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Space Battleship YAMATO Farewell 3
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Space Battleship ヤマト 2205

テレサの祈り
 Farewell 3.1 冥王星会戦
Pluto region battle


「ワープ空間抜けました。 現在地点、冥王星まで3万2,000宇宙キロ」

「周囲空間異常な・・・ いや、レーダー反応多数!!
 1時半から2時方向にかけて多数の小反応に混じって戦闘艦のエネルギー反応複数あり!」

 ワープから通常空間へ戻ったルーティーンワークとして周囲空間を中距離コスモレーダーで探っていた太田航宙統制官が、レーダー表示画面がホワイトアウトするほど無数の小物体と多数の艦船反応に驚きの声を上げる。

「総員戦闘配置!」

『全艦戦闘配置! 全艦戦闘配置! 対艦進行戦に備えよ!』

 月軌道を抜けたところで防衛軍命令による阻止行動をとる新鋭戦艦アンドロメダの追撃をワープにより振り切ったヤマトは、小惑星帯基地AB-216に集合していた十数人の旧乗組員であった同士を拾うと、斉藤始三佐が率いる空間騎兵隊の部隊が駐屯する冥王星前線基地へ向かってきたが、ワープアウトするなりのレーダー反応に慌しく対応していく。

「艦船反応は、トゥールーズ型戦艦1、アイオワ型戦艦5、巡洋艦4、駆逐艦多数・・・ 距離約1万5,000!
 IFF応答はありませんが、重力波および輻射紋解析によると太陽系外周第三艦隊と思われます!」

「まだ、阻止するつもりなのか・・・」

 太陽系内警備の主力を成す小型戦闘艦艇を中心に編成された護衛隊群を火力支援するために第三、第五、第七の三個太陽系外周艦隊がローテーションで冥王星基地と火星基地へ派遣されているが、M-22031式トゥールーズ型戦艦2隻、M-22032式アイオワ型戦艦6隻、M-22022式プリンツ・オイゲン型巡洋艦8隻、M-22011式アーレイ・バーグ型駆逐艦16隻により編制された第三艦隊による組織的な阻止行動が行われればアンドロメダ単艦の時のように小手先の奇策で突破するのは難しい、厳しい表情でメインスクリーンの表示を見詰める第一艦橋のクルーを代表した南部康雄の不安を隠し切れない呟きが漏れる・・・


「多数とは何だ! 報告になっていないじゃないか!」

「全てのフィルターを試していますが反応がハッキリしません! 周囲の小物体と混じって・・・
 これは・・・! 戦闘で大きな損傷を受けているものと思われます!」

「艦長代理! 複数の救難信号です!」

 前方周囲空間には、いまだ原形をとどめている物、無残に捻じ曲がり焼けた金属塊となった物、かつては地球連邦軍艦であった無残に破壊された戦闘艦と、かつては地球連邦軍将兵だった者が多数漂流しており、無数の残骸に混じって多数の非常脱出ポットが冥王星からの僅かな光の反射を受けて微かに煌きを返していた・・・

「何だって・・・ あの強力な新戦艦8隻が、みな撃破されたというのか?!」

 破壊された太陽系外周第三艦隊各艦は、極短時間での強力な奇襲攻撃に襲われたことを物語るように戦闘陣形も取らずに第一航宙序列に近い位置関係で漂っており、沈黙して炎のくすぶる戦艦の中には主砲塔さへ回していないフネすらあった。

 現在地球連邦艦隊の主力を成しているトゥールーズ型やアイオワ型の7万トン級新戦艦は、ワープ航行等の恒星間進攻能力を持たない波動機関の小型簡略化と船型の直線化による高い量産性や、連邦軍の人員不足から来る省人員化を極限まで図った以外は大和型と同型艦といってよいほどの高い基本性能を持っているが、その強力な戦艦8隻を中心とした全32隻の艦隊が反撃する暇もなく全艦沈黙し空間を漂流している。

「まだ襲った敵が近くにいるかもしれん。 十分警戒しながら救助活動を開始する。
 ブラックタイガー隊全機発進して周囲警戒!
 救命艇を損傷艦へ派遣し、ヤマトはEポットの救助を開始する。 急げ!」

『全艦沈没艦の戦闘時救助態勢! 全艦戦闘時救助態勢! 手隙の者は上甲板へ!』

 16機のコスモタイガーUと全ての艦載艇を発進させたヤマトは、定員割れどころか半数ほどしか乗り組んでいない不足する人員をやり繰りしての全力の救助作業へ入るが、最低限の戦闘要員と航宙要員は残さなくてはならず思ったようには捗らない苛立ちを艦長代理の立場の古代は感じていた。

「古代。 焦っても仕方がないぞ」

「うむ・・・」

 かけがえのない多数の命が掛かっているだけに焦る気持ちは誰もが同じだが、イスカンダルへの長い航宙の間に、いつの間にか気持ちがはやりがちな艦長代理をなだめるのがヤマトの舵を取るのとともに、島のもうひとつの役割のようになっていた。

〈斉藤・・・ 頑張ってくれ・・・〉
 


「冥王星基地より緊急入電!
 正体不明の敵勢力の攻撃を受け基地機能壊滅! 残余の戦力で通信室を死守する!」

 冥王星基地からの悲痛な通信を相原通信士は読み上げるが、宇宙空間での救助作業を始めたばかりのヤマトは簡単に動けない。

「ブラックタイガー隊、冥王星基地の救援へ向かえ!」

『了解! 冥王星基地の救援へ向かう! 全機続け!』

 古代からの命令を受けたブラックタイガー隊を率いる加藤三郎二佐は、間髪を入れず了解を返すと、待ちかねたように指揮下15機のコスモタイガーUを引き連れ全力加速を行うと流星のように冥王星へと突入していく。

「全艦警戒態勢! 総員油断するな!」


 上甲板へと続く全てのハッチと艦尾上部左右の艦載艇搭載ハッチ、さらには艦尾艦底の艦載機発進口に至るまで開けることの可能な全てのハッチを開放したヤマトは、絶望的に不足する人員でできる限りの迅速な救助作業を進めていく。
 艦内では、次々に運ばれてくる救命ポットの収容作業が進められるが、収容したポットのほとんどが破損しているといってよいのが現状で、収容スペースに限りがあるヤマト1隻では生存者の乗っていないポットはそのまま放棄せざるを得ない・・・

「すまんな・・・ 寒かっただろう・・・」

 エアロック内側の与圧された艦内で収容したポットの開放救命作業をしている航海班と船務班は、確認した遺体の記録を取ると一人ひとりに最後の敬礼を捧げ、救命ポット射出口より再度冷たい宇宙空間へと送り出す辛い仕事を黙々と行っていた。

「さよなら・・・ 戦友・・・」

〈ちくしょう・・・ ヘルメットが曇って見えない・・・〉

 神聖な作業を黙々と行う男の瞳からは、止め処なく涙が流れていた・・・


「こらこら〜 なにをしとるんじゃ〜! さっさと負傷者を運んでこんかい!
 そんなことじゃ〜 助かるもんも間にあわんくなるぞ!」

「こらぁ〜〜! そこのお前! ぼけっとしとるなら手伝わんか!!」

 運ばれてくる負傷者に備えて医務室で準備していた佐渡酒造は、余りの数の負傷者に収容を手間取る乗組員に待ちきれず手術着姿と下駄履きのまま通路へ出てくると、狭い艦内通路にごった返す人員をかき分けながら怒鳴り散らしていく。


「太陽系外周第三艦隊の生存者収容作業完了。
 重傷者3名を含む総員29名を収容しました。
 遺体の回収は残念ながら不可能です・・・」

「そうか・・・ そうだな・・・
 よし。 冥王星基地へ向かおう!」

 艦内に収容した救助者の確認作業を指揮していた井之上船務班長から報告を受けた古代は、物理的、時間的に戦闘の犠牲となった遺体を収容することができない辛さを感じていたが、今現在も生死の掛かった戦闘を繰り返しているであろう冥王星基地の救助を優先せざるを得ない。

 苦渋の思いのなか冥王星基地へ向かう命令を発した古代は、静かに瞑目すると離れ行く太陽系外周第三艦隊とその将兵へ最後の敬礼を捧げていた。

〈1,000名中、29名か・・・〉
 


「くそぉ〜! 砂岡、何人残ってる!」

「どう見たって、一個小隊も残っているか怪しいもんですぜ!」

「ヤマトが向かって来ているんだ、何としても通信室を死守する!
 必ず助けが来る! 絶対に諦めるんじゃねぇぞ!!」

 冥王星前線基地派遣空間騎兵団長となっていた斉藤始三佐は、全ての戦闘車両と重火器を失い残り40名を切った僅かな部下達を率いて先頭に立ち戦っていたが、ほとんどの兵が傷付き血に塗り込められた強化戦闘服に僅かに残された気力だけで立っている状態であった。
 因みに空間騎兵団とは通常6個中隊950人ほどで編制された部隊に付けられた名称である。

 上空を埋め尽くすように制圧する航宙機の攻撃をかわし、直近に迫った敵地上部隊と白兵に近い血みどろの近接戦闘を繰り広げていた空間騎兵隊員たちの傷付いた強化戦闘服に、突然の自動応答式敵味方確認信号(IFF)が入ってくると敵航宙機の地上攻撃が見る間に止んでいく。

「おお!! 味方のコスモタイガーだ! 助けが来たぞ!!」

「ヤマトだ! ヤマトの航宙隊だ!! ヤマトが来たぞ!!」

 最後の気力が萎えかけた刹那、上空に煌く輝きから放たれた眩いビームの閃光とともに直前に迫っていた敵航宙機が爆発すると、その爆炎の中から見慣れたスマートな機影が地上スレスレまで突進してくる。

 鋭くバンクを打つ機体の二枚の垂直尾翼には、ヤマト艦載航宙隊ブラックタイガー隊の証であるTDF-YAMATOの文字が鈍く煌く。

「味方が来たんだ! ヤマトが来たんだ!!
 もうひと頑張りだ! 絶対に死ぬんじゃねぇぞ!!」

 仲間の残りとともに気力の残りも尽きかけていた斉藤たち空間騎兵隊に現実に希望が沸き起こり、ここまできて死ねない最後の底力が一瞬だが圧倒的な敵勢力を僅かに押し返す。


『よぉ〜し、しっかり頭を下げてろよ! でっかいプレゼントの配達だ!』

「野郎ども! 伏せろ!! 許可なく勝手に死ぬなよ!」

 ガトランティス宙母機動部隊の圧倒的な航宙隊を強行中央突破した16機のブラックタイガー隊は、コスモタイガーUの積載量一杯に搭載した地上攻撃用ブラスター爆弾を一斉に投下すると、冥王星前線基地中央指揮所通信室の周囲一面が1,800度を超える超高熱の猛烈な爆炎の嵐に飲み込まれていく。

『よし、消毒は済んだ! 救命艇を下ろしてくれ!』


「いいか、クソバッタ野郎ども! 最大出力でありったけのビーコンを発信しろ!
 どんなバカでも絶対に見間違わないようにな! あと20秒で守護天使の光臨だ!!」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「ちくしょ・・・ いいか、俺は逃げるんじゃないぞ・・・ 必ず帰ってくるからな。
 それまで寂しいだろうけど、お前たち少しだけ待っててくれよな・・・」

 第二艦橋後部デッキに設けられた観測ドームから、戦場の埃をまとったままの戦闘服姿で遠ざかりつつある冥王星の焼ける炎で照らし出された姿を見続けていた斉藤は、血の滲んだ包帯で釣った左手を庇いながら右手を水平に胸に当てると別れ行く部下に決別の敬礼を送り続けていた。


「斉藤・・・」

「おお〜 艦長代理! お陰で命拾いしたぜ。 ありがとよ」

 観測ドームへ入ってきた古代に背後から声を掛けられた斉藤は、瞳に滲んだ涙を見られまいと袖で軽く拭うと振り返り、5年振りに合った古代に陰のある笑顔を向けると力強く握手を交し合った。

「辛いな・・・」

「ああ・・・ 火星域戦からの戦友もいたからな・・・
 また、生き残りが減っちまった・・・」

 普段は豪胆に振舞っている斉藤の漏らした戦闘指揮官が部下の前で見せることのできない本音に、同じ指揮官としてイスカンダルへの航宙で多数の部下を失ってきた古代は掛ける言葉もなく、ただ同じように次第に小さくなる冥王星を見続けるだけだった。


「それで、攻撃してきた敵はガミラスではないんだな?」

「ああ・・・ とんでもなく強力で、見たこともない奴らだった・・・」

「そうか・・・」

 最終的に冥王星前線基地派遣部隊で残ったのは基地要員11名と空間騎兵隊員32名・・・
 負傷者を含めて全ての生き残った人員を収容したヤマトは、全員の希望という名の旧軍以来の伝統である強制的な志願強要によりヤマト乗組員に編入すると遥かに小さくなった冥王星を、太陽系を後にした・・・


「地球防衛軍司令本部がでました」

 相原通信士の操作によりメインスクリーンを通して地球出発以来、三日ぶりに藤堂長官と再び相対した古代は、敬礼を交し合うと冥王星で体験した戦闘結果を淡々と報告した。

「我々が到着したときには、既に太陽系外周第三艦隊は一隻残らず壊滅・・・
 冥王星基地も正体不明の敵航宙機と地上部隊の攻撃により壊滅しました。
 負傷者を含む生存者72名は、地球へ送り返す方法がありませんのでヤマトへ収容しました」

『冥王星部隊は、宙陸ともに全滅か・・・
 そうか、分かった・・・』

 ヤマトからの悲痛な報告を聞いた地球防衛軍司令本部は誰も一言も発しない沈黙に包まれたが、小さく頷いた藤堂は続けて古代の瞳を真っ直ぐに見詰め返すと姿勢を正して再び口を開いた。

『古代一等宙佐および地球防衛軍宇宙戦艦ヤマト総員に防衛軍命令を伝える』

 メインスクリーンの前に集まっていた第一艦橋の乗組員は、命令という言葉に反射的に姿勢を改めた。

『命令。 古代一佐を2205年9月5日をもって正式に独航艦ヤマト艦長に任命・・・
 指揮下のヤマトは可及的速やかにアンドロメダ銀河方向のメッセージ発信源を調査せよ。
 尚、現在ヤマトへ乗り組んでいる全防衛軍隊員並びに軍属は、太陽系外周第三艦隊および冥王星基地要員の生存者を含めて臨時処置として追って別命あるまでヤマト艦長の指揮下へ置くこと』

 反乱として防衛軍命令を無視するかたちで地球を発進した宇宙戦艦ヤマトとヤマト乗組員に、発進日に遡っての正式な防衛軍命令が下された。
 根回しもなしの突然の決定に、無数の辞令を発行することになる地球防衛軍軍令部人事局が大混乱に陥っていたために当面は臨時処置というかたちではあるが命令は命令に違いない・・・ それが果たして地球連邦軍からの正式なものかは知る芳もないが・・・

「それでは長官・・・」

『うむ・・・状況は厳しい。 諸君の活躍に期待しているぞ』

 改めて敬礼を交し合ったメインスクリーンから藤堂長官の姿が消えると、替わって地球防衛軍から送られてきた新たな分析結果による詳細な位置の記された謎のメッセージ発信源までの航路図が表示された。


「よし、メッセージの発信源へ向かう」

「ようそろー ワープに入ります」

『了解。 機関ワープ出力へ上昇・・・ 黒一杯!』

 メインエンジン噴射口からの噴射光が一気に長く伸びるとともに周囲空間が僅かに歪み、一瞬に遥か彼方へ続く光の帯となったヤマトの巨大な船体が視界から忽然と消えた。

「ワープ!」


 

−白色矮星到来といわれる日まで、あと151日・・・ あと151日−
 

 
 Farewell 3.2 テレザート星
Teresa of double planet Translate


「古代! いや・・・艦長」

 連続するワープ航法の合間を縫って、CICの中央分析室で問題の矮星を捉えている超光速探査機と直接コンタクトを取って、次々に送られてくるデーターを分析していた真田技師長が、普段の態度に似合わない慌てた様子でエレベーターの扉が開くのももどかしく第一艦橋へ飛び込んでくる。

「真田さん。 もう勘弁してください・・・ 今まで通りでいいですよ」

「ああ・・・ すまんすまん」

「それで、真田さん。 どうしたんですか?」

 ヤマト艦内での配置とは違い防衛軍の階級的には上位になる真田代将に、未だに慣れない艦長と呼ばれた古代は照れたように戸惑いながら苦笑いで答えると、第一艦橋での持ち場である左舷側奥の主任分析制御席へ付いた真田志郎へ改めて質問を発する。

「ああ、これを見てくれ・・・ 例の矮星を捕らえていた深宇宙探査機の観測範囲から、突然完全に矮星が消えた」

「それじゃ・・・」

 恐れていたことが起きたという古代の暗い反応に、最悪の展開ではあるが十分に予想されていたことだけに真田は静かに頷きながら答えた。

「うむ・・・ 恐らくワープに入ったのだろう」

「そうですか・・・ それで、ワープアウトの地点は分からないんですか?」

「取り巻いている彗星状のガス体のせいで矮星の質量を推定する方法がない・・・
 エネルギー総量が計算できないのでワープ距離も全く推測する方法がないんだ」

 最終的なワープ距離というのは、ワープ空間突入時点に物体が持っている総エネルギー量から通常空間へ戻った時点でのエネルギーを引いた損失エネルギー量に比例するが、今回のように物体の質量もアープアウト時点での速度も分からないのでは計算をする方法が全くない。

「それでは、行き先は全く分からないんですか?」

「んん・・・ 恐らくは2万5,000から4万光年程度のワープ距離ではないかと考えているんだが、
 実際、これだけ範囲が広いと余程の偶然でもないと再発見するのは不可能といってもいいだろう」

 進む針路だけは太陽系方向へ向かっていると分かっているが、そのワープを含む実際の進行速度が分からないのでは具体的な対策の取りようがない。
 そこで、ヤマトでも探査機からのデータを受け取って分析を進めているのあるが、ワープアウト以降の再発見が事実上不可能というのでは、ただ苛立ちが募るだけで精神衛生上もよくない。

「イライラしてもはじまらん。 俺がいうのも変だが・・・
 今は、奇跡を信じて待つしかないな」

「そうですね・・・」

 特に待つことが苦手な古代には厳しい現実だが、今更この現実も自分の性格も変えることはできない。
 真田の指摘に、唇を噛んだ古代は黙って頷きを返すだけだった・・・


「よし、ワープに入る」


−白色彗星到来といわれる日まで、あと107日・・・ あと107日−


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「ワープ空間離脱・・・ 探査予定空間を探知可能な距離へ達します」

「前方10時方向、160万宇宙キロに恒星反応!」

 地球出発から47日・・・ ほぼ計算通りの位置に長距離コスモレーダーが恒星反応を捉えたが、近くには他の恒星反応が見られないことから、どうやらこの恒星系に属する惑星の一つが謎のメッセージの発信源のようであった。

「よし、計画通り探査プローブを出してくれ」

「了解! 探査プローブ、1番から6番発射よし!
 続いて次発装填急げ! 7番から12番発射!」

 探査予定空間といっても敵か味方かどころか自然反応なのか人工のものなのかさえも何も分からない状態で直接飛び込んでいくわけにもいかず、ヤマトは辛うじて長距離コスモレーダーで恒星を探知できる最大距離にワープアウトし、前部両舷各3連の空間魚雷発射管よりニ群12基の探査プローブを連続発射して慎重な調査活動に入る。


「探査プローブ全機、短距離ワープより通常空間へ戻りました。
 現在距離、本艦より1番から6番20万宇宙キロ、7番から12番10万宇宙キロ」

『艦橋CIC。 左舷12番プローブ! アンノン艦隊反応キャッチした!!
 本艦より11時56分、上下角2.14度、距離9万3,000宇宙キロ!』

 中距離グループの左端を進んでいたプローブが探知距離ギリギリで捕らえた艦隊反応・・・

 万が一の不測に事態に備えての探査行為であったが、ヤマト乗組員の誰もがメッセージ発信源の調査活動へやってきたつもりであり、まさかこんな所で敵と考えるしかないであろう艦隊反応を捕らえるとは思ってもいなかった。

「艦隊反応、速度31宇宙ノットで近付く・・・
 12番プローブよりの反応消失! 撃破されました!」

 本当なら残ったプローブで追加探査を行いたいところではあるが、航宙機と違いプローブは初期加速で与えられたエネルギーによりワープを行った後は慣性航行をするだけなので、実際は僅かな針路の補整程度のことしかできない。

「捕捉した艦隊を敵と規定! 全艦戦闘!」

「せんとー!!」

 ノイズに乱れる映像とともにメインパネルに映し出されていたプローブから送られたデータ表示がグリーンから敵を表すレッドに変わり、刻々と変り続ける推定データーへ覆い被さるように大きく警告表示が点されるとともに、全艦に響く警報と音声警告が大音響で流される。

『総員戦闘配置! 総員戦闘配置! 対艦対宙進行戦に備え!』


「ワープアウト反応!! 右舷! 近い!!」

「右舷被弾!! 駆逐艦4! 距離900!!」

 右舷直近に出現した見たことのない艦影の艦艇による回転式速射ビーム砲の猛攻を受けたヤマトは、戦闘配置を取っていたにもかかわらず、パルスレーザーは届かず主砲では動きに追従できない微妙な近距離を高速高機動で駆け抜ける敵艦に翻弄される。

「全周警戒! 副砲射撃はじめ!」

「副砲、撃ちぃ方はじめ!」

「小ワープ戦法か・・・?
 ガミラスと同じ戦法だ・・・」

 イスカンダルへ向かう航宙での七色星団宙域で戦ったガミラス艦隊が取った戦法と同じ攻撃法を取ってくる敵艦隊に、第一艦橋のベテランクルーの間にも疑心暗鬼が広がっているが、ガミラスはあの苦しかった8年間の戦いで滅んだはずではなかったのか・・・

「敵は、やはりガミラスなのか?」

「しかし、輻射紋も艦影も違い過ぎる・・・」

「新たな敵が現れているのか?」

 相変わらず上下方向とともにヤマトの弱点といってよい1,000宇宙キロ弱の中距離よりの攻撃を繰り返す敵艦艇の攻撃を受け続けるヤマトではあったが、三連装二基の副砲による精密速射と離れていく敵艦への南部戦闘班長による精密主砲砲撃により一艦づつ敵を排除していく。
 


「新たな敵艦4隻! 左舷8時、1,000へ出現!
 続いて右舷1時半方向、800にも4隻!」

「・・・ 島! 面舵一杯! 両舷加速一杯! 右舷敵艦の鼻面にぶつけろ!
 南部! 主砲全門は左舷の敵を狙え!」

 古代は右舷前方より迫りくる敵駆逐艦へ正面から衝突する針路変更を命じると、結果的にヤマトから離れることになる左舷の敵艦隊へ主砲の全力砲撃を命ずる。

『全艦緊急加速及び衝突警報! 全艦緊急加速及び衝突警報! 総員何かにつかまれ!!』

「ようそろー! 面舵一杯!」

 古代の命令に頷いた島航海長は復唱を返すと、艦首左舷バーニアと艦尾右舷バーニアの緊急全力噴射を含む急転舵を実施し、機関運転室に陣取る徳川機関長は全機関の全力発揮を機関の騒音に負けない大声で指示する。


『機関全力! 緊急加速、黒一杯ぁ〜い!』

 不足する人員で懸命に対応する機関科員たちの頭越しに、第一艦橋からの命令が機関室の騒音に負けない大音響でがなり立てられ、神経を逆なでする緊急警告音が鳴り響く。

「何をしているお前たち!! 緊急加速だ! 全リミッター解除しろ!」

 2199年の火星域会戦より徳川機関長の片腕として常に一緒に働いてきた防護服姿の藪助治特務二等機関宙尉は、通常の全速加速を実施しようとしていた機関員たちを押し飛ばし、自ら波動エンジンと補助エンジン2基の出力抑制安全レバー全てを殴りつけるように解除するとヤマトの全実力を発揮させていく。


 突然の猛烈な加速により正面から直近に迫るヤマトに、敵艦隊にも動揺が広がる。

 いくら地球の駆逐艦よりも大型だとはいっても、遥かに大型である戦艦との衝突を咄嗟的に避けて左右に転舵した敵艦の乱れを察知した古代が続けて叫ぶように命じる。

「ロケットアンカーだ! 左右の敵艦に打ち込め!!」

「ロケットアンカー照準! 投錨!」

 艦首左右のロケットアンカーを艦腹に打ち込み左右直近に迫っていた敵艦を排除すると、その背後から正面に現れた残った2隻の敵艦へ第一副砲による20センチ三連装ショックカノンの速射砲撃を集中する。


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「敵艦隊主力近付く! 10時方向! 距離5,000!
 大型巡洋艦クラス12隻! 駆逐艦クラス12隻!」

「煙突ミサイル! 長距離対艦モードで準備! 射程に入り次第攻撃開始せよ!」

「煙突上部扉全開放! VLS対艦誘導弾用意!」

 正面に縦方向三段の横隊陣形に展開した敵ミサイル巡洋艦と護衛の駆逐艦から無数のミサイルが一斉に発射され、ヤマトへ向かって空間を埋めるほどの飽和攻撃を仕掛けてくる。

「10時方向からミサイル多数急速に近付く! 距離3,000!!」

「左舷側発射管、シールド魚雷発射はじめ! パルスレーザー即時待機!
 舵戻せ! 機関緊急加速そのまま継続!」

 ヤマトが緊急加速を実施する以前を目標に発射された敵ミサイル群は左舷方向へズレた形で軌道修正しながら接近しており、左舷側発射管より連続発射されたシールド魚雷により斜行隊形に展開したエネルギーシールドで効果的に阻止されていく。

「敵ミサイル全弾排除!」

「VLS対艦誘導弾連続発射開始した!」

「よし! 主砲発射用意!」

 敵ミサイル第一波を防いだヤマトは、続いて射程距離に入った長距離対艦誘導弾を連続発射すると、主砲による最大射程からの左舷砲撃戦体制に入っていく。

「ようそろー 左舷反行戦用意」

「全主砲左舷斉発第一射法、撃ちぃ方用〜意!」

 古代の命令を待ちかねていた南部戦闘班長の戦意に溢れた号令により、ヤマトの主砲を担当する砲術班からの復唱が各砲塔より次々に第一艦橋へもたらされる。

「一番砲塔、準備よろし!」

「三番砲塔、用意良し!」

「二番砲塔、照準良〜し!」

 準備完了を告げる砲塔からの報告を聞きながら、太田航宙統制官の読み上げる有効射程距離までのカウントダウンに艦内の緊張が高まっていく。

「主砲有効射程まであと5秒、4・・・3・・・2・・・1・・・」

「撃ちぃ方はじめ!」

「撃て!」

 三波に及ぶVLS(垂直発射型)対艦誘導弾による攻撃で混乱する敵ゴーランド艦隊へ、連続して強力な9門のショックカノンによるエネルギービームの斉射が突き刺さり、二次攻撃用に準備されていたミサイルに誘爆すると次々に戦場より脱落撃破されていく。

 長年続いた敵対関係と戦争状態から奇妙な経緯により現在協力関係にあるガルマン連邦よりもたらされた情報と、地球本土に対する強行偵察により、地球とヤマトの情報により十分な準備をしていたとはいえ、多寡が後進惑星の旧式戦艦一隻と侮っていたガトランティス陣営は緒戦での手駒を一つ失った・・・


「我が空間機動打撃艦隊全滅! 本艦も・・・」

「大帝万歳・・・」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「ワープ空間離脱・・・ 間もなく探査予定空間へ到達します」

「前方10時方向、距離2万9,000に惑星反応2!!」

 敵艦隊との戦闘翌日実施された小ワープにより探知圏へと入ったヤマトのメインスクリーンに、互いに軌道を回りながら恒星の周囲を周回する惑星が映し出されたが、二連星の周囲には余り見掛けることのない渦状の微小物質の流れが見られ、奇妙な巴状の形状を形成した光の渦が惑星周囲を取り巻いていた。

「正二連惑星か? 珍しいな・・・」

 実際には月と地球の関係も学術的には二連星と区分されることもあるが、今回のように全くといっていいような同じ質量同士の二連星は宇宙でも珍しく、その複雑な運行軌道と重力場を考えると接近には細心の注意が必要で躁艦を受け持つ島にとっては緊張のほぐれる時がない。

 二連星の周りを取り巻く渦の外縁にまで近付いたヤマト艦内では複雑な周回軌道に乗った状態での様々な調査分析が続けられていたが、一方の惑星は全域に海のような液体をたたえた水の惑星、また一方は、一面砂漠のような砂嵐に包まれた砂の惑星、正反対の性格を見せる惑星に調査を進めるほどに困惑が広がっていた。

「しかし、どちらの星がメッセージの発信源なんだ?」

「常識的にいえば金属反応が複数現れている砂の惑星だろうが、
 水の惑星表面全域に広がる未知の巨大なエネルギー反応が気になる・・・」

 決定的な情報がないだけに真田といえども判断を躊躇するが、突然捕らえた指向性のエネルギー反応に相原が報告を上げる。

「砂の惑星より強い位置ビーコンが検知されましたが、直後に途絶えました・・・」

「どういうことなんだ?」

「んん〜 この反応は、ビーコンの発信源が物理的に破壊されたようだな・・・」

 恒星系前面で待ち受けていた敵の艦隊を思うと、敵対する二つ以上の勢力がこの宙域に存在すると考えるのが自然で、地上にも敵戦力があると考えて行動する必要がありそうだ・・・

「よし。 砂の惑星に揚陸班を降下させる。 空間騎兵隊用意!」

『惑星降下戦用意! 惑星降下戦用意! 総員地上よりの攻撃に備えよ!』


「よう〜し! お前たち出番だぞ!
 俺たちが毎日只飯食ってるんじゃないてことをヤマトの連中に見せてやるんだ!」

「レンジャー!!」

 揚陸艦と違いカプセル降下設備を持たないヤマトの艦尾航宙機格納庫に集合した強化戦闘服を含む完全武装の空間騎兵隊32名は、艦載機発進口より降下すべく逸る気持ちを抑えつつブラックタイガー隊の発進完了を待ち受ける。

『ブラックタイガー隊全機発進! 続いて空間騎兵隊降下揚陸用意!』
 


「ん? 何だ、ずいぶん寂しいお出迎えじゃないか」

「見渡す限り、一面砂ばっかりですぜ」

 降下した自分達32騎の強化戦闘服(パワードスーツ)と上空を飛行する16機のコスモタイガーU以外は見渡す限りどころか強化戦闘服と戦術リンクした広域探査レーダーにも砂嵐しか映らない一面砂漠のような平原と、視界を遮る無数の砂粒の間から所々に見え隠れする岩の小山だらけの荒廃した風景がパワードスーツの前面シールド越しに広がる。

 砂の惑星に自律戦闘降下した個人完全武装の空間騎兵隊員は、それぞれに砂漠の中で貴重な遮蔽物を求めながら、優勢な戦力の敵部隊との陸上戦闘を考えると悪夢としかいえない平地の多い地形に戸惑いを隠せないでいた。

「ようし、お前たち前進だ! 綺麗に散開しろよ」

「前進! 第二分隊は右。 第三分隊は左。 中央後方に第一分隊!」

 各分隊2名のレーダー員の強化戦闘服から高く突き出したアンテナ以外は半分砂面にもぐるような形で警戒前進を続ける男達は、上空警戒のコスモタイガーUから送られてくるデーターと付け合せながら捜索範囲を徐々に広げていく。


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「レーダーに反応! 1時方向200! 航宙機多数!」

「戦闘態勢! 全機続け!!」

 冥王星で遭遇した航宙機と同型の敵機多数と戦闘状態に入ったブラックタイガー隊は、数倍の数の敵に押し流されるように戦闘空域をずらして行き、徐々に地上の空間騎兵隊と離れてしまう。

 冥王星での戦闘で支援戦闘車両とほとんどの重火器を失っている空間騎兵隊の兵士達。
 その彼らを火力支援する唯一の存在であることを分かり過ぎるほど分かっているコスモタイガーUを操るパイロット達も、自分たち自身が生き残るのに精一杯の激しい戦闘にどうすることもできない。

「くっ! 何とか抜け出せる者は、一機でも基準空域へ復帰しろ!」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「正面12時! ミサイル反応多数! 着弾まで・・・20秒!」

「おお〜い、お前たち! しっかり頭を下げてろよ!
 いいかぁ、報告も入れずに勝手に死ぬんじゃねぇぞ」

 部隊の前方左右に広がっていた第二分隊と第三分隊のレーダー員が、ほぼ同時に前方から発射された無数の反応を捕らえて警告を発すると、斉藤隊長の少しとぼけた口調の落ち着いた命令が小隊全員に行き渡り、過剰な緊張の解けた部下達が失笑を漏らしながら砂へ潜るように遮蔽物へ伏せる。


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「惑星上に多数のミサイル反応出現!!
 空間騎兵隊の展開地点に向かっています!」

「南部! 主砲で迎撃できないか?!」

「無理です! 近過ぎて空間騎兵隊にも被害がでます!」

 惑星上を吹き荒れる砂嵐に電磁波を散乱させる物質が含まれているようで、静止衛星軌道上を周回するヤマトから正確なミサイル位置を特定できない南部は、自席の射撃方位照準パネルを厳しい芳情で睨みつけながら苦しげに返答を返す。

「・・・ よし、ギリギリまで降下して地上支援を行う!」

「ようそろー 微減速、位置同調軌道降下開始」

 古代の性格を知り尽くしている島は、命令が成される前に軌道降下プログラムを設定していたようで、間髪を入れずに慣性制御機構によりバランスを取りながら地上位置を固定したままでヤマトの軌道降下を行っていく。


「艦長! ブラックタイガー隊へ向かう敵機多数を捕捉!
 距離14万3,000メートル! 数およそ30!」

「南部! 副砲で狙えるか?」

 第一波の敵機と激烈な戦闘を行っているブラックタイガー隊へ向かう第二波の航宙機を捉えたヤマト第一艦橋では、まだ慣れない戦闘班長席に着く南部の背中へ古代の鋭い声が達するが・・・

「了解! 第一第二副砲射撃開始します!」

『右舷対空戦闘! 目標確認よし』

『2時の方向! 対空戦闘に備え〜!』

「副砲、右舷対空射撃はじめ」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「んん? 敵の包囲が緩んだぞ!」

「森隊、敵包囲から離脱! 地上支援に向かいます!」

 後続編隊を撃破されて動揺した敵編隊の包囲を破った森雪の指揮する4機のコスモタイガーUは、大気圏内最大速度で戦闘空域を離れると空間騎兵隊が展開する地域へと突進していく。


 

−白色矮星到来といわれる日まで、あと92日・・・ あと92日−
 

 
 Farewell 3.3 地球帰還・・・
Toward the Terra...


「敵部隊、重戦闘車両40を含む機甲化歩兵2個中隊!
 12時方向正面より接近中! 距離4,000メートル!!」

「第二第三分隊、対装甲擲弾統制射撃開始しろ!」

 戦闘地域上空へ復帰した4機のコスモタイガーUから送られたターゲティングデーターにより、僅かな砂の起伏に伏せていた空間騎兵隊の強化戦闘服背部兵器袈より一斉に発射された160発の91式小型誘導擲弾が高い放物線を描いて4キロ先の目標へ向かっていくと、一瞬の間を置いて敵機甲部隊周辺地域が猛烈な鉄と砂の嵐と爆炎に包まれる。

「よし! 野郎ども、ケツを上げろ!! オレに続け!」

「冥遣団ヤマト分遣小隊前進! 前進だ!!」

 斉藤隊長と砂岡副長の激にパワードスーツに厚く積もっていた砂を振り落とした男達は、先頭を進む二騎の歴戦により漆黒の無反射塗装がはがれセラミックの地肌を見せる鉄の背中を追いかけるように全力で鉄の嵐が吹き荒れる地平線へ向けて駆け出していく。


「第一分隊! 広域榴弾モード擲弾発射!!
 野郎ども、突っ込むぞ!!」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「斉藤! みんな無事か?!」

「ああ・・・ 負傷者はでてるが、みんなツバ付けときゃ治る程度だ。
 俺たち空間騎兵隊は宇宙軍の連中とは鍛え方が違うからなぁ〜」

 激戦の末に惑星上空の制空権を掌握したブラックタイガーの護衛を受けて、ヤマトの艦載内火艇に積み込んだ2基の地上発射型対装甲多弾頭誘導弾発射機を装備した8名の保安部隊を直接指揮した古代は、共同して残った敵地上部隊を制圧すると、実際には息も絶え絶えの状態だが相変わらず威勢だけは良い空間騎兵隊と合流した。


「どうやらセンサー反応によると、ここから地下へ降りられるようだな・・・」

『おいおい・・・ 降りたら、また奴らがゾロゾロと出てくるんじゃないだろうなぁ』

 91式個人支援戦術AI端末に接続したセンサーで微かな出力で発信されているビーコンを探査していた真田技師長が、斉藤の本心半分の軽口を受け流して古代へ視線を向ける。

「分かった、真田さん。 降りてみましょう。
 斉藤。 先頭は任せたぞ」

『はいはい。 危険な任務は空間騎兵隊にお任せってね・・・
 おい、野郎ども! 油断するんじゃないぞ!』

『レンジャー!!』

 負傷した空間騎兵隊員と保安要員を後続した内火艇で帰艦させた古代たちは、残留部隊の帰艦用に一隻の内火艇と地上警戒の一個分隊を残すと8名の空間騎兵隊員とともに未知の地下へと続く暗い通路へと向かっていく。

『随分狭いなぁ〜 艦長代理、こりゃ強化戦闘服じゃ無理だぜ』

「そうだなぁ・・・」

 強化戦闘服を屈み込ませながら洞窟の入り口を覗いていた斉藤が発した報告に、困ったような言葉とは裏腹の古代の意味ありげな瞳の表情が帰ってくる。

『おい! お前たち、全員除装だ!』

『うぇ・・・ 裸で最前線かよ・・・』

 ブツブツと不満を垂れる空間騎兵隊員たちも、鬼の下士官の鋭い叱責を受けながら素早くハードスーツでの戦闘装備を整えると、部隊の先頭に立って77式空間拳銃を油断なく構えながら慎重に空洞を降りていく。

「ムーブ! ムーブ! グズグズするな! 急げ!!」
 


「その先を左だ・・・」

「んん? 明るくなってきたぜ」

 真田が見詰める91式個人支援戦術AI端末の発光パネルにワイヤーフレームで立体表示される通りに、長く暗い空洞を降りてきた古代たちの目の前に突然のようにヤマトの中央工作室ほどもある大きなドーム状の空洞が広がる。

 その空洞の中央部には暗闇に慣れていた目には強すぎるほどの光を放つ直径2メートルほどの円柱構造物があり、不審物に対して反射的に空間騎兵隊の隊員が一斉に銃を構える。

「待て!」

「撃ち方ぁ待て! 周囲警戒!」

「全周防御!! 命令あるまで撃つな!」

 慌てて制止する真田に続いて斉藤が右手の合図とともに大声で命令を発し、8名の隊員たちが下士官の指示で素早く古代を中心とした円形の警戒陣を形成する。

「何だろう・・・ 攻撃してくる様子は無いようだけど・・・」

 ゆっくりと増減を繰り返す光に引き寄せられるように、警戒する空間騎兵隊に守られながら慎重に接近した古代たちは、センサーを近づけて91式端末を操作する真田を息を飲んで見詰め続けていた。


「・・・・・・!!」

 突然、光に慣れてきた目にも眩しいほどの光を発すると、円柱内部の中心部に光が集まっていき、驚く古代たちの目前で徐々に中央部のくびれた繭状の形へ収束していく。

『・・・よく、いらっしゃいました・・・
 ・・・わたしは、テレザートのテレサ・・・』

「テレザート?」

「テレサ?」

 今や人型にも見える形になった円柱内の光の増減に合わせるように、それぞれの頭の中に直接語りかけてくるように優しく響く声に真田を除く全員が驚いたように互いを見詰め合う。

「脳波共振か・・・」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「それでは、これは一種の通信システムなのですか?」

『・・・そうです・・・
 ・・・わたし自体は、隣のテレザート星におります・・・』

 真田に対して、それまでの経緯を語り続けるテレサと名乗る存在に、やっと直接頭の中に語りかけられるという生まれて初めての経験にも慣れてきた古代も質問を投げかける。

「それでは、テレザート星に行けば貴方と直接お会いできるのですか?」

『・・・残念ながら、わたしたちが直接接することはできません・・・
 ・・・あなたがたがテレザート星に触れることはできないのです・・・』

〈ん? あの惑星を包む奇妙な光の渦・・・ 対消滅反応・・・〉

 深く考え込んだ真田は、この二連星を最初に調査したときに感じた違和感を思い出していた。

「貴方は・・・ テレザート星は反物質でできているのですね」

『・・・そうです・・・
 ・・・わたしたちは、この次元宇宙の存在ではありません・・・』


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「ヤマト、テレザート星の影響圏を離脱しました。
 現在、距離4万7,000宇宙キロ・・・速度32宇宙ノット」

『波動エンジン充填80%』

「ワープ座標点確定よし」

〈しかし、そんなことが・・・〉

 メインパネル上で徐々に小さくなっていくテレザート星を見詰め続けていた古代は、未だにテレサの語ったことを受け入れることはできず信じることもできずにいた。

〈それでは、俺たちはこれまで何をやってきたんだ?
 俺たちこそが宇宙の悪魔だというのか・・・〉


「テレザート星に高エネルギー重力子変動あり!!」

「テレザート連星、爆発しました・・・」
 


『波動エンジン充填100%』

「強力な重力振動波急速に近付く!!」

「全艦衝撃に備えよ!」

「構うな! ワープだ!!」

『全艦衝撃警報! 全艦衝撃警報! 総員激しい衝撃に備えよ!』

 テレサが語ったようにテレザート連星付近へとワープアウトした白色矮星に対して、それぞれ常物質と反部質で構成されている連星を反応させたテレサの意思は、1ヘクサトンを超える膨大な質量の対消滅反応により次元宇宙を揺るがすほどの途方も無い爆発を起こした。

「白色矮星が停止しました!」

「ワープ!!」

 それに対して、テレサが予言したとおりに爆発の致命的な影響を避けるために白色矮星は停止した・・・
 これは、明らかに矮星が人為的な意思を持ってコントロールされていることを物語っており、白色矮星は人工的な超巨大宇宙船、空間機動惑星とでもいえるのだろうか?

「コスモレーダーフィールドアンテナ破損!」

「慣性コントロールシステムに異常!」

「艦尾メインノズル一部損傷!」

 緊急の短距離ワープから通常空間へと戻ったヤマトの船体各部より続々と入ってくる爆発による破損報告が第一艦橋に流れる中、無言で艦橋中央部に立ち続ける古代の横顔を黙って伺った真田は、船体修理の命令を戦闘時の応急長を兼ねることになる副長として発した。

「各部復旧急げ!」

「空間騎兵隊は応急対処、技術班および甲板員は船体修理に掛かれ!」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「古代! いったいどうしたんだ?
 テレザートから帰ってきてから、お前変だぞ」

「古代、どうしたんじゃ? 具合でも悪いんか・・・」

 艦内が地球へ向けての長距離ワープ準備と先程受けた損傷の修理作業でバタついている中、四畳半ほどの狭い艦長室へ技師長の真田志郎代将、航海長の島大介二佐、機関長の徳川彦左衛門二佐、空間騎兵隊の斉藤始三佐、それと艦医の佐渡酒造二佐相当官の側近5名のみを集めた艦長古代進一佐は、テレザート連星へ上陸しておらず状況の分からない島からのキツイ質問を受けていた。

「帰ってくるなり説明もなしに緊急軌道離脱とワープ・・・ そして、この爆発だ。
 いったい何が起こっているのか、俺たちにも分かるように説明してくれ!」


「真田さん・・・」

「うむっ」

 小さく頷いた真田技師長は、テレザートでの出来事を淡々と語っていった・・・

「あの砂の惑星と連星を組んだ水の惑星 ― テレザート星は、元々我々の宇宙のものではない。
 5年前に突然起こった強力な次元振動で、元の宇宙から我々の世界へ弾き出されてきたんだ・・・」

「5年前・・・ しかし、そんな短期間で惑星の軌道が安定するなんて・・・」

 それまであった恒星系に突然侵入した惑星がまがりなりにも安定した軌道をとるには、たとえ偶然が重なったとしても数万、数百万年単位の時間が必要となるだろう。

「テレザート星があった元の宇宙は時間の進み方が我々とは異なるんだ・・・
 次元転換が進み徐々に今の時間軸に揃いつつあるが、この5年間が彼らにとっては数日に過ぎない・・・
 あの二つの惑星は連星を組んでいたのではなく、我々にはゆっくりと見える衝突の途上だったんだよ」

「あの通信は助けを求めていたのではなく、大規模な対消滅爆発の危険に対する警告・・・
 彼らの限られた時間にできる唯一の行動だったんだ」

「訳が分からねぇや。 そんな世界があるなんてなぁ」

「んん〜 ワシにはサッパリじゃ」

 ワープ航法を経験しているヤマトの乗組員には、時空の歪みという形で現れる時間の進み方が異なるというのは理解できるが、それほどの大幅な異差があっては因果律が否定されかねない。

「いや、実際に砂の惑星に数時間上陸した我々の時間とヤマトの艦内時計が異なっている。
 徐々に変っているテレザート星の時間変動と軌道の変化を計算してみたんだが・・・
 砂の惑星から回収した試料の次元反応とも矛盾しない次元跳躍の時間がほぼ特定できた」

「・・・それが地球時間で、今から4万5,000時間ほど前・・・ つまり5年前の9月初めだ」

「まさか!」

「そんな・・・」

 今から5年前・・・
 2200年9月6日、ヤマトがイスカンダルから地球への帰還を果たした日・・・
 そして、ワーププローブによる重時空爆発でデスラー艦を葬った日・・・

「そしてもう一つ、我々が白色矮星と呼んでいるものはアンドロメダ銀河から来た武装機動都市惑星で、
 大マゼラン銀河、小マゼラン銀河にまたがるガルマン連邦を破り征服したガトランティス帝国の尖兵・・・」

「ガルマン連邦・・・?」

「ガミラス・エルタ・ルヴァイス・マルーゼンタル・ウンデット連邦・・・
 ガミラスおよび拡大マゼラン諸星系連邦・・・ ガ・ル・マ・ンだ」

 誰もが一言も発せない沈黙の中、真田の奇妙なほどに冷静な言葉だけが続いていく。


「それまで百年近くに渡って侵略に対して拮抗していたガルマン連邦は、中心指導者を失って瓦解した。
 その連邦内で神にも等しい英雄とされていた指導者とは・・・ デァ・スラゥ(我らが希望)・・・」

「それじゃ・・・」

「そうだ。 あのデスラーだよ・・・」


 

−白色矮星到来といわれる日まで、あと38日・・・ あと38日−
 

 
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