Welcome to My Doll House Refleet
Space Battleship YAMATO Episode 5
Top Column Gallery Making Present Link's Mail
 

Space Battleship ヤマト 2199

イスカンダル
 Episode 5.1 美しい青き星
Beautiful, blue star


 七色星団宙域でのガミラス銀河攻略総軍特任空間機甲軍との大規模な戦闘を終えてからは、深く傷付いた船体の損傷修理での遅れを取り戻すべく順調に最大限のワープ航法を続けてきたヤマトは、大マゼラン銀河外縁で待ち受けたガミラス帝星防衛第三親衛空間機甲軍の攻撃も辛うじて退け、いよいよイスカンダル星のあるといわれる太陽系サンザーへと近付いていた。

『ワープ態勢解除! ワープ態勢解除! 各部状況を確認せよ!』

 地球出発から263回目となるワープを終えて通常空間へ戻ったヤマトは、航海班の航路計算通りであれば長距離コスモレーダーで太陽系サンザーを捕らえられる距離に来ているはずである。

「ワープ終了。 通常空間へ戻りました」

「船体、機関、周囲空間ともに異常ありません」

「現在推定地点、恒星サンザーを基点とした143万から145万宇宙キロの空間点」

「12時方向上方3度、距離143万7,000宇宙キロに恒星反応!」

 第一艦橋の前方窓中央に周辺にある星より僅かに大きな赤い星が見えており、これがイスカンダル星があるという恒星サンザーのようであった。

「あれか?」

「最大倍率でビデオパネルに投影!」

 第一艦橋のビデオスクリーンに拡大された恒星サンザーの右方向には小さく青く輝く惑星が映っており、送られてきた座標からすると惑星イスカンダルその星のようであるが、現在の距離では最大に拡大しても点でしかなく詳細は分からない。

「イスカンダルだ!!」

「イスカンダルが見えたぞ!」

「これが・・・ イスカンダル・・・」

 舵を握っている島航海長以外の全員が第一艦橋のビデオスクリーン周辺に集まって画像に釘付けになっており、艦橋以外の乗組員も持ち場を離れられる者はそれぞれに艦内各所に設置されている拡大スクリーンを見ることができる場所に集まっていた。

「終に来たんだな・・・」

「ああ・・・ あと一息だ」

 航海長席からスクリーンを見上げていた島航海長は、視線を回すと隣の古代艦長代理と目を合わせてお互いに笑顔を交し合った。

「よし。 両舷強速!」

「ようそろー 前進〜強ぉ〜速!」

『了〜解。 機関増速、黒フタジュウ(20)』

 ここまで来ればイスカンダルまで通常航行でも僅か3日の距離である。
 ヤマトは周囲空間の状況分析を進めながら通常空間を20宇宙ノットで航行していく。


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「前方12時方向より長距離大型ミサイル近付く! 数およそ60! 距離2,000!!」

「何! 12時方向?!」

「12時方向って、そっちはイスカンダルじゃないか?」

 中距離のコスモレーダーで周囲空間を探っていた太田航宙統制官より有り得ない報告がもたらされ、第一艦橋をはじめヤマト全艦は状況不明のまま戦闘態勢へと移っていく。

「全艦戦闘用意!! ミサイル迎撃態勢!」

『せんとぉ〜!! 12時方向の〜ミサイルにぃ備えぇ〜!』


『全艦戦闘配置! 全艦戦闘配置! ミサイル迎撃態勢をとれ!』

 非番で、ゆったりと艦内食堂ヤマト亭で食事をしながら壁面スクリーンでイスカンダルの映像を見ていた非直の者たちも、それぞれヘルメットを掴むと給食トレーを弾き飛ばして戦闘配置へと駆け出す。

「何っ!! 急げ!」

「まったく・・・ 毎度毎度仕事を増やしてくれるよ」

 持ち場へと急ぐ乗組員たちの背中を烹炊所のドア越しに見送りながら、新谷烹炊科長は半年前の地球出発時とは比べ物にならない隊員たちの素早い対応に頼もしさ半分の苦笑いを浮かべていた。

「よし! 俺たちは戦闘配食の用意だ!
 とびっきり美味いのを作るぞ! 急げ!」
 


「ミサイル四方向へ分かれました! ヤマトを全周から包み込んで攻撃してくるものと思われます!」

『第一副砲射撃用意照準完了!』

『第一主砲射撃用意よろし!』

「パルスレーザーAAW用意よし!」

 本来は対宙近接防御の要となるパルスレーザー群全体を指揮する高角科長の杉山和彦一尉も、多数の負傷者により欠員の出ているパルスレーザー砲座の一つに自ら飛び込むように乗り込むと、一連の動作で対宙コスモレーダーとの回路を接続しながらヘッドセットやヘッドアップ照準表示器と一体になったヘルメットを被り、目の前に映し出された表示を素早く確認するとともに艦橋へ報告を入れる。

『煙突上部扉全セル開放、VLS対宙誘導弾用意よし!』

『第二主砲照準よろし!』

 戦闘配備命令から20秒、各兵装管制官の準備報告に続いて太田航宙統制官の切迫した敵ミサイルの着弾警告が被さって第一艦橋に響き渡る。

「敵ミサイル、迎撃不可能域まで、あと45秒!」

『艦首魚雷発射管、対宙装填よろし!』

「全砲、全誘導弾使用自由! 全力迎撃せよ!」

「撃ちぃ方はじめ!」

 古代の命令で敵ミサイルを捕らえることができる全主砲、副砲、煙突ミサイル、艦首宇宙魚雷が全力攻撃をはじめ、距離が迫ると共にパルスレーザーの射撃も加わりヤマト全艦が火達磨になったような凄まじい弾幕攻撃が続けられる。

 迎撃の発射音とミサイル着弾の轟音で雑然とする中、第一艦橋では新たな敵ミサイル群を捕らえたレーダー情報が続いてもたらされていた。

「左舷側中央部に被弾!」

「二番主砲塔被弾!」

「敵第二波ミサイル近付く! あと30秒!!」

「これじゃー 消耗戦だ!」

 技術班長席で独自のレーダー解析画面を見詰めていた真田技師長は、モニターに映し出された無尽蔵ともいえる飽和攻撃を掛けてくるミサイルの膨大な数に思わず呟きを漏らす。

『VLS、対宙誘導弾射耗!』

『艦首発射管、シールド魚雷射耗! 対宙クラスター魚雷発射!』

「凄い数です! 迎撃し切れません!」

 艦長代理を兼任している古代に代わって戦闘班長の任務も一部肩代わりしている南部砲雷長が、ヤマトの迎撃能力を遥かに上回るミサイルの数に万策尽きて戦闘班長席の古代へ救いを求めるように視線を送る。

「ワープだ! ワープで回避!」

「航路計算が間に合いません!!」

 次々と迫りくる敵ミサイルの軌道計算を集中して行っている太田航宙統制官に代わって中長距離空間探知と航路計算を担当している相原通信士が、古代の無茶な命令に悲鳴を上げる。

「どこでもいいから早く!」

「古代! 無茶だ!!」

「着弾します!!」

 真田技師長の警告を無視して戦闘班長席を蹴り航海長席へ駆け寄った古代は、航路座標指示端末にランダムに数値を打ち込むとワープレバーを引こうとするが、慎重な島航海長がレバーを必死でカバーしており古代のワープ実施を許そうとしない。

「目標フタ(2発)、迎撃不可能域へ侵入・・・続いてロク(6発)近付く」

「島ぁ〜!!!」

「くっ!!」

 古代の気迫に僅かに見詰め合った島航海長ではあったが、信頼する古代の固い決意に自らの迷いを消すように意を決すると共にワープレバーを力一杯引いた。

 ワープ実施によりヤマト周囲の空間が揺らぎ閃光と共にヤマトの巨大な船体が忽然と消えると、僅かな時間差で無数のミサイルが着弾しミサイル同士の衝突により連続爆発を起こしている。


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


 小ワープでミサイルを避け別の空間へ出たヤマトに、ワープに巻き込んだのであろうミサイル一発が艦尾に着弾して思わぬ衝撃が走る。

「古代! 貴様何をやったか分かっているのか?!
 この空間に他の物体があったら我々は木っ端微塵だったんだぞ!」

「ワープしなくてもミサイルで木っ端微塵だったんです!」

 ミサイル着弾に被害警報が鳴り響く第一艦橋では普段冷静な真田技師長が衝撃から立ち上がった古代に詰め寄っていたが、冷静になるにつれお互いに分かり合い、フッと力を抜くとそれぞれの持ち場へ戻っていく。

「現在地点は?」

「イスカンダルへ130万宇宙キロほど近付いたようです。
 方位フタハチロク(286度)下方ロクフタ(62度)11万4,000宇宙キロにイスカンダルが見えます」

「あれは?」

 ビデオスクリーンには惑星と見分けられえるほどに大きくなったイスカンダルが映し出されており、その特異な形状に第一艦橋の乗組員全員が息を止めて見詰めていた。

 北極に近い位置から見る惑星自体は遊星爆弾攻撃以前の地球に良く似た海と思われる部分が青く輝く美しい星であったが、その赤道付近には巨大という言葉では全く表せないほどの想像を超えた巨大な人工構築物が惑星全周に渡って取り巻いており、サンザーの光を浴びた左側は鏡のように赤く煌き、夜の側の暗い部分は所々が大都市のように発光し様々な色に煌いているパネルが惑星表面の半分ほどを覆い隠していた。

「綺麗・・・」

「軌道パネルか?」

「軌道パネル?」

「そうだ。 宇宙エレベータから広がった惑星全周囲を覆う人工のカプセルだよ」

 よく見ると、赤道付近の静止衛星軌道上全周を覆ったパネルは所々に惑星表面を覗かせながら南北の極に向かって部分的に伸びており、真田技師長の言う通り最終的に惑星全域を覆うカプセルとなる巨大という言葉では全く追い付かない100メートルほどの厚さの構造物が薄いアルミ箔にしか見えない天文学的な大きさのパネルによる工事途中と見るのが自然なのかもしれない。

「何というスーパーテクノロジーだ・・・」

「島! 右舷にある小惑星の影に入るんだ!」

 たどり着いたイスカンダルと思われる星が敵か味方か分からない以上、近くの空間を漫然と航行しているわけにもいかない。 取り合えずは右舷方向に存在していた大型の小惑星の影に入ることで当面の安全を確保することを古代は決断する。

「ようそろー 右舷ロケットアンカー照準・・・投錨! 面舵一杯」


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと164日・・・ あと164日−
 

 
 Episode 5.2 最期の敬礼
The last Salutation


「ガミラスのものだ」

 中央分析室では回収されたミサイルの破片分析が行われていたが、分析装置のモニターから顔を上げた真田技師長は周りに集まったヤマトのメインスタッフに衝撃的な分析結果を断定的に告げた。

「・・・! 真田さん、よく聞こえなかった」

「これはガミラスのミサイルだよ」

 現実をどうしても受け入れられない艦長代理古代の問いに真田技師長は決定的な現実を突き付ける。

「俺たちはイスカンダルではなくガミラスへ来てしまったのか?」

 人類は生存への一縷の望みを賭け地球に届いたカプセルのメッセージを信じ14万8,000光年彼方のここ大マゼラン銀河までやってきたが、そもそも誰も実際にイスカンダル星を見た者などいないのだ。

 本当にメッセージは本物なのか?
 ガミラスの罠なのではないのか?
 誰も答えられるものはいない・・・

「ガミラスについては本星の位置はもちろん何一つ分かっていない。
 もしかしたら、あのイスカンダルと思っている星がガミラス星なのかも・・・」

「これは罠じゃないか?」

「罠?」

「そうだ! 全てガミラスの罠なんだよ!
 イスカンダルも放射能除去装置も嘘だったんだ! 俺たちは騙されたんだ!」

 空間騎兵隊の斉藤は、ヤマトに乗り組んでいる誰もが口には出さないがそれぞれに思っていた不安と疑問を代表して全員の前に曝け出すようにぶち撒けた。

「そんな・・・ 一体何の意味があって・・・?」

「ヤマトを誘き出すためだよ!」

 実際にこれがガミラスの罠であれば、実に効果的に地球防衛軍の最大戦力でありガミラスに対抗できる唯一の戦力といってよいヤマトが地球から14万8,000光年の彼方に誘い出されたわけで、別働隊が地球への侵攻を始めた場合にそれを止める戦力は最早地球には無い・・・

 最後は僅かに残る地上戦力による本土決戦での玉砕か、敵の奴隷となる全面降伏か・・・

「放射能除去装置の話・・・ あれは嘘かも知れない・・・」

「何ですって? 真田さん!」

 それぞれの話を聞いていた真田技師長は、自分の記憶をたどるように遠くを見る目で語りだした・・・

「俺が最初に通信カプセルを分析した11ヶ月前には、そんな情報は入ってなかった・・・
 有ったのは、この星の精密な座標と波動エンジンの設計図や理論だけだ」

「どういうことです?」

「放射能除去装置の話は、俺が地球防衛軍技術本部からヤマトの艤装委員に異動してから誰かが付け足した可能性がある・・・」

「どうして? どうしてそんな嘘をつかなくちゃならないんだ?!」

 メインスタッフの間に沸き起こった疑問は大きく膨れ上がり不安と疑心が渦巻いていくが、放射能除去装置の話を沖田艦長から聞いていた古代もここで口に出すことはできなかった。
 


「古代。 ワシは君に話さなければならないことがある・・・」

 艦長室のベットから上半身を起こした沖田艦長は、古代の瞳を覗き込むと半年ほど前のイスカンダルから地球に届いた通信カプセルの話を始めた・・・

「イスカンダルの放射能除去装置の話・・・ あれは嘘だ・・・」

「!! どういうことですか?!」

 余りに思いもしない話で古代の頭は混乱していたが、反射的に素直な疑問が口から出る。

「カプセルで送られて来たのは、座標、エンジンの設計図類・・・ それだけだった」

「なぜ? なぜ、そんな嘘を・・・?」

 ベットに詰め寄り質問する古代に、沖田艦長は時々苦しそうに咳き込みながら途切れ途切れではあるが静かに全てを語り続ける。

「君の体験だ・・・・」

「自分の?」

「高濃度の放射線を浴びたのに生きていただろう? あの現象が秘密を握っている。
 通信カプセルの送り主には放射能を除去する能力があるとワシは踏んだんだ」

「それでは、何の保障も確証もなく自分達はイスカンダルへ向かっているんですか?」

 古代は地球出発からの苦難の旅の意味が音を立てて崩れていくような絶望感を抱きながら艦長の話を聞いていたが、沖田艦長はグラスの水を口に含むと続けて力強く古代に語り掛けた。

「そうだ・・・ だが希望と可能性はある・・・
 君も希望のためにこのフネに乗ったんだろう? 古代。
 そして可能性も決してゼロじゃない・・・ 
 重被曝した君自身、今もこうして生きている・・・
 それこそ可能性そのものじゃないのかね?」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「俺たちは何のためにここまで来たんだ!」

「沖田艦長はデタラメを言っていたのか?」

「まさか・・・ 沖田艦長はそんな人じゃぁない」

 スタッフ間に渦巻く不審が爆発しそうになるのを佐渡は冷静に沈めようとするが、自分達はもちろん地球自身の運命が掛かっているだけに簡単に納得する問題ではなく、特に急先鋒の斉藤は爆発寸前である。

「艦長に尋ねてくる!」

「待つんじゃ! 今はそんな状態じゃない」

「そんなに?」

 斉藤に代わって普段冷静な島航海長が分析室を出て行こうとするのを両手を広げて防いだ佐渡は、つい沖田艦長の容態について口を滑らせてしまう。

「俺は行く!」

「斉藤!」

「本当のことを知っているのは沖田艦長だけなんだ! なら今聞くべきじゃないか?
 ヤマトと地球の運命が掛かっているんだ! どうなんだ?! 艦長代理!」

 斉藤隊長をはじめ分析室に集まったメインスタッフ全員の注目を一斉にあびる中、古代は静かにそれでいて決然と決定を下す。

「10時方向のイスカンダルと思われる惑星へ向かう。
 座標はこの星を示しているんだ、そこへ行かなくては何も分からない」

「古代! 何いってるんだ!!」

「わざわざ敵の罠に入っていくっていうのかよ?!」

 島と斉藤が血相を変えて抗議する中、古代は決断に至った理由を粘り強く説明しながら一人ひとりの顔を見回していく。

「もしこれが本当に敵の罠なら、なぜこのタイミングで攻撃してくる?
 我々をたどり着かせたくない何かがある。 だから妨害してくるんだ」

「少なくとも、あのカプセルには星の座標と波動エンジンの設計図が入っていたんだ。
 だったら何としても座標の場所にたどり着いて、その意味を確かめるべきじゃないか?
 艦長はカプセルのメッセージを信じたんだ。
 だったら俺は、その思いを信じる!」

 古代の説明にそれぞれの思いを持っていたスタッフたちも決意を一つにしていくと不安を乗り越えていく。

「沖田艦長の地球を思う気持ちに嘘はなかったはずだ!
 徳川機関長! 真田さん! 斉藤! 島・・・
 俺たちは今、誰のフネに乗っている?」


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと163日・・・ あと163日−
 

 
 Episode 5.3 新たな歴史を
The new history is cut open.


『全艦戦闘配置! 全艦戦闘配置! 突発的な攻撃に備えよ!』

 艦内に戦闘配置警報が鳴り響きヤマト全艦が戦闘配置に入っていく中、第一艦橋では不安と緊張の沈黙を破り発した古代の命令で小惑星の影からヤマトは決戦に向けて出ていこうとしている。

「ヤマト総員に達する、艦長代理古代だ。 皆その場で聞いて欲しい。
 いよいよ我々は目的としてきた星へ到達しようとしている。
 これが14万8,000光年の長い旅の最後の戦いとなるだろう・・・」

『今、我々の目の前に目的地としてきたイスカンダル星がある。
 だが、送られてきた座標はガミラスの罠なのかもしれない・・・
 この星へ向かうのは敵の思う壺なのかもしれない』

『しかし、それが暗闇の中の僅かな光だとしても、
 少しでも可能性があるなら我々は前に進まなくてはならない。
 それが、このヤマト(大和)というフネの宿命なんだ・・・』

 艦内全てに古代の訓示が流れる中、乗組員の全てが最後の戦闘へ向けての準備を進める・・・
 艦橋で、指揮所で、砲塔で、発射管で、銃座で、格納庫で、機関室で、医療室で、烹炊所で・・・

「みんな! この戦いに勝とう!!
 そして、可能性を本物の希望に変えよう!」

「地球に残してきた人々のために・・・
 いや、俺たちの愛する家族のために!
 もう一度、緑の地球を取り戻そう!
 このフネ全員の願いを・・・
 沖田艦長の思いを・・・
 全力で成し遂げるんだ!!」

 古代の訓示を聞いたヤマト艦内で最後の戦闘への準備を行っている全将兵は、それぞれの持ち場で姿勢を改めると沖田艦長のいる艦長室に向かって一斉に胸に拳を当てる宇宙艦隊式の敬礼を贈る。

 艦内要所の映像を艦長室で見ていた沖田艦長も、照れたように傍らの佐渡先生を一瞬見ると、ベットから僅かに上半身を起こし海軍式の敬礼を返した。


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


『空間騎兵隊! 総員降下揚陸戦用意! ブラックタイガー隊発進完了後の降下に備えよ』

「総員騎体及び降下装備点検異常なし!」

「野郎共集合! 小隊長に対し敬礼!!」

 ブラックタイガー隊の全力出撃でごった返す艦尾格納庫脇に集合した強化戦闘服により完全武装された空間騎兵隊12名は、この航宙で初めての戦闘強襲降下揚陸となる張り詰めた緊張感の中で、まるで刑場へと昇る13段の階段を一段一段数えるようにコスモタイガーの出撃を見詰めていた。

「いいか、お前たち! 普段の訓練通りだ、いい仕事しろよ!」

「レンジャー!」

「空間騎兵隊は宇宙最強だってことを宇宙軍の奴等に見せてやるんだ!」

「レンジャー!!」

 広域輻射波軽減耐熱樹脂の再塗装がなされたばかりの同じ傷一つない真新しい漆黒のパワードスーツに身を固めた斉藤隊長は、普段のふざけた態度からは想像も出来ない真剣な態度で緊張の隠せない部下達の士気を鼓舞していくが、命を賭けた出撃前の儀式ともなっている大声のやり取りを繰り返すうちに部隊全体が狂気と紙一重の異常な興奮状態へと陥っていく。

「俺たちは空間騎兵隊を愛している!! イスカンダルの一番乗りは、俺たちだ!」

「レンジャー!!!」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「島?!」

「ようそろー 最大戦速。 取り舵一杯!」

「ブラックタイガー隊全機発進よろし!」

 カタパルトより発艦したコスモゼロに続いて全10機のF-96Bコスモタイガー改を艦尾発進口より発艦させたヤマトは、無数のミサイルが待ち受けるであろうイスカンダルと再び相対そうとしている。

「あと3秒で小惑星から外れます」

「ミサイル多数急速に近付く! 距離1万1,000宇宙キロ!」

「主砲副砲射程に入り次第迎撃開始!」

「主砲斉射!」

「主砲斉発第二射法、撃ちぃ方はじめ!」

 対宙魚雷とミサイルを射耗したヤマトは主砲の遠距離射撃で迎撃を繰り返すが敵ミサイルの数は膨大であり撃ち漏らしたミサイルの被弾により被害が続出する。

「第一砲塔被弾!」

「右舷第二パルスレーザー群大破!」

「第一副砲大破!」

 強固な装甲を施されたヤマトの第一主砲塔もミサイルの被弾で破損し、三連装の46センチ主砲のうち三番砲が発射不能となるなど被害は拡大していくがヤマトの前進が止まることはない。

「イスカンダルまで距離4,500宇宙キロ!」

「主砲目標変更、イスカンダル外郭パネル! ミサイルはパルスレーザーで迎撃しろ!」

「パルスレーザー攻撃はじめ!」

 外郭パネルを主砲の射程距離に捕らえたヤマトは、古代の命令により艦首方向で発射可能な5門の主砲で反撃を加える。

「了解! 第一第二主砲目標変更、第一射法へ切り替えよし!」

「撃ちぃ方はじめ!」

「てっ!」

 主砲の斉射は南部砲雷長の狙い通りに何らかの施設があると思われる外郭パネルの照明が漏れる部分を直撃するが、完全にエネルギービームが弾かれ全く効果が見られない。

「ダメだ! パネル表面は全ての輻射エネルギーを完全に反射している!」

 真田技師長の分析通りであれば、実体弾である宇宙魚雷とミサイルを全弾射耗したヤマトにはコスモタイガーの機載ミサイル以外には最早攻撃手段はないことになる・・・

〈コスモタイガー・・・ そうか!〉

「ブラックタイガー加藤! ミサイル発射の瞬間をターゲティングしろ!」

 ミサイル発射の瞬間にミサイルサイトのパネルが開くことを捕らえた古代は、ブラックタイガー隊の加藤隊長にピンポイント・ジャストタイムでの座標特定を命じた。

『簡単に言ってくれるよ・・・ 了解した!』

「ブラックタイガー隊全機、聞いたか? 掛かれ!」

『了解!』

 ブラックタイガー隊のターゲティングとタイミングを合わせた南部砲雷長の神業的な砲撃で1基つづミサイル発射基地を主砲で狙撃していくヤマトではあったが、ミサイルの数は一向に減る気配がなく、一隻の戦艦と惑星サイズの基地との火力の差を改めて思い知らされる。

「現在までのところ、ミサイル発射基地反応407基を確認!」

「これじゃ切りがないぞ!」

 未だヤマトが特定していない物を含めれば1,000基を軽く越えると思われるミサイル基地を相手にしていては到底勝ち目はなく、このまま漫然と戦闘を続けていてはヤマトが撃破されるもの時間の問題でしかない。

「島! 全速だ! 全速でイスカンダルの外郭パネル内に飛び込む!
 ブラックタイガー隊はヤマトの影に入って続け!」

「ようそろー 両舷全速! 機関長、全速!! 全速願います!」

『了解した。 機関全力!』

 船外服に身を固めた徳川機関長は、島航海長の切迫した声に普段は機関破損の可能性があるために使用することを規則で禁じられている機関全力を命じ、ヤマトの波動エンジンをはじめ全ての機関が限界出力での運転を始めた凄まじい轟音とリークしたタキオン粒子の眩い閃光に機関室は包まれていく。

「波動エンジン全力運転! 補助エンジン全開!
 藪! オーバーブーストを使え! 焼き切れても構わん!」

「機関全リミッター解除! 波動エンジン出力145%!」

『直ぐに後進一杯を掛けるぞ!』

「後進一杯即時待機!」

 イスカンダル星に向かって真っ直ぐに全力航行を続けるヤマトは秒速3万8,000キロを超える凄まじい速度になっており、敵ミサイルの照準を振り切りながら地表に激突する勢いで流星のように落下していく。


「波動エンジン全力逆噴射! 主翼展開! 上げ舵一杯!!」

『安定翼、開き方用意ぉ〜い!! 急げ!』

『機関急制動! 後進一杯!!』

 通常の慣性制御による惑星降下ではなく昔ながらの重力降下をするヤマトは、波動エンジンの全力逆噴射にも関わらず巨大な慣性の付いた凄まじい速度での大気との摩擦熱で灼熱しながら地表へ向けて落下し続けているが、パネルを越えた地点で強引に主翼の展開と一杯の上げ舵を付けたことで猛烈な空気抵抗を受けて徐々に減速していく。

「地表まで100宇宙キロ! ・・・80・・・60・・・」

 恐怖に声が裏返りそうになるのを懸命に堪えながら地表激突までの距離を読み上げ続ける太田航宙統制官の声が第一艦橋に響く中、艦橋前面の窓には目前に迫った海面が大きく広がり誰もが息をすることも忘れて固まっている。

「島?!」

「くぅ! 艦首(とも)下げ!!」

 海面上空で艦を立て直すことが不可能だと判断した島航海長は、海面ギリギリで舵を下げ激突の衝撃を柔らげるとヤマトはそのまま艦首から海中へ突入した。

「うわっ!」

 摩擦熱で真っ赤に焼けたまま海中に突入したヤマトは、猛烈な熱で瞬時に蒸発した海水の凄まじい水蒸気に包まれたまま上げ舵を取った主翼の浮力により海面へ飛び上がる。

「くうっ!」

 海面激突時の慣性コントロールの制御限界を超えた衝撃で殆どの乗組員の意識が朦朧とする中、ヤマトの舵を握る島航海長には意識を失う贅沢など許されるわけもなく水蒸気爆発による気流の乱れで躁艦が不可能になりつつあるヤマトを辛うじてコントロールしている。


 14万8,000光年の苦難の旅の末に目的地にへたどり着いたヤマト・・・
 しかし、ここは本当に人類の明日への希望イスカンダルなのか?
 急げヤマトよ、人類絶滅までの時間は刻一刻と迫っているのだ・・・


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと162日・・・ あと162日−
 

 
 Episode 5.4 託された未来
The future entrusted them with


 かつての地球そっくりの美しい青い海の上を飛行するヤマトの頭上には軌道パネルの存在を感じさせない青く澄み切った空が広がっており、ヤマトの乗組員もつい先程までの生死を賭けた激戦が嘘のような平和な世界に面食らっていた。

「軌道パネルの裏は全面発光パネルになっているんだ・・・
 赤色巨星と化しつつあるサンザーの強烈な光や放射線をパネルで防いで、
 変換したエネルギーで可視光線を惑星上に再投射している」

「何て美しい星なんだ・・・」

「とても人工の空間とは思えないな」

 本当ならパネルの有無による空の変化があるはずであるが、大気層での自然な光の錯乱によって全く違和感のない自然な空がどこまでも広がっており、ヤマトの横を白鳥に似た白い鳥状の生物が十数羽の群れで通り過ぎていった。

「しかし、軌道パネルがあるといってもカプセルが完成しているわけではない。
 なぜ、この星は宇宙放射線に汚染されないんだ・・・」

「放射能除去装置?」

「やはり、ここはイスカンダルなのか?」

「レーダーに反応! 2時方向距離4万5,000メートル! 航宙機多数近付く!」

 イスカンダルの美しさに目を奪われていたヤマトの乗組員達も太田航宙統制官のレーダー報告に瞬時に厳しい現実へと引き戻される。

「全艦迎撃用意! ブラックタイガー隊は何機残っている?」

『8機です! 8機残っています!』

「ブラックタイガー隊迎撃せよ!」

『了解! 全機続け!!』

 ヤマト前方のイスカンダル上空で来襲した敵機とコスモタイガーによる激しい空中戦が展開されるが、ブラックタイガー隊を遥かに上回る数十機に及ぶ敵航宙機は迎撃をすり抜けヤマトに攻撃を仕掛けてくる。

「頭上の軌道パネルより砲撃!」

「主砲、砲雷長指示の目標、撃ちぃ方はじめ!」

「主砲、一番二番、第二射法用意!」

「撃ちぃ方はじめ!」

 航宙機の襲撃に加えて真上からの砲撃が行われ、基本的に重力圏内での戦闘を想定していないために真上に対する長距離の攻撃力を既に全数射耗した煙突ミサイル以外に上方90度まで向けられる2基6門の副砲しか持たないヤマトは苦戦を続ける。

「全艦対空戦闘はじめ!」

『対空ぅ〜戦闘ぉ〜!』

「副砲対空戦闘、CIC指示の目標、撃ちぃ方はじめ!」

「パルスレーザーAAWオート、撃ちぃ方はじめ!」

 猛烈な対空射撃を始めたヤマトに空気抵抗のある大気内では極端に機動力の落ちる敵航宙機は次々と撃墜されていくが、無尽蔵とも思われるほどの物量で攻撃を仕掛けてくる敵の航空攻撃と軌道パネルからの砲撃にヤマトにも被害が発生していく。

「右舷艦尾被弾!」

「左舷誘導弾管制室大破!」

「左舷艦底部バルジに被弾!」

「うわっ!」

 突然ヤマトの船体が左舷にグラリと傾くと艦内の重力バランスも崩れて席に付いていなかった乗組員達や固定されていない装備が艦内を転げまわる。

「どうした?! 傾斜復元せよ!」

『船体起こせぇ〜!』

「慣性制御機構に異常! トリム崩れます!」

 左舷中央部バルジの慣性制御機構に損傷を受けたヤマトは左舷側に傾き、艦載火器の対空制御も次第に困難になると命中率が極端に悪化していた。

「島、着水だ! 海面に降下しろ!」

「ようそろー 下げ舵一杯!」

「敵第二波、防宙圏へ近付く! 11時方向距離1万2,000!」

 敵航宙機編隊の第二波発見の報告が成される中、それまで無言で熟考を続けていた真田技師長は突然古代へ提案した。

「艦長代理! 赤道へ向かうんだ!」

「赤道へ? どうして?」

「説明は後だ! とにかく赤道へ向かってくれ!」

 古代は、真田技師長の只ならぬ態度に頷くと、島航海長へ顔を向ける。

「分かった真田さん! 島!」

「ようそろー 面舵一杯!」

 海面に着水したヤマトは、戦闘に似合わない優雅な曲線を描いた右曲がりのウェーキを曳くと、全ての砲に仰角を付けて対空戦闘を続けながら海面上を全速で赤道方向へと向かっていく。
 


「この星の軌道カプセルは完成しているわけじゃない。
 現在、軌道パネルを支えているのは惑星の自転に伴う遠心力と宇宙エレベーター自身の張力なんだ」

「どういうことなんです? 真田さん」

 敵航宙機の第二波攻撃が終わり、僅かに落ち着いた時間に真田技師長が説明するが、宇宙エレベーターの理論自体をよく分かっていない古代は質問を返す。

「完成途中の軌道パネルは全てが繋がっている一体の構造体にはなっていないんだよ。
 軌道パネルは宇宙エレベータの重さも含めて惑星の自転に伴う遠心力と釣り合いが取れているんだ。
 宇宙エレベーターを途中で破壊すれば自分自身の遠心力でそれぞれのパネルは崩壊する」

「それじゃ、主砲で・・・」

「ダメだ。 宇宙エレベーターは超強度のカーボンナノチューブ複合体だ。
 簡単には破壊できない・・・ 波動砲を使うんだ」

 先端のカウンターマスまで全長数万キロメートルに達する宇宙エレベーターは自身の重量の二倍に及ぶ張力に耐えるために超軽量で強靭なカーボンナノチューブを中心とした複合素材を数千万本も束ねて作られており、直径100メートルを越える強固な構造物は通常の方法では破壊不可能だ。

「しかし、大気圏内で波動砲を使えばこの星にも影響が・・・」

「艦長代理! ヤマトは何としても生き残らなければならん!」

 未だかつて大気圏内で波動砲を使用した事例がないことはもちろん理論研究もされていないために、膨大な高密度次元波動エネルギーが大気とどのような反応を示し、どんな影響と結果をもたらすか誰にも全く分からない・・・

「古代!」

「古代さん!」

「艦長代理?!」

 地球へ残した家族をはじめ大切な人を救うためにヤマトに乗り、その自らの命の全てを賭けてここまで来た者・・・ また、その志半ばで使命に殉じ無念に命を落とした者たちの切なる願い・・・

〈ヤマトは、ここで沈むわけにはいかない・・・〉

 真田技師長をはじめ第一艦橋の全員が艦長代理の決断を求める中、古代は一瞬瞑目すると・・・

「敵第三波! 8時方向3万9,000!」

「分かった・・・ この攻撃を撃退したら波動砲用意だ・・・」

 戦闘班長席のコンソールに両手を付いたまま、古代は目を開くとともに静かに命令を下した。

「了解!」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


 第三波の攻撃隊をほぼ撃退したヤマトは、頭上からの絶え間ない砲撃を受けながら赤道上に整然と並ぶ雄大な宇宙エレベーターの真正面に占位すると波動砲の発射準備に入った。


『全艦波動砲発射態勢! 全艦波動砲発射態勢! 不要なエネルギーを遮断せよ!』

「予備電源切替確認よし!」

 全艦に波動砲準備警報が鳴り響く中、第一艦橋と機関室を中心とした各部署で波動砲発射へ向けての準備が進められていく。

「波動エンジン内圧力上げろ! 非常弁全閉鎖!」

『非常弁閉鎖よろし』

「全エネルギー波動砲へ・・・ 強制注入機作動」

「強制注入機作動!」

 機関室では徳川機関長や藪機関士を中心とした機関員達が走り回り、波動エンジン機関の制御を波動砲発射体制へと次々に切り替えていく。

「強制注入機の作動を確認」

「波動砲用意!」

『波動砲用意』

「島。 赤道から外すな!」

「ようそろー 艦位維持!」

 緊張に額に汗を滲ませた島航海長は、僅かに波に揺られ続けるヤマトを正確に赤道上に乗せながら前進させるべく全力を尽くしていた。

「ブラックタイガー隊! ヤマトの艦首軸線より離脱せよ!」

『了解! 全機離脱します!』

 波動砲発射のギリギリまでヤマトの周囲を守っていた6機のブラックタイガー隊が四方に散開すると、前方にそそり立つ巨大な宇宙エレベーターとヤマトは直接対峙する。

「波動砲安全装置解除!」

「安全装置解除! セーフティロックゼロ!
 圧力発射点へ上昇中・・・ 最終セーフティ解除!」

「ターゲットスコープオープン!」

「電影クロスゲージ、明度20! 目標、前方宇宙エレベーター!」

 出切る限り多数の宇宙エレベーターを破壊するために波動砲用の照準器全面を占めるほど接近したヤマトは、銃把を握った古代の微調整により最終的な発射態勢へと進んでいく。

「敵第四波多数! 11時方向距離2万1,000!」

「艦首波動フィールド。 収束モードへ」

『収束モード生成確認』

 ヤマトの波動砲発射準備を捕らえた敵航宙機が急速に接近する中、もはや回避のできないヤマトは時間との戦いに緊張を高めていく。

「距離! 3,000メートル!!」

「エネルギー充填120%!」

「波動砲発射10秒前! 総員、対ショック対閃光防御!」

 宇宙エレベーターの陰から現れた敵航宙機編隊に構わず、僅かに波動砲の準備が勝ったヤマトの第一艦橋では対閃光用のゴーグルを掛けながら最終的な秒読みに入っていく。

「発射5秒前・・・4・・・3・・・2・・・1」

「波動砲発射!!」

 古代のトリガーに連動してヤマト艦首の波動砲口からは波動フィールドで細く成型された強烈な次元波動エネルギーの奔流が直前の宇宙エレベーターへ向けて猛烈な速度で迸る。

 ヤマト艦首方向の海を割り、大気を切り裂きながら前方へ向かった膨大な次元波動エネルギーは、直近の宇宙エレベーターを周囲に展開していた航宙機編隊ごと粉砕すると、続けて次々と並んだ宇宙エレベーターを崩壊させながら最後に遥か上空の視界の果てにある軌道パネルを貫いて宇宙空間へと強烈な残像を残して消えていった・・・


「んっ?」

 波動砲の猛烈なエネルギーにより水蒸気を通り越して素粒子レベルまで一瞬で分解した海水や空気による水素爆発が広範囲で発生し、気流の激しい乱れに渦巻く燃焼ガスによって前方の視界が取れず結果を把握できない第一艦橋では乗組員達の期待と不安が渦巻いている。

「やったのか?」

 永遠とも思われる時間・・・ 息と止めて見詰めている上空に僅かに光が増していき、イスカンダルの地表に強烈な太陽サンザーの光が降り注き海上表面では再び海水が急激に蒸発を始める。

「軌道パネルが・・・」

 宇宙空間からの視点で見ると、イスカンダル星を取り巻いていた全軌道パネルの1/8に渡る広大なパネルが意識して見ないと分からないほどの僅かな速度から徐々に加速しながら剥がれていくとともにパネル間に細い亀裂が見えてくる。

 地表からは大気の影響で広がっていくパネルの亀裂を見ることはできないが、徐々に増していく隙間から差し込むサンザーの赤い光から軌道パネルの崩壊を感じ取ることができる。

「一つの星が死ぬ・・・」

「我々は、取り返しの付かないことをしたのか・・・」


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと161日・・・ あと161日−
 

 
 Episode 5.5 放射能除去装置
Radioactivity removal equipment


『こちらイスカンダルのスターシア・・・
 地球のみなさん、ようこそいらっしゃいました・・・』

 軌道パネルの部分崩壊によって激しく続いていた砲撃と航宙攻撃も終わり、呆然としていたヤマト第一艦橋に突然通信メッセージが流れ全員が現実に引き戻される。

「イスカンダル・・・?」

「スターシア・・・?」

 波動砲発射に伴う気流の乱れにより発生した激しい嵐に大きく揺られていたヤマトでは、忘れていたといってよいイスカンダルと、初めて聞くスターシアの言葉にそれぞれが顔を見合わせる。

「やはり、ここがイスカンダルだったのか?」

「我々はイスカンダルへ着いたのか?」

 突然のイスカンダル宣言に半信半疑の気持ちと、絶滅の危機に瀕していた地球人類に救いの手を差し伸べてくれた命の恩人ともいえるイスカンダルを死の星へと向かわせてしまった現実に、ヤマトの乗組員全員が気持ちを整理できずに静まり返っていた・・・

「相原! メインパネルに切り替えろ」

「こちら地球防衛軍所属宇宙戦艦ヤマト、艦長代理古代です・・・ 貴メッセージを受信しました」

「ヤマトのみなさん・・・ みなさんにはマザータウンの海へ来て頂きます。
 こちらから誘導のビーコンをお出ししますので、操縦装置を私の指示に合せてください。
 現在の気圧は984ヘクトパスカル、大気はあなた方の呼吸に問題ありません・・・」

 優しい全てを包み込むような暖かさに満ちた女性の声が第一艦橋に流れ、長い戦いに疲れたヤマトの乗組員たちにも束の間の癒しに高ぶっていた精神も落ち着いていった。

「島。 誘導ビーコンに従うんだ」

「ようそろー 両舷前進原速〜 取ぉり舵一杯」

 惑星上の90%以上が海で覆われたイスカンダルには南北に長く伸びた一つの列島状の大陸しかなく、その中央大陸東岸にあたる入り江の大きな湾にヤマトは誘導されているようである。

 入り江に近付いたヤマトからは起伏の少ない大陸で唯一高さのある丘の上に建設された壮麗な塔状の建物が見えてきており、どうやらそこがイスカンダルの中枢部となっているようであった。

 時に西暦2200年4月30日16時08分・・・
 地球人類の僅かな生存への希望を託されたヤマトは、途中ガミラスの執拗な妨害を打ち破り、想像を絶する数々の未知の困難をも克服して、14万8,000光年という気の遠くなるほどの星の海原を押し渡り、今ここ遥かなる大マゼラン銀河のイスカンダルへ到着したのである。

『達する。 ヤマト乗組員諸君、艦長沖田だ・・・
 我々はついに目的地であるイスカンダルへ来た。
 見たまえ、いま諸君の目の前にイスカンダルの大地が広がっておる。
 この機会に艦長として一言だけ諸君に申し上げたい・・・』

 艦長室ではベットから僅かに起き上がった沖田艦長が、制帽を被り白いシーツの上から体の上に指揮官外套を掛けた出来る限りの威厳を正した姿で指揮下の乗組員に敬意を表すと、佐渡が操作したコム端末に向かってヤマト全乗組員に心からの感謝を込めた放送を行っていた。

「ご苦労でした・・・
 本当に、ありがとう・・・ 以上だ」


「入港用意」

「入港用〜意! 描鎖はなれ」

『後進微速〜く!』

「フタヒャ〜ク前〜」

 総員が慌しい入港準備に追われる中、艦長の訓示をヤマト各部で聞いていた乗組員の目の前にイスカンダルの緑に覆われた台地が広がる。 大きく傷付き僅かに左舷へ傾いたヤマトは、スターシアからの誘導に従い船足を落としながら美しい自然と近代的な設備が見事に融合した入り江へ近付いていた。

「両舷停止」

『両舷停〜止!』

「錨入れ」

『びょう〜入れ〜』

 遊星爆弾による放射能に汚染される以前の地球を思い起こす目前に迫った緑の陸地を見詰めながら、苦しかった往路の航宙と失った戦友達のことを思い起こしていた古代の意識を現実に戻すように港に接岸した鈍い振動が第一艦橋にも伝わってきた。

「錨よろし」

「主機火落せ」

『火ぃ落ぉ〜せ』

「機械舵よろし・・・だ」

 溜まっていた息とともに独り言のように小さく最後の命令を下した古代に、静かに外したヘッドセットをゆっくりとコンソールに置いた島航海長の安堵を含んだ呟くような小さな声が聞こえてきた。

「着いたな・・・」

「ああ・・・ 着いた」


 マザータウンの港に着岸したヤマトは左舷艦尾よりタラップを下ろすと、傷だらけのくたびれた強化戦闘服を着用した生き残りの空間騎兵隊5名の護衛を受けて、艦長代理の古代をはじめ、島航海長、真田技師長がヤマト代表団としてイスカンダルの大地に降り立っていく。

「あれは?」

「スターシアさんか?」

「どう見ても人間だなぁ・・・」

『おいおい、随分別嬪さんだな〜』

 タラップを降りる途中で塔の手前にある丘の上で手を振る人物に気が付いた真田技師長が注意を促し、古代や島もその薄いブルーの緩やかなドレスを着込んだ腰まで届く美しい金色のロングヘアーのスマートな人物に注目するが、空間騎兵隊の斉藤隊長の顔はすっかり緩みっぱなしである。

 イスカンダル首都周辺の空港施設へ降りたブラックタイガー隊と合流したヤマト代表団は、スターシアに合わせて女性の森雪を直衛としてメンバーに加えると、残りのブラックタイガー隊員と空間騎兵隊を周囲の警戒に残しスターシアが待つ丘へ向かった。

「ようこそイスカンダルへ。 私がスターシアです」

「地球防衛軍宇宙戦艦ヤマト艦長代理、古代進です。 こちらは先任士官の真田志郎。
 航海長の島大介、そして航宙隊戦闘班員の森雪です。
 本来であれば艦長が御挨拶するのですが、生憎と病気でありまして・・・」

 真田技師長の持ってきた携帯翻訳機を使って会話を成り立たせる古代たちは、外交儀礼的な会話を続けるがスターシアの地球人にそっくりな容貌 ― 実際にはこれほどの美形の人物はそうは居ないだろうが ― に目を奪われている。

「14万8,0000光年の困難を乗り越えて良くイスカンダルへ来られました。
 あなた方のその勇気と行動力に心からの敬意を表します」

「いえ。 こちらこそ見ず知らずの地球人に救いの手を差し伸べて頂き、
 何と言って感謝してよいのか分からないほどです」

「しかも、いくらヤマトを守るためとはいえ、このイスカンダルへ致命的な被害を与えてしまいました・・・
 お詫びしようにも詫び切れない結果にどうしてよいか・・・」

 会話を続けながら護衛の空間騎兵隊とブラックタイガー隊を周囲に残しイスカンダルの迎賓館の機能を果たすと思われる部屋へ通されたヤマトのクルーたちは、その壮麗さと未来的なテクノロジーの融合された機能美に驚かされたが、何やら分からない違和感も感じていた。

「よいのです・・・ 遠からずイスカンダルは滅びる星なのです・・・」

「そんな・・・」

「わたしたちの恒星サンザーは、その寿命が近付いており赤色巨星化が続いています。
 380年前、あなた方の時間で500年ほど前より軌道シールドの建設をはじめあらゆるテクノロジーを使って防いできましたが、いずれにせよサンザーの巨星化を止められない以上は時間の問題なのです」

「それにしても、なぜ軌道パネルはヤマトを攻撃してきたんですか?
 それに攻撃を加えてきた航宙機も・・・」

 古代はヤマトの安全に責任のある艦長代理として実際に一番聞きたかったことをスターシアに直接ぶつけてみるが、淡々とした言葉で帰ってきた答えは思いもしないものだった。

「あの軌道シールド上に住んでいるのが、あなた方がガミラスと呼ぶ人たちなのです」

「何ですって?!」

「サンザーの赤色巨星化が顕著化して放射線が人体に影響を及ぼすほどに強くなりだした頃、それを防ぐためにイスカンダルの全技術力と投じられる限りの予算を使って軌道シールドの建設が始まりましたが、既に宇宙放射線の強くなっていた大気圏外で作業を行うにはイスカンダル人は弱すぎたのです。
 そのために遺伝子操作とナノマシンによる肉体改造を行ったのがガミラスと呼ばれる人たちです」

「それじゃ、イスカンダル人とガミラス人は元々同じ・・・」

「そうです。 自然に逆らっての操作を良しとしない人々がイスカンダル人として残ったのです」

「そのイスカンダルの人たちですが、あなたの他に見掛けませんが?」

 それまでイスカンダル公式訪問のメンバーではない森雪は発言を控えていたが、どうしても疑問に思うことを堪らず質問した。

「一年前に妹サーシャを地球へ送り出してから、現在残っているイスカンダル人は、わたし一人なのです」

「どうして、そんな?」

「運命です。 わたしたちは運命を受け入れるしかないのです」

 達観したスターシアの静かな言葉によそ者でしかない古代たちは何も言うことができなかったが、森雪に続いて真田技師長も疑問に思っている質問を投げかける。

「スターシアさん。 私からも一つ質問があるのですが・・・
 軌道パネルによる密閉されたカプセルは完成していないのに、なぜここは汚染されないのですか?」

 真田技師長の質問に頷いたスターシアは、イスカンダルの現状について詳細に説明を続けた。

「体内に入れたナノマシンにも使われていますが、高純度に精製されたガミラシュームと呼ばれるイスカンダル独特の元素が宇宙放射線を直接エネルギー物質に変える性質があるのです」

「それを・・・」

「そうです。 イスカンダル表面の要所に配置しています」

 スターシアは穏やかに頷くと真田の疑問に答えた。

「ガミラシュームが放射能を浄化するんですか?」

「一旦高純度に精製されたガミラシュームは、物質転換により放射線を直接エネルギー物質に変えながら自己増殖します。
 ガミラス人とはガミラシュームを使った人々という意味なのです」

 思いもしなかったイスカンダルとガミラスの現実に古代たちヤマトの乗組員は驚くことしかできなかった・・・
 


「コダイさん? わたしからも一つだけ質問があります・・・」

「な、何でしょうか?」

 初会見から晩餐会へとヤマト代表団の質問攻めにあっていたスターシアだったが、僅かに会話が途切れた不思議な静寂の中、人を魅了させずにはおかない透き通った深紫色に輝く瞳を真っ直ぐに向けると、僅かに小首を傾げながら圧倒的な女性に魅力に戸惑っている古代へ静かに語り掛けた。

「あなた方は、なぜ軌道シールドにゲシュタム・バーストを使わなかったのですか?」


「なぜ波動砲を・・・」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


〈使えなかった・・・
 ECMやレーダー画面ではなく実際に都市の光を見た時・・・
 人々の住むその場所を、直接この手で攻撃するという実感・・・〉


「どうした? 古代」

 四ヶ月ぶりの半舷上陸が許可されたとこによる浮ついた空気も漂う人影もまばらな上甲板、艦橋トップの艦長室で古代からスターシアとの会談内容を最後まで静かに聞いていた沖田艦長ではあったが、報告が終わっても釈然としない古代の只ならぬ態度にベットから僅かに顔を上げると優しく声を掛けた。

「沖田艦長。 自分はどうして良いか分からないんです・・・」

「んんっ?」

 スターシアからの最後の質問が頭から離れず繰り返し思い返していた古代は、隠し切れない苦悩の表情を浮かべたまま沖田艦長の誘い掛けに胸につかえていた思いを纏まりなく話し始めるが・・・

「ヤマトが当初の目的通りに放射能除去装置 ― ガミラシュームを受け取って地球へ向かうといっても、現状では当然成されるであろうガミラスの妨害がある以上は戦って軌道パネル都市を破壊しなくてはイスカンダルを離れることもできません・・・
 しかし、あの軌道パネル都市にはガミラスの一般の人々も住んでいるんです」

「・・・・・・」

「我々地球人にガミラスの人々を滅ぼしてまで生きる権利があると言うのでしょうか?
 それでは地球人を滅ぼして生きようとしたガミラスと同じなのではないでしょうか?
 沖田艦長。 教えてください・・・ 自分はどうしたら良いんでしょうか?」

 悩んだ末に苦しい思いを打ち明ける古代に、沖田は一瞬瞑想すると静かに語り掛けた。

「古代・・・ それはワシにも分からん・・・
 しかし一つ言えることは、ワシも君も地球防衛軍の軍人だ。
 地球を人類を命に代えても守ると誓ったんじゃないのか?」

「沖田艦長・・・ それで良いんでしょうか?
 ガミラスの人々を虐殺した血に塗れた手で地球の人々を本当に救えると言うのでしょうか?
 自分には、それがどうしても分からないんです・・・」

 まるで自らの両手を血に塗れたおぞましい物のように一心に見詰めた古代は、答えの出ない質問を自分自身の心に向けて投げ掛けていた・・・

〈俺は、14,820,516人に加えて・・・ 今まで何人の地球人とガミラス人の命をこの手で奪ってきたんだ・・・
 1万人か? 100万人か? 1億なのか・・・? この先、何人殺せばこの地獄が終わるというんだ・・・〉

 夕闇が深まる中、お互いに続く言葉が出ず沈黙が支配する艦長室に、ただイスカンダルよりの物資を搬入する喧騒と24時間態勢で続けられている船体修理の音だけが僅かに響いている・・・


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「スターシアさん。 どうしても我々とともに地球へ来ることはできませんか?」

「お気持ちは本当にありがたいのですが、
 わたしにはどうしてもイスカンダルを捨てることはできません」

 イスカンダルのドックにより修復なった出航直前のヤマトへ応礼として訪れたスターシアに病床の沖田艦長も心からの誘いを掛けるが、スターシアのイスカンダルを思う意思は固く説得は困難であった。

「しかし、ヤマトがイスカンダルを離れるためには軌道パネルごとガミラスを撃破するしか方法がないんです。 そうしたら、あなたのイスカンダルも無事では済みません・・・」

「分かっています。 それでも、わたしはイスカンダルを離れることはできないのです」

 古代も必死で説得を続けるが、スターシアの固い意思の前には無駄であった。

「そうですか・・・ どうしても残られますか・・・
 それでは、残念ですがスターシアさん。 いつまでもお元気で・・・」

「ありがとうございます。 みなさんの帰路の安全を祈っています。 どうか無事に地球へ」

 スターシアの言葉に小さく頷いた沖田は、並んで立った古代へ視線を向けると決断を促した。

「古代?
 ・・・指揮は君に任せたはずだぞ」

「はい・・・
 ヤマト、出航用ぉ〜意!」

 沖田艦長の促しに答えて、古代は自身の思いを整理できないまま無理にスターシアへの思いを断ち切り、スターシアの退艦を見届けるとヤマトの出航用意を全艦に命じる。

『全艦出航用意! 全艦出航用意! 外郭の気密を確認せよ』

「出航用意! 抜錨、錨を上げろ!」

「抜錨! 出航〜!!」

『立錨・・・ 正錨・・・』

 出航への艦内警報がけたたましく鳴り響く中で、海底から巻き上げた泥により濁りが広がったマザータウンの海面から海藻を巻きつけた錨が顔を出し、ヤマト艦首の格納庫へ錨孔から噴射された海水により洗われながら長い錨鎖とともにガラガラと重い音を立てて巻き上げられていく。

「アンカーの格納と固定を確認」

『全艦の気密確認よし』

『補助エンジン機能問題なし。 出力100%』

「ヤマト全艦整備。 出航用意よろし!」

「予定針路、障害物なぁ〜し」

 航海艦橋である第二艦橋や機関室では出航準備に伴う火事場騒ぎのような慌しさが続いているが、ここ第一艦橋でも整然とした緊張感の中で出航へ向けての命令のやり取りが続いている。

「舫い放て」

『舫い放てぇ〜!』

「ようそろー 微速前進0.5・・・」

『機関、前進微速ぉ〜く』

「面ぉ〜舵!」

 ヤマトは万感の思いで再び会い見えることのないでろうイスカンダルとスターシアに決別の霧笛を鳴らすと、海面から顔を出しはじめたサンザーの眩い朝日を浴びながら全開にされた補助エンジンの出力によりマザータウンの海面上を滑るように滑走加速すると、離水とともに波動エンジン始動の轟音を海面に残しながら一気に朝焼けの空へと飛翔する。

「離水確認、安定翼展開。 大気圏内航行体勢」

『補助エンジン出力臨界。 フライホイール回転良好・・・』

「波動エンジン、接続・・・点火!」

「ヤマト、地球へ向けて発進!」


 地球まで14万8,000光年・・・ まだ旅路は遠い・・・
 急げヤマトよ! 地球の人々は君の帰りだけを待っている・・・


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと131日・・・ あと131日−
 

 
Back Next

Reflect 検索
リフレクト サイト内をキーワードで検索できます。
Copyright(C) 2002, Karasu ver2.70
カウンター管理
ブログ管理