 Farewell 1.3 ヤマト廃艦
Retirement from service of Space Battleship YAMATO


「よし。 今日は補助設備も稼働させたから何らかの結果は出せるだろう」

 昨日に続いて旧司令部へやってきた古代と真田は、昨夜の集まりからそのまま付いてきた旧ヤマト主要メンバーと作業を分担して謎のメッセージの解析作業へ入るが、中央技術研究本部長の職権をフルに使って全システムを稼働させても簡単には進まないようで、分析室には全力作動するマシンの電子音と極低温冷却システムの低い作動音だけが響いている。

「真田さん。 一部の音声信号が分離できました」

「そうか・・・ 取り合えず再生してみようか」

 音声分析と翻訳装置を操作していた相原通信長の報告に、実際の成果は別として何らかのヒントでも得るために僅かでも解析できた音声データを再生してみることにした。

 プログラムの終わった中央コンピューターは再生ソフトの起動を開始して、固唾を呑んで見守っているヤマトクルーに激しいノイズまみれではあるが僅かに意味の分かる単語が聞こえてくる。

『今・・・わたしたちの・・・・・・を・・・巨大な・・・・・・が・・・・・・かも知れません・・・
 ・・・・・・危機が・・・・・・時間が・・・・・・
 もう・・・・・・早く・・・だれかが・・・・・・早く・・・この・・・・・・』

「限界です! 回路自動閉鎖しました!」

 コンピューターから再生されたノイズ混じりの音声が終わり静まり返った分析室では、全員が一言も発することができず時間が止まったかのような張り詰めた空気が広がっていた。

 意味が全く分からないということでは今までと何ら変らないが、この広い宇宙のどこかに明らかな異変が起こっており、それを必死に知らせようとしている者がいる・・・
 この沈黙を破って一言でも言葉を発すれば、現在の平和を享受している世界が幻想のように崩れていく、新たな厳しい現実が現れ否応なしに向き合わねばならない・・・

 全員の心の中にいい知れぬ不安が渦巻いていた。


「みんな、これを見てくれ・・・」

 凍りついたままの分析室の空気を解きほぐすように声を上げた真田が、全員の注目する中でモニターへ歩み寄ると分析装置の入力パネルを慣れた手つきで操作する。

「アンドロメダ銀河方向の銀河周辺部探査に向かっている超光速探査機の一機が13万光年先に偶然捕らえた映像なんだが、中心に写っている星をよく見てくれ・・・」

「これが、3日前・・・ 2日前・・・ そして、昨日だ・・・」

 分析室の壁面一面を使った巨大なスクリーンには、中央に小さなボタンほどの大きさの白い星が映っており、左側に長い尾を引きずった姿は一般にイメージする彗星そのものであった。

「これは・・・ 少しずつ大きくなっているように感じますね」

「そうだ。 分析結果でも青方偏移を示している。
 光速の10%ほどの速度で近付いてきている・・・
 人類に初めて発見された接近してくクエーサーなんだ」

「しかし、それがどうかしたんですか?」

 学術的に研究する問題は別として、実際的に影響する問題として考えれば、例えその天体が真っ直ぐ地球へ向かってきたとしても13万光年の距離である。
 光速の10%の速度では地球に到達するにしても130万年先の話なのだから、現在の人類や地球防衛軍には関係がないだろう・・・ 解決は人類の後を継いだ未来の生物が行えばよい。

 いくらビックバンから広がり続けているといわれる宇宙では、赤方偏移を示すクエーサーが大部分であり青方偏移するものの発見がはじめてであるとしても、それは専門とする学者の間での問題であって一般的な人類、ましてや地球防衛軍の軍人には直接的に関係のないことである。


「もう一度スクリーンを見てくれ・・・
 これは、二時間前の映像だ・・・」

「また、少し大きくなっていますね」

 変った映像といっても、古代たち大多数のクルーには大きさの違いしか分からなかったが、さすがに航宙が本職の島航海長は目ざとく違いを捕らえる。

「尾の角度が変っていますね」

「そうだ。 真横にあった尾が後方に変ってきている」

 もう一度拡大して映し出された矮星の尾は、いわれて見れば少し短く先端が細くなっており、後方に流れているといえばその通りなのかもしれない。

「しかし、真田さん。
 彗星の尾は宇宙風に流されているんだから付近の天体状況が変ったんじゃないんですか?」

「いや、天体の位置関係は一日や二日で変るものじゃない。
 これは、矮星が加速しているんだよ。 計測では一日8%の割合で加速している・・・」

 100年に一人といわれる稀代の天才科学者である真田志郎のいったことでなければ単なる妄想と笑い飛ばすところであるが、全く想像もできない話に全員が混乱する中で航路計算等の空間設計を専門とする太田一尉は自身でだした計算結果に驚きの声を上げる。

「そんなバカな! 天体が加速するだなんて・・・
 大体、8%づつ加速したら一ヵ月後には・・・」

「そうだ。 このままの加速を続ければ光速に達しワープする可能性もありえる」

 太田の言葉に大きく頷いた真田は、深い憂慮を含んだ表情で独り言のように小さく告げた。

「確かにありえないことで、可能とする原理も全く分からないが、
 光学分析の結果でも青方偏移が大きくなっているんだ。
 謎の通信も同じ方向から来ているとなると何かあるのかもしれない・・・」
 


「んん・・・ みんな揃っているな・・・」

 卒然、背後からかけられた声に全員がいぶかしげに振り返った分析室の入り口には、制服姿の懐かしい人物が立っており、後ろ手を組んだまま昔と変わらない優しげな微笑で皆を見詰めていた。

「んっ? ああっ 長官!」

「ああ〜 そのまま、そのまま・・・」

 慌てて敬礼しようとする古代たち旧ヤマト乗組員達を優しく制した藤堂は、笑顔を湛えたまま旧司令部の分析室へ入ってくると懐かしげに周りを見渡した。

「どうしたんですが、こんなところへ・・・」

「沖田のことを考えていたら懐かしくなってな・・・
 英雄の丘へ行く前に寄ってみたんだ」

 生き残った僅かな人員と戦力で戦っていたガミラス戦末期と違って肥大といってもいいレベルに拡大された現在の連邦軍では、防衛軍司令長官といえば末端の士官にとっては顔を合わすことも稀な存在で、久々に懐かしい思いを語りながらそれぞれに握手を交わしていく。

「そうだ。 真田さん。 長官には、このことを・・・」

「うむっ 聞いておるよ。
 昨日の防衛会議に掛けてみたんだが、心配に及ばずと否定された・・・」

「そうですか・・・」

 藤堂長官の答えに古代たちは落胆したが・・・


「それよりも、今回の会議で重大な決定があった。
 実はヤマトのことなんだが・・・」

「ヤマトがどうかしたんですか?」

「廃艦と決まったよ・・・」

 申し訳なさそうに僅かに顔を伏せた藤堂地球防衛軍司令長官は、続いて言葉を切り、意を決したように分析室に揃った旧ヤマト乗組員をしっかり見詰めると静かに告げた・・・

「除籍後は、えいゆうとともに記念艦として呉軍港へ永久保存される」

「・・・ ?!」

「そんなバカな! ヤマトが廃艦だなんて・・・」

 29万6,000光年という途方もないイスカンダルへの往復航宙から、文字通り満身創痍の状態でよろばうように母なる地球へと帰還した宇宙戦艦ヤマトは、地球防衛軍技術部特別調査班による一年にも渡る詳細な調査分析の後、再建された新呉宇宙軍港へ移動しての徹底的な船体修理と近代化改装が行われていると伝えられており、旧ヤマト乗組員の誰もが新しく再俊役されるのを心待ちにしていたのだ。

 それが予備艦や練習艦ですらない、いきなりの記念艦・・・ フネとしての存在を止める・・・

「長官! どうしてなんですか!」

「長官! ヤマトの元技師長として申し上げます。
 ヤマトは衰えてはいません。 まだまだ十分に戦えます」

「分かっているよ・・・」

 ヤマト旧乗組員を代表する真田代将の技術者としての自信に溢れた意見を聞きながら何度も頷いた藤堂は、苦渋の表情で同意の言葉を漏らす・・・

「それじゃ、どうして?」

「すまん・・・
 防衛会議の決定だ」

〈5年前、この同じ場所で、ただひたすら明日を信じて、ヤマトの帰りだけを信じていた・・・
 その自分がヤマトの廃艦を告げている・・・ 沖田は何というだろう・・・〉

 最上部機関の地球連邦軍を司る連邦軍令会議だけではなく防衛軍をも支配しつつある北米欧州連合を中心とする新政府は、軍部に異常ともいえる影響力を持っていた日系人と、その栄光と実績を示す記念碑となる宇宙戦艦ヤマトを敵視しており、ついに旧来の防衛軍は政治的に屈服した形となった。

 これは、イスカンダルへの出航当時の状況では致し方ないことであったとしても、藤堂宙将を中心とする極めて少数の防衛軍極東軍部によって、ある意味でクーデターともいえる手段でヤマトを発進させた独走に対する政治家側の根強い不信をも表すものであり、自身のまいた種といえるのかもしれない・・・


地球防衛軍技術部艦政本部命令・・・

 地球防衛軍宇宙戦艦やまとハ2205年9月10日ヲモッテ艦籍ヲ抹消・・・
 以後ハ機関武装ヲ撤去シタルノチ呉軍港ニテ船体保存整備ヲ行ウコト・・・


「ヤマトが・・・ 廃艦・・・」

 背中を落として去っていった藤堂を無言で見送った古代たちは、しばらく声も出なかったが20代から30代が中心のメンバーである、話の流れは思った通り過激な方向へと向かっていく。

「おれ達は、あのイスカンダルへの長い航宙で学んだはずだ。
 宇宙の平和がなくては真の地球の幸せはない・・・
 その宇宙の平和を守るためにヤマトがあるんだ!
 おれ達は、そのヤマトで一緒に戦ってきたんじゃなかったのか?」

「古代さん! 征きましょう〜! ヤマトを廃艦になんて出来ません!」

「ヤマトは人類の希望なんだ!」

「そうだ! 防衛軍がやらないなら、オレたちがやるんだ!」

 特に様々な不満があったのだろう南部と太田が急先鋒で、すっかり敵艦隊撃滅に向かうかのよな勢いで盛り上がっているが、その流れから一歩引いている真田が暗い顔をして発言する。

「しかし、これは完全な命令無視だぞ。
 無許可離隊に装備の無断使用、航宙法違反、扇動反乱予備・・・
 どんな厳罰が下るか分からんぞ」

「・・・・・・」

 真田が冷静に語る当然の意見に冷や水をかけられた感じの古代たちは、ここに揃っているメンバーでは真田、古代につぐ階級である二等宙佐の島大介に助け舟を求めるが、島の顔も困惑を含んで暗く伏し目がちである。

「しっ、島! お前は行ってくれるよな?」

「少し考えさせてくれ・・・
 明確な命令違反はオレには・・・」


「分かった・・・ とにかく今日は沖田提督の戦没記念日だ。
 式典に集まったメンバーにも声を掛けて、希望者は明日もう一度ここに集合しよう」


 

−白色矮星到来といわれる日まで、あと155日・・・ あと155日−
 

 
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