「新たな敵艦4隻! 左舷8時、1,000へ出現!
続いて右舷1時半方向、800にも4隻!」
「・・・ 島! 面舵一杯! 両舷加速一杯! 右舷敵艦の鼻面にぶつけろ!
南部! 主砲全門は左舷の敵を狙え!」
古代は右舷前方より迫りくる敵駆逐艦へ正面から衝突する針路変更を命じると、結果的にヤマトから離れることになる左舷の敵艦隊へ主砲の全力砲撃を命ずる。
『全艦緊急加速及び衝突警報! 全艦緊急加速及び衝突警報! 総員何かにつかまれ!!』
「ようそろー! 面舵一杯!」
古代の命令に頷いた島航海長は復唱を返すと、艦首左舷バーニアと艦尾右舷バーニアの緊急全力噴射を含む急転舵を実施し、機関運転室に陣取る徳川機関長は全機関の全力発揮を機関の騒音に負けない大声で指示する。
『機関全力! 緊急加速、黒一杯ぁ〜い!』
不足する人員で懸命に対応する機関科員たちの頭越しに、第一艦橋からの命令が機関室の騒音に負けない大音響でがなり立てられ、神経を逆なでする緊急警告音が鳴り響く。
「何をしているお前たち!! 緊急加速だ! 全リミッター解除しろ!」
2199年の火星域会戦より徳川機関長の片腕として常に一緒に働いてきた防護服姿の藪助治特務二等機関宙尉は、通常の全速加速を実施しようとしていた機関員たちを押し飛ばし、自ら波動エンジンと補助エンジン2基の出力抑制安全レバー全てを殴りつけるように解除するとヤマトの全実力を発揮させていく。
突然の猛烈な加速により正面から直近に迫るヤマトに、敵艦隊にも動揺が広がる。
いくら地球の駆逐艦よりも大型だとはいっても、遥かに大型である戦艦との衝突を咄嗟的に避けて左右に転舵した敵艦の乱れを察知した古代が続けて叫ぶように命じる。
「ロケットアンカーだ! 左右の敵艦に打ち込め!!」
「ロケットアンカー照準! 投錨!」
艦首左右のロケットアンカーを艦腹に打ち込み左右直近に迫っていた敵艦を排除すると、その背後から正面に現れた残った2隻の敵艦へ第一副砲による20センチ三連装ショックカノンの速射砲撃を集中する。
* * * * * * * * * * * *
「敵艦隊主力近付く! 10時方向! 距離5,000!
大型巡洋艦クラス12隻! 駆逐艦クラス12隻!」
「煙突ミサイル! 長距離対艦モードで準備! 射程に入り次第攻撃開始せよ!」
「煙突上部扉全開放! VLS対艦誘導弾用意!」
正面に縦方向三段の横隊陣形に展開した敵ミサイル巡洋艦と護衛の駆逐艦から無数のミサイルが一斉に発射され、ヤマトへ向かって空間を埋めるほどの飽和攻撃を仕掛けてくる。
「10時方向からミサイル多数急速に近付く! 距離3,000!!」
「左舷側発射管、シールド魚雷発射はじめ! パルスレーザー即時待機!
舵戻せ! 機関緊急加速そのまま継続!」
ヤマトが緊急加速を実施する以前を目標に発射された敵ミサイル群は左舷方向へズレた形で軌道修正しながら接近しており、左舷側発射管より連続発射されたシールド魚雷により斜行隊形に展開したエネルギーシールドで効果的に阻止されていく。
「敵ミサイル全弾排除!」
「VLS対艦誘導弾連続発射開始した!」
「よし! 主砲発射用意!」
敵ミサイル第一波を防いだヤマトは、続いて射程距離に入った長距離対艦誘導弾を連続発射すると、主砲による最大射程からの左舷砲撃戦体制に入っていく。
「ようそろー 左舷反行戦用意」
「全主砲左舷斉発第一射法、撃ちぃ方用〜意!」
古代の命令を待ちかねていた南部戦闘班長の戦意に溢れた号令により、ヤマトの主砲を担当する砲術班からの復唱が各砲塔より次々に第一艦橋へもたらされる。
「一番砲塔、準備よろし!」
「三番砲塔、用意良し!」
「二番砲塔、照準良〜し!」
準備完了を告げる砲塔からの報告を聞きながら、太田航宙統制官の読み上げる有効射程距離までのカウントダウンに艦内の緊張が高まっていく。
「主砲有効射程まであと5秒、4・・・3・・・2・・・1・・・」
「撃ちぃ方はじめ!」
「撃て!」
三波に及ぶVLS(垂直発射型)対艦誘導弾による攻撃で混乱する敵ゴーランド艦隊へ、連続して強力な9門のショックカノンによるエネルギービームの斉射が突き刺さり、二次攻撃用に準備されていたミサイルに誘爆すると次々に戦場より脱落撃破されていく。
長年続いた敵対関係と戦争状態から奇妙な経緯により現在協力関係にあるガルマン連邦よりもたらされた情報と、地球本土に対する強行偵察により、地球とヤマトの情報により十分な準備をしていたとはいえ、多寡が後進惑星の旧式戦艦一隻と侮っていたガトランティス陣営は緒戦での手駒を一つ失った・・・
「我が空間機動打撃艦隊全滅! 本艦も・・・」
「大帝万歳・・・」
* * * * * * * * * * * *
「ワープ空間離脱・・・ 間もなく探査予定空間へ到達します」
「前方10時方向、距離2万9,000に惑星反応2!!」
敵艦隊との戦闘翌日実施された小ワープにより探知圏へと入ったヤマトのメインスクリーンに、互いに軌道を回りながら恒星の周囲を周回する惑星が映し出されたが、二連星の周囲には余り見掛けることのない渦状の微小物質の流れが見られ、奇妙な巴状の形状を形成した光の渦が惑星周囲を取り巻いていた。
「正二連惑星か? 珍しいな・・・」
実際には月と地球の関係も学術的には二連星と区分されることもあるが、今回のように全くといっていいような同じ質量同士の二連星は宇宙でも珍しく、その複雑な運行軌道と重力場を考えると接近には細心の注意が必要で躁艦を受け持つ島にとっては緊張のほぐれる時がない。
二連星の周りを取り巻く渦の外縁にまで近付いたヤマト艦内では複雑な周回軌道に乗った状態での様々な調査分析が続けられていたが、一方の惑星は全域に海のような液体をたたえた水の惑星、また一方は、一面砂漠のような砂嵐に包まれた砂の惑星、正反対の性格を見せる惑星に調査を進めるほどに困惑が広がっていた。
「しかし、どちらの星がメッセージの発信源なんだ?」
「常識的にいえば金属反応が複数現れている砂の惑星だろうが、
水の惑星表面全域に広がる未知の巨大なエネルギー反応が気になる・・・」
決定的な情報がないだけに真田といえども判断を躊躇するが、突然捕らえた指向性のエネルギー反応に相原が報告を上げる。
「砂の惑星より強い位置ビーコンが検知されましたが、直後に途絶えました・・・」
「どういうことなんだ?」
「んん〜 この反応は、ビーコンの発信源が物理的に破壊されたようだな・・・」
恒星系前面で待ち受けていた敵の艦隊を思うと、敵対する二つ以上の勢力がこの宙域に存在すると考えるのが自然で、地上にも敵戦力があると考えて行動する必要がありそうだ・・・
「よし。 砂の惑星に揚陸班を降下させる。 空間騎兵隊用意!」
『惑星降下戦用意! 惑星降下戦用意! 総員地上よりの攻撃に備えよ!』
「よう〜し! お前たち出番だぞ!
俺たちが毎日只飯食ってるんじゃないてことをヤマトの連中に見せてやるんだ!」
「レンジャー!!」
揚陸艦と違いカプセル降下設備を持たないヤマトの艦尾航宙機格納庫に集合した強化戦闘服を含む完全武装の空間騎兵隊32名は、艦載機発進口より降下すべく逸る気持ちを抑えつつブラックタイガー隊の発進完了を待ち受ける。
『ブラックタイガー隊全機発進! 続いて空間騎兵隊降下揚陸用意!』
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