『全艦戦闘配置! 全艦戦闘配置! 突発的な攻撃に備えよ!』
艦内に戦闘配置警報が鳴り響きヤマト全艦が戦闘配置に入っていく中、第一艦橋では不安と緊張の沈黙を破り発した古代の命令で小惑星の影からヤマトは決戦に向けて出ていこうとしている。
「ヤマト総員に達する、艦長代理古代だ。 皆その場で聞いて欲しい。
いよいよ我々は目的としてきた星へ到達しようとしている。
これが14万8,000光年の長い旅の最後の戦いとなるだろう・・・」
『今、我々の目の前に目的地としてきたイスカンダル星がある。
だが、送られてきた座標はガミラスの罠なのかもしれない・・・
この星へ向かうのは敵の思う壺なのかもしれない』
『しかし、それが暗闇の中の僅かな光だとしても、
少しでも可能性があるなら我々は前に進まなくてはならない。
それが、このヤマト(大和)というフネの宿命なんだ・・・』
艦内全てに古代の訓示が流れる中、乗組員の全てが最後の戦闘へ向けての準備を進める・・・
艦橋で、指揮所で、砲塔で、発射管で、銃座で、格納庫で、機関室で、医療室で、烹炊所で・・・
「みんな! この戦いに勝とう!!
そして、可能性を本物の希望に変えよう!」
「地球に残してきた人々のために・・・
いや、俺たちの愛する家族のために!
もう一度、緑の地球を取り戻そう!
このフネ全員の願いを・・・
沖田艦長の思いを・・・
全力で成し遂げるんだ!!」
古代の訓示を聞いたヤマト艦内で最後の戦闘への準備を行っている全将兵は、それぞれの持ち場で姿勢を改めると沖田艦長のいる艦長室に向かって一斉に胸に拳を当てる宇宙艦隊式の敬礼を贈る。
艦内要所の映像を艦長室で見ていた沖田艦長も、照れたように傍らの佐渡先生を一瞬見ると、ベットから僅かに上半身を起こし海軍式の敬礼を返した。
* * * * * * * * * * * *
『空間騎兵隊! 総員降下揚陸戦用意! ブラックタイガー隊発進完了後の降下に備えよ』
「総員騎体及び降下装備点検異常なし!」
「野郎共集合! 小隊長に対し敬礼!!」
ブラックタイガー隊の全力出撃でごった返す艦尾格納庫脇に集合した強化戦闘服により完全武装された空間騎兵隊12名は、この航宙で初めての戦闘強襲降下揚陸となる張り詰めた緊張感の中で、まるで刑場へと昇る13段の階段を一段一段数えるようにコスモタイガーの出撃を見詰めていた。
「いいか、お前たち! 普段の訓練通りだ、いい仕事しろよ!」
「レンジャー!」
「空間騎兵隊は宇宙最強だってことを宇宙軍の奴等に見せてやるんだ!」
「レンジャー!!」
広域輻射波軽減耐熱樹脂の再塗装がなされたばかりの同じ傷一つない真新しい漆黒のパワードスーツに身を固めた斉藤隊長は、普段のふざけた態度からは想像も出来ない真剣な態度で緊張の隠せない部下達の士気を鼓舞していくが、命を賭けた出撃前の儀式ともなっている大声のやり取りを繰り返すうちに部隊全体が狂気と紙一重の異常な興奮状態へと陥っていく。
「俺たちは空間騎兵隊を愛している!! イスカンダルの一番乗りは、俺たちだ!」
「レンジャー!!!」
* * * * * * * * * * * *
「島?!」
「ようそろー 最大戦速。 取り舵一杯!」
「ブラックタイガー隊全機発進よろし!」
カタパルトより発艦したコスモゼロに続いて全10機のF-96Bコスモタイガー改を艦尾発進口より発艦させたヤマトは、無数のミサイルが待ち受けるであろうイスカンダルと再び相対そうとしている。
「あと3秒で小惑星から外れます」
「ミサイル多数急速に近付く! 距離1万1,000宇宙キロ!」
「主砲副砲射程に入り次第迎撃開始!」
「主砲斉射!」
「主砲斉発第二射法、撃ちぃ方はじめ!」
対宙魚雷とミサイルを射耗したヤマトは主砲の遠距離射撃で迎撃を繰り返すが敵ミサイルの数は膨大であり撃ち漏らしたミサイルの被弾により被害が続出する。
「第一砲塔被弾!」
「右舷第二パルスレーザー群大破!」
「第一副砲大破!」
強固な装甲を施されたヤマトの第一主砲塔もミサイルの被弾で破損し、三連装の46センチ主砲のうち三番砲が発射不能となるなど被害は拡大していくがヤマトの前進が止まることはない。
「イスカンダルまで距離4,500宇宙キロ!」
「主砲目標変更、イスカンダル外郭パネル! ミサイルはパルスレーザーで迎撃しろ!」
「パルスレーザー攻撃はじめ!」
外郭パネルを主砲の射程距離に捕らえたヤマトは、古代の命令により艦首方向で発射可能な5門の主砲で反撃を加える。
「了解! 第一第二主砲目標変更、第一射法へ切り替えよし!」
「撃ちぃ方はじめ!」
「てっ!」
主砲の斉射は南部砲雷長の狙い通りに何らかの施設があると思われる外郭パネルの照明が漏れる部分を直撃するが、完全にエネルギービームが弾かれ全く効果が見られない。
「ダメだ! パネル表面は全ての輻射エネルギーを完全に反射している!」
真田技師長の分析通りであれば、実体弾である宇宙魚雷とミサイルを全弾射耗したヤマトにはコスモタイガーの機載ミサイル以外には最早攻撃手段はないことになる・・・
〈コスモタイガー・・・ そうか!〉
「ブラックタイガー加藤! ミサイル発射の瞬間をターゲティングしろ!」
ミサイル発射の瞬間にミサイルサイトのパネルが開くことを捕らえた古代は、ブラックタイガー隊の加藤隊長にピンポイント・ジャストタイムでの座標特定を命じた。
『簡単に言ってくれるよ・・・ 了解した!』
「ブラックタイガー隊全機、聞いたか? 掛かれ!」
『了解!』
ブラックタイガー隊のターゲティングとタイミングを合わせた南部砲雷長の神業的な砲撃で1基つづミサイル発射基地を主砲で狙撃していくヤマトではあったが、ミサイルの数は一向に減る気配がなく、一隻の戦艦と惑星サイズの基地との火力の差を改めて思い知らされる。
「現在までのところ、ミサイル発射基地反応407基を確認!」
「これじゃ切りがないぞ!」
未だヤマトが特定していない物を含めれば1,000基を軽く越えると思われるミサイル基地を相手にしていては到底勝ち目はなく、このまま漫然と戦闘を続けていてはヤマトが撃破されるもの時間の問題でしかない。
「島! 全速だ! 全速でイスカンダルの外郭パネル内に飛び込む!
ブラックタイガー隊はヤマトの影に入って続け!」
「ようそろー 両舷全速! 機関長、全速!! 全速願います!」
『了解した。 機関全力!』
船外服に身を固めた徳川機関長は、島航海長の切迫した声に普段は機関破損の可能性があるために使用することを規則で禁じられている機関全力を命じ、ヤマトの波動エンジンをはじめ全ての機関が限界出力での運転を始めた凄まじい轟音とリークしたタキオン粒子の眩い閃光に機関室は包まれていく。
「波動エンジン全力運転! 補助エンジン全開!
藪! オーバーブーストを使え! 焼き切れても構わん!」
「機関全リミッター解除! 波動エンジン出力145%!」
『直ぐに後進一杯を掛けるぞ!』
「後進一杯即時待機!」
イスカンダル星に向かって真っ直ぐに全力航行を続けるヤマトは秒速3万8,000キロを超える凄まじい速度になっており、敵ミサイルの照準を振り切りながら地表に激突する勢いで流星のように落下していく。
「波動エンジン全力逆噴射! 主翼展開! 上げ舵一杯!!」
『安定翼、開き方用意ぉ〜い!! 急げ!』
『機関急制動! 後進一杯!!』
通常の慣性制御による惑星降下ではなく昔ながらの重力降下をするヤマトは、波動エンジンの全力逆噴射にも関わらず巨大な慣性の付いた凄まじい速度での大気との摩擦熱で灼熱しながら地表へ向けて落下し続けているが、パネルを越えた地点で強引に主翼の展開と一杯の上げ舵を付けたことで猛烈な空気抵抗を受けて徐々に減速していく。
「地表まで100宇宙キロ! ・・・80・・・60・・・」
恐怖に声が裏返りそうになるのを懸命に堪えながら地表激突までの距離を読み上げ続ける太田航宙統制官の声が第一艦橋に響く中、艦橋前面の窓には目前に迫った海面が大きく広がり誰もが息をすることも忘れて固まっている。
「島?!」
「くぅ! 艦首(とも)下げ!!」
海面上空で艦を立て直すことが不可能だと判断した島航海長は、海面ギリギリで舵を下げ激突の衝撃を柔らげるとヤマトはそのまま艦首から海中へ突入した。
「うわっ!」
摩擦熱で真っ赤に焼けたまま海中に突入したヤマトは、猛烈な熱で瞬時に蒸発した海水の凄まじい水蒸気に包まれたまま上げ舵を取った主翼の浮力により海面へ飛び上がる。
「くうっ!」
海面激突時の慣性コントロールの制御限界を超えた衝撃で殆どの乗組員の意識が朦朧とする中、ヤマトの舵を握る島航海長には意識を失う贅沢など許されるわけもなく水蒸気爆発による気流の乱れで躁艦が不可能になりつつあるヤマトを辛うじてコントロールしている。
14万8,000光年の苦難の旅の末に目的地にへたどり着いたヤマト・・・
しかし、ここは本当に人類の明日への希望イスカンダルなのか?
急げヤマトよ、人類絶滅までの時間は刻一刻と迫っているのだ・・・
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