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Space Battleship YAMATO Episode 4
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Space Battleship ヤマト 2199

ガミラス激闘
 Episode 4.1 慰め
Confession of the truth


 母なる太陽系を離れ星も疎らな暗黒の遥か天の川銀河系外縁オリオン腕を只一隻で航行し続けるヤマトは、執拗に続くガミラスの妨害と様々な自然障害を懸命に排除しながら予定航宙スケジュールからの大幅な遅れを取り戻すべく一日二回の最大ワープを繰り返し、ただひたすらに唯一の希望であり可能性である遥かな大マゼラン銀河を、まだ見ぬイスカンダルを目指していた。

「ワープ完了」

「全艦異常なし」

 第一艦橋では通常のルーティンワークとなっている地球標準時0800時と2000時に行われる定時のワープ航法から通常空間へ戻った作業手順が行われおり、島航海長をはじめとした航海班と徳川機関長をはじめとした機関科員を中心とした乗組員達もそれぞれ日常的な業務として淡々と進めていく。

「周囲空間1万宇宙キロ異常なし」

『主副機関ともに異常なし。 通常運転切替よし』

「前方進路障害物なし、自動航行に切り替えます」

 さすがに90回目となれば乗組員達も空間転移に伴う自らの体が内部から裏返されるほどのワープ航法特有の苦痛にもそれなりに慣れてきていたが、徐々に悪化している宇宙放射線病を抱える沖田艦長にとっては、決して口には出さないが一回一回のワープが正にその命を削るような苦行であった。

「うう・・・」

「か、艦長!!」

 慣れたとはいっても、それなりの緊張と苦痛を伴う異空間から復帰して一息つきかけた第一艦橋に沖田の声にならない苦痛に耐える声が響き、全クルーが驚き背後を振り返る。

「・・・・・・」

〈まだだ・・・
 まだ、ここで倒れるわけには・・・〉

「どうしました?!」

「相原! 佐渡先生を呼べ! 南部! 太田! 配置に戻れ!」

 苦しげに胸を押さえた沖田艦長が艦長席にうつ伏して倒れたことにより第一艦橋は大混乱に陥ったが、古代は艦長に駆け寄ると素早く他のクルーに指示を下し混乱を収拾していく。

「艦長! しっかりしてください!!」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


 艦長室のベットに数々のセンサーとチューブを付けられた状態で寝かされた沖田艦長の傍らに佐渡酒造が付きっ切りで診察と治療を続けていたが、処方された鎮痛剤が効いたのか激しい発作は収まったようで容態は安定してきていた。

「どうですか? 先生」

「かなり・・・ 進行していますぞ」

「つまり・・・ 後どのくらいかね?」

 沖田は常時服用している抗放射線体内被曝用のヨード錠剤を口に入れると、枕元に置かれたグラスの水で流し込みながら佐渡に話しかけるが、沈痛な表情をした佐渡の返答は薄々自身の予想していた通りのものであった。

「間もなく、それでは抑えられなくなるじゃろう」

「間に合うかね?」

 艦長室前面の硬化テクタイト製キャノピー越しに果てしなく広がる漆黒の闇の中に輝く人類唯一の希望、地球から見るより遥かに大きく明るく映る大マゼラン銀河を見詰めた沖田は、佐渡に向かってせめて往路の目的地であるイスカンダルまで自分の指揮官としての命が持つかたずねていた。

「そろそろ考えておかなきゃならんじゃろう」

「・・・・・・」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


 艦長室へ古代たちと共に沖田艦長を運んだ島は佐渡に頼まれて医務室へ向かったが、そこでは酸欠の後遺症により入院していた森雪の意識が回復しており短い会話を交わした。

「もう大丈夫なのかい?」

「はい。 心配かけました」

 まだ佐渡から退院の許可がでないので我慢してベットで大人しく寝ているが、顔色もよくスッカリ回復しているようで島も普段通りに明るく接している。

「古代に感謝するんだな。 命懸けで君を救い出したんだ」

「戦いが怖くて軍を逃げ出した男になんか・・・」

「命の恩人に対して、それは厳しいなぁ」

 島は佐渡に頼まれて取りにきた医療機材を一旦テーブルに置くと、ベットの森雪を優しげな瞳で見下ろしながら笑顔を向けていた。

「私は防衛軍航宙隊エースの古代一尉に憧れて軍に入ったんです。
 それなのに彼が軍を逃げ出したって幻滅して・・・」

「・・・・・・」

「あっ! このことは古代さんに言わないでください」

 森雪の話を黙って聞いていた島航海長の笑顔に陰りが生じ、少し迷ったような素振りを示しながらベットに背を向けて歩きながら話を続けた。

「そうか・・・ 君は、なぜ古代が軍を去ったか知らないのか・・・」

「古代さんは、私が入るのと入れ違いのように軍を辞めましたから」

 部屋の隅に設置されているディスペンサーから氷なしの冷水を取ってきた島は、表面に滑り止め加工のなされた半透明の樹脂製グラスの一つを森雪に渡すと、ヘッドパネルのレバーを倒して引き出したベットサイドの格納式スツールに腰を掛けた。

「ガミラスの地球本土への遊星爆弾攻撃が本格化していた5年前、俺と古代は同じ月面基地派遣航宙機隊で迎撃任務に付いていた。
 あのころの遊星爆弾は脆かったから何発か破壊したし、進路を変更させたのも一回や二回じゃない」

「そのころの話は知ってます。 部隊でも有名でしたから」

「ああ、奴はエースだったし、俺もなかなかなものだった」

 森雪は、新兵教育の頃にベテランの教官や部隊の先輩パイロットたちに散々聞かされた話を思い出して、すでに伝説となっている航宙隊の先輩エースパイロットの話を笑顔で聞いていた。

「で・・・ 2194年9月13日も、何時ものように出撃して遊星爆弾の進路を変え地球を守った。
 俺たちは有頂天だった!」

「ところが、進路を変えたと思った遊星爆弾は第二スペースコロニーへ衝突した・・・」

 笑顔を抑えた島は、左手に持ったグラスに右手の拳を当てる仕草をしながら話を続けた。

「あの事件・・・!」

 苦しげな表情で頷く島に、森雪は放射能で汚染されだした地表からの緊急疎開先として一時期利用されていた第二スペースコロニーに居住していた半数以上の1,480万人が死亡して、スペースコロニー計画全ての放棄が決定された地球防衛軍の汚点となる事件を思い出していた。

「ああ・・・ そこには、古代の御両親とお腹の大きな俺の嫁さんも住んでいたんだ」

「・・・・・・」

「俺の方は、次男が口が聞けない子として生まれたが幸い妻とともに無事だった。
 しかし古代の方は、御両親の遺品の欠片すら何ひとつ発見できなかった・・・」

 驚きで目を見開き聞いている森雪に、島は長年自身の胸の中に詰まっていた誰にも話したことのない苦い思い出を一気に語ると遠くを見る目で黙り込んだ。


「それから直ぐ、奴は防衛軍を辞めた・・・
 守るべき人、守らなければならない人が残った俺と違って、
あいつの時は5年前のあのときで止まっているんだよ」

〈ひ、1,480万人の命の重さ・・・ 御両親をも自分の手で・・・〉

 一人の人間が背負い込むには余りにも重すぎる衝撃的な話と、自分の思い違いに言葉もなく黙り込む森雪の心の中で、憧れと裏返しの反発心が溶けていき古代への思いが深くなっていった。


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと308日・・・ あと308日−
 

 
 Episode 4.2 命令
Instruction


 艦長室のベットで静養していた沖田艦長にノックと共に古代の張りのある声が聞こえてくる。

「古代進。 入ります」

「・・・どうぞ」

「艦長。 お呼びですか?」

 艦長室に入った古代は入り口近くで直立したが、背もたれを少し起こしたベットに寝ている沖田艦長に促されて近くに立つと、少し戸惑った表情を苦心して抑えながら直立して沖田の言葉を待つ。

「うむ・・・」

「・・・・・・」

 沖田艦長も何から切り出してよいか考えあくね二人の間に奇妙な沈黙が続くが、思い切った沖田が的を射ない質問を発する。

「古代・・・ どうかね、ヤマトは?」

「はぁ 他に艦船勤務の経験がありませんので良く分かりませんが、良いフネだと思います」

 古代は沖田艦長の意味をつかめない質問に戸惑うが、意味が分からないまま無難な返事を返す。

「そうか・・・ 良いフネか・・・」

「あの・・・ 艦長。 大事な話って何でしょうか?」

 沖田艦長のハッキリしない態度に耐えられなくなった古代は促すように話しかけた。

「・・・ 古代。 戦艦大和は知っておるか?」

「いえ、大昔の戦いで沈んだフネとしか・・・」

「そうか・・・ 大和は、な・・・」

 沖田艦長はベットで静かに瞑目すると、古代に戦艦大和の最期を語りだした。
 


 今より250年ほど遡った西暦1945年、第二次世界大戦は今や終わろうとしていた・・・

 世界を二分し、持てる国力の全てを傾注した6年に渡る総力戦に力尽きた同盟国の大ドイツ帝国・イタリア帝国は既になく、唯一残った大日本帝国も世界の過半を敵に回し本土近郊にまで追い詰められ戦力・資源も尽きかけた絶望的な戦況の中、もはや自らの命諸共に敵に突入する生還を期さない特攻が正規の作戦として普通にまかり通るまでの極限の状況に追い込まれていた。


「とうちゃん。 発動機の音が・・・」

「んっ? ・・・・・・大和じゃ・・・」

「やまと?」

「そうだ! よぉく見ておけ・・・ あれが戦艦大和だ!
 日本の男のフネだ・・・ 忘れないよう、よぉく見ておくんじゃ!」

 50メートル先も見えないほどの濃霧の中で幼い子供を連れた漁師が、まるでボートのような小さな漁船のオールを懸命に漕ぎ続ける前方を、小山のような黒い巨大な物体が霧の中から一瞬湧き出るように現れると遥か南方へ向けて再び霧の中へ幻想のように消えていった・・・

 1945年4月、沖縄へ押し寄せた300隻を超える強大なアメリカ合衆国を中心とした連合国軍の日本本土侵攻艦隊を迎撃すべく、戦艦大和は軽巡洋艦矢矧をはじめとした護衛の艦艇11隻を従え、大日本帝国に残された微かな希望、そして日本海軍最後の艦隊として出撃していったのである。

 もう海軍にフネはないのか・・・? 沖縄は救えないのか?

 沖縄救援・・・ 一億総特攻の先駆け・・・ 海軍の伝統・・・

 圧倒的を超える絶対的な戦力差の中、もはや艦隊上空に一機の空中援護機の姿もなく片道分の燃料だけを積んでのそれは、希望という言葉とは正反対の正に二度と帰らぬことを前提とした決死の出撃であった。


 時に4月7日、12時31分。
 途中、故障脱落した2隻の駆逐艦を本土へ帰還させた戦艦大和を中心とする第三警戒航行序列をとった全10隻の第一遊撃部隊は、アメリカ軍空母機動部隊の新造されたエセックス級正規航空母艦12隻より出撃した、延べ1,000機にも及ぶ艦載機の激しく反復される波状攻撃にさらされた。

「ヒトフタフタマル(12時20分)、対空用電探、大編隊を発見せり!
 方位サンマル(30度)距離フタマルマル(2,000メートル)高度ロクマルマル(6,000メートル)!」

 上空を覆う雲海の間からポツポツと黒胡麻のように見える無数の敵機が次々と湧き出るように現れ、それぞれ数機ごとの編隊を組んだ機影が急降下とともに急速に大きくなっていく。

「対空戦闘用意! 各砲配置に就け!」

『対空せんとう〜よ〜い!!』

「雲が低い! 上空近距離に気を付けい!」

「右舷30度ぉ〜敵機! 対空せんとう〜!!」

「撃ぃ方ぁはじめ!」

 旗艦大和を中心とした荒い輪形陣を組んだ第一遊撃部隊は9門の46センチ主砲をはじめ上空へ向けられる全ての火器で必死の対空戦闘を続けるが、生憎の低く張り出した雲に視界を遮られて有効な長距離射撃が出来ずに近距離へ入り込まれての激しい襲撃を受け続ける。

 上空より急迫するヘルダイバー急降下爆撃機や低空より魚雷を発射するアベンジャー雷撃機、さらにはグラマン戦闘機のロケット弾による激烈な攻撃は大和に集中しており、自らの命を的に決死で迎撃する対空火器要員の射線を抜けて一発また一発と敵弾が命中していく。

 二時間に渡る三波の艦載機攻撃に、相次ぐ被雷と命中弾による艦内への浸水と傾斜復元のための更なる注水により次第に浮力と速度を失っていった大和は、敵弾の回避能力が低下するとともに10度を越えた左舷への傾斜により既に主砲の給弾と発砲は不可能となっていた。

「傾斜復元せよ」

「艦長?!
 ・・・・・・機関右舷区画への注水はじめ」

「機関10区13区16区へ注水はじめ!」

 既に設計時の想定限界を遥かに超えた被雷によって右舷の注排水区画が満水となっていた大和の傾斜拡大を防ぐために、応急指揮を司る副長の能村次郎大佐は苦渋の機関室への注水を決断して懸命の傾斜復元作業を行うが、左舷への傾斜は回復することが困難となっていくと、終に全ての砲の装弾作業が不可能となる15度を超え20度に達し、艦首は波に見え隠れするほどに沈んでしまっている。


「長官!」

「うむ・・・」

「作戦中止。 総員最上甲板へ」

 収まらない火災により被害が広がる艦橋では、艦橋トップ露天の防空指揮所より昼戦艦橋へ下りてきた艦長有賀幸作大佐が艦隊司令長官の伊藤整一中将に決意の確認を取ると、能村副長へ総員退去用意を意味する総員最上甲板への命令を発する。

「艦長?!」

「ワシは残る」

 艦長の離艦命令に疑問を呈した副長も艦長の堅い決意に頷くしかなかった。

「はっ! それでは、わたくしも・・・」

「バカ。 作戦中止だ! 若い者は飛び込んで泳げ」

 先代大和艦長であった参謀長の森下信衛少将と静かに握手を交わした伊藤司令長官は、最後の命令を確認すると退艦の誘いを言下に退け長官休憩室に消え、有賀艦長は自ら用意したロープで艦橋中央部の羅針盤へ体を縛り付けると離艦していく傷付いた将兵を敬礼で見送り続けた。

 14時20分、第四波攻撃による最後の命中魚雷を受けて艦の傾斜が急拡大し、終に艦底部の赤い防錆塗料を曝して横転することにより二番砲塔下部の弾薬庫が誘爆・・・
 激しく傷つき甲板一面が血にまみれた駆逐艦の上で、また流れ出した重油にまみれ大小の漂流物とともに波間に漂いながらも僅かに生き残った艦隊将兵の送礼に見送られる中、最後まで全力運転中であった左舷ボイラー区画へと流れ込んだ海水による蒸気爆発とともに船体中央部より大爆発を起こし大和の巨大な船体はゆっくりと深い海中へと引きずり込まれていく・・・

 同23分、この史上最大の大戦艦は九州南東坊ノ岬沖の北緯30度43分07秒、東経128度04分25秒、214マイルの海底へ6,000メートル上空の雲底にまで達する巨大な爆煙を上げて没し去ったのである。

 それは戦争という目的で作られた戦艦の悲しい運命であったのかもしれない。
 戦艦大和は3,721名の艦隊将兵と共に、やっと静かな眠りに付いたのである・・・
 


「大和とヤマト、目的、時代は違っていても乗り組んでおる人の気持ちは同じだ。
 愛する人を救いたい・・・ 何としてもな。 そうだろう、古代?」

「はい!」

 もう一人の肉親もいない沖田と古代ではあったが、愛する地球の人々を救う気持ちは一緒であり、沖田が淡々と語る遠い昔話である戦艦大和の最期の話を疑問を持ちながら聞いていた古代も弾かれたように姿勢を正して答えた。

「しかし、このヤマトは途中で沈むわけにはいかん!
 何があろうとも、任務を達成して地球へ帰らねばならんのだ!」

「そこで古代・・・」

「はい?」

 突然の話の変化に戸惑う古代の瞳を覗き込みながら沖田艦長はゆっくりと語りかけた。

「艦長代理を引き受けてくれんか?」

「じ、自分がですか?」

 余りに突然の話に混乱して沖田艦長の顔をまじましと見詰めた古代は反射的な言葉を発していた。

「そうだ。 このフネは元々は古代守に任せるつもりだった」

「兄に・・・」

「お前は、古代守と同じ資質を引き継いでいる・・・ 人の上に立つべき人間だ」

 兄の話を聞いて一瞬迷ったが、やはり沖田艦長や兄の守と比べると自分に自信が持てない。

「い、いえ、とても自分には勤まりません。 とても艦長のような指揮は取れません」

「いや、何もワシのやり方を踏襲する必要はない。 自分のやり方でやれば良い」

 自分の欠点を思い固辞する古代と、古代の利点を見て艦長代理を進める沖田艦長の押し問答は続くが、古代の考えは変わらず説得は困難なようであった。

「いえ、自分には無理です」

「そうか、どうしてもダメか・・・ それでは仕方がない、命令という形を取らせてもらおう」

 古代の説得を諦めた沖田艦長は、背を向けて右舷側のベットサイドに設置されているコム端末に軽く触れると、古代が驚く間もなくヤマト全艦に向けて話し始めた。

「総員へ達する、艦長沖田だ。 本日只今より古代進二等宙佐(野戦昇進)を艦長代理とする。
 コンピューター記録しろ。 以上だ」

 沖田艦長は通信を終えたコム端末から振り向くと、突然のことに唖然として立ち尽くしている古代に、まだ居るのかっというような表情で軽く頷きながら短く言葉を繰り返した。

「以上だ」


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと305日・・・ あと305日−
 

 
 Episode 4.3 試練
The maximum trial


『総員戦闘配置! 総員戦闘配置!』

『本艦は敵航宙機の攻撃を受けつつあり! 各員速やかに配置に就け』

「戦闘配置! 急げ!」

 太陽系を含む天の川銀河系も彼方に去り、イスカンダルまでの中間地点として目標としているバラン星へと航行を続けるヤマトにガミラスの大規模な攻撃が加えられ、三交代の通常体制にあった非番の乗組員も慌ててそれぞれの配置へと急ぐ。

「古代さん・・・ あっ、艦長代理」

「ブラックタイガー隊全機発進して待機!」

 艦内に戦闘配置を告げる非常警報が鳴り響き乗組員がそれぞれの持ち場へ急ぐ中、なかなか合う機会のなかった古代と擦れ違った森雪は今まで言い出せていなかった気持ちから声が出たが、

「いえ、了解しました!」

 戦闘配置命令を思い出して慌てて了解を返して走り出した森雪を見送ると、古代は森雪の反応を不思議に思いながらも意識を切り替えると足早に第一艦橋へ向かった。


「状況は?!」

「航宙機を含むガミラスの大規模な攻撃です!」

 第一艦橋へ入った古代は、当直だった相原通信士から状況を確認すると対応策を命じていった。

「3時方向上方10度2,800宇宙キロに大規模なガミラス機編隊。
 4時方向下方15度8,000宇宙キロに艦隊反応あり!」

「ブラックタイガー隊は3時方向の敵編隊を迎撃! ヤマトは敵艦隊へ向かう!」

『了解! ガミラス機攻撃へ向かいます!』

 古代の攻撃命令を待ちかねていたブラックタイガー隊の加藤は、発艦許可を受けると弾かれたように艦尾のカタパルトよりコスモゼロ5番3号機を発艦させ、加藤機を譲り受けた森雪を含む11機のF-96Bコスモタイガーを引き連れると右舷方向のガミラス機編隊に向けて全速で向かっていった。

「ようそろー 水平面合せます。 面舵一杯! 機関全速!」

『機関全速!』

 ヤマトは右ロールにより敵艦隊と水平面を合せると、右舷方向へ回頭して敵艦隊を主砲の射程距離に捕らえるために速力を上げて前進していくが、太田航宙統制官からの新たなレーダー報告がもたらされる。

「10時方向上方30度に新たなガミラス機編隊! 距離1,200宇宙キロ!」

「煙突ミサイルで迎撃!」

「VLS対宙攻撃用意・・・ 煙突上部扉全開放」

『10時方向! VLS誘導弾発射はじめ!』

 島田ミサイル管制官の発射した対航宙機モードの煙突ミサイルは狙い通りに敵編隊へ着弾したが、ミサイルの数を上回る敵機に撃ち漏らしたガミラス機は恐れることなくヤマトへの接近を続ける。

「敵編隊の約半数を撃破! 残存機編隊なおも接近中! 距離700!」

「パルスレーザー射撃はじめ!」

 敵航宙機に近距離に入り込まれたヤマトは、残り少ない防宙ミサイルと近接防御用のパルスレーザーで敵編隊を迎撃していく。
 

「うわぁ!」

「敵艦隊の砲撃来ました!」

 パルスレーザーの迎撃を掻い潜ったガミラス航宙機によるミサイル攻撃に加えて、敵艦隊の長距離砲による砲撃がヤマトの至近距離を掠めていく。

「うっ! この距離でか?!」

「敵艦隊を光学管制センサーで確認した!
 デ・ラーク級宇宙戦艦1、ガミラス級宇宙戦艦6、ゲルン級重巡洋艦8、護衛艦22、形式不明の大型艦1」

「どうやら不明の大型艦が長距離戦用の砲艦らしいな」

 真田技師長の分析によれば砲撃している敵艦は長距離戦に特化した大型砲を少数配備した戦闘艦のようで、砲撃速度は劣るがヤマトの射程外から一方的に撃たれたのでは反撃のしようがない。

「宙母はどこだ?!」

「発見できません!」

 更に発見した敵艦隊に航宙母艦が含まれていないということは、少なくとも他に一つ以上の敵艦隊が存在するはずで、ヤマトにとっては大きな脅威となる宙母機動艦隊を発見して規模を把握しなくては作戦の立てようもない。

「加藤! 敵編隊を撃破したら一個小隊はヤマトの直援に戻し、残りで敵の宙母を探すんだ!」

『了解! 森隊を戻し、加藤隊と山本隊は敵宙母を捜索します!』

 ブラックタイガー隊に敵宙母捜索を命じた古代の元に艦内の被害が次々と寄せられる。 第二波、第三波と続けられる敵航宙攻撃に、数に限りのある対宙用の煙突ミサイルを射耗したヤマトはパルスレーザーだけで応戦しているのが現状だ。

「敵機直上! 急接近!!」

「近接戦闘!!」

「第二砲塔被弾!!」

『左舷第三パルスレーザー群大破!』

 執拗に続く大規模な航宙攻撃に加えて、徐々に正確になっていく砲艦の砲撃による被害が次第に加わっていく。 本格的な修理を行うドックや支援設備を持たない孤立無援のヤマトにとって重大な船体の損傷は致命傷となる・・・

 もはや一刻の猶予もならない。

「波動砲用意!」

「宙母の位置が判明していないのに波動砲を使うのは危険だ!」

「しかし、このままでは主砲の射程に入る前にヤマトはやられてしまいます!」

「波動砲用意だ!」

 波動砲発射を決意した古代に真田技師長は強く意見具申するが、他に活路を開く方法のない状態に古代の決意は揺らぐことはなく重ねて波動砲の発射を命ずる。

『波動砲用意。 非常弁全閉鎖!』

「エネルギー充填。 強制注入機作動!」

「強制注入機作動します」

 機関室では補助エンジンで前進しながら波動砲の充填作業を行うという難しい作業が徳川機関長のもと行われており、少しづつではあるが射程距離に捕らえる時点で充填が終わるようにバランスを取りながら進められていく。

「敵艦隊。 12時方向6,500宇宙キロ!」

「島。 舵を渡せ!」

「ようそろー 古代、渡すぞ!」

 島からヤマトの躁艦を預かった古代は波動砲の発射手順を進めていくが、敵艦隊は徐々に後退しているようで距離がなかなか詰められない。

「波動砲収束モードに設定。 最大射程で砲艦だけでも潰す」

「波動砲安全装置解除!」

「安全装置解除! セーフティロックゼロ!
 圧力発射点へ上昇中・・・ 最終セーフティ解除!」

 第一艦橋最後部の艦長席へと走った南部砲術士が、衛星クラスの小型天体をも完全消滅させるほどの強大な戦略的破壊力を有する次元波動砲の万が一の誤射に備えて二重セーフティとなっている安全装置を解除して最終的な波動砲の作動を確保する。

「ターゲットスコープオープン!」

「電影クロスゲージ、明度10! 目標、前方のガミラス艦隊!」

 古代は波動砲用の照準器を睨み銃把を握りながら発射のタイミングを待ち続ける。

「艦首波動フィールド。 収束モードへ」

『収束モード生成確認』

「距離! 5,500宇宙キロ!」

『エネルギー充填120%!』

 ヤマト艦内各部から波動砲発射へ向かっての準備状態が報告され、敵航宙機と砲艦の攻撃を受け徐々に被害が拡大する中、第一艦橋にも刻一刻と息詰まるような緊張感が高まっていく。

「待て! 古代!」

 正に波動砲の発射を行おうとしていた古代に、自席でレーダーモニターを分析していた真田技師長はガミラス艦のワープアウトの兆候を発見して大声で制止した。

「10時方向! 距離700! ガミラス艦出現!!
 更に、9時方向! 距離600にも一隻!」

 真田技師長の制止に続いて太田航宙統制官のレーダー報告が続き、ヤマトの近距離にガミラスのデストロイヤー級駆逐艦が一隻また一隻と出現し次々に攻撃を仕掛けてくる。

「波動砲、そのまま待機! 艦首空間魚雷、左舷側ミサイルで応戦しろ!!」

「8時半方向! 距離800に一隻! 距離600にも一隻!
 更に多数のガミラス艦がワープアウト中!!」

 太田航宙統制官からは次々と近距離に出現してくるガミラス艦の報告が続き、ヤマトの舷側をすり抜けながら左舷側を集中して激しく攻撃してくる。

『左舷管制室! 対艦誘導弾全射耗!!』

『艦首宇宙魚雷残り二斉射!』

 波動砲のエネルギー充填中で主砲、副砲等の主攻撃兵装を使えないヤマトはミサイルと空間魚雷で応戦していたが、弾数の限られたミサイルや空間魚雷では今や十数隻に達したガミラス駆逐艦を防ぐのは不可能になりつつある。

「くっ! 補助エンジンの動力を主砲、副砲へ回せ!」

『了解。 動力を主砲、副砲へ回します』

「主砲! 副砲! 応戦しろ!!」

「撃ちぃ方はじめ!」

 堪らず古代は波動砲の発射準備を中断して砲撃戦を命じたが、砲撃戦が続けば補助エンジンの余剰動力が減少していき波動砲発射後の波動エンジン再始動の動力が不足する。 波動エンジンの動力を使用すれば波動砲自体の動力が不足して最大射程での発射が不可能となる・・・


「これがガミラスの戦術か? 見事だ・・・」

 艦長室のベットで戦況を見ていることしかできない沖田艦長は、ガミラスの敵ながら見事な戦術にモニターを睨みながら呟いたが、どこかに隙がないか戦況図を描いた頭の中はフル回転していた。


 ガミラスの巧妙な罠に絡め取られていくヤマトに逆転の方法はあるのか?
 地球は唯一の希望であるヤマトの帰りを一日千秋の思いで待っているのだ・・・


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと215日・・・ あと215日−
 

 
 Episode 4.4 危機
The maximum crisis


 ヤマトへ向かってきていた当面のガミラス攻撃機編隊を撃破したブラックタイガーの加藤隊と山本隊8機は、引き続きヤマト真針路11時方向水平面を中心に左右に分かれて敵機動艦隊を捜索していたが、1万5,000宇宙キロを超えても何も発見できず航続時間の問題もありパイロット達の間には焦りが大きくなっていた。

『山本。 そっちはどうだ?』

「未だ何も発見できません!」

〈くそっ! そろそろ進出距離の限界だ。 復路に期待するしかないか?〉

「ん!」

 一瞬レーダーに反応があったように感じた山本はレーダー画面を注意して見続けるが何も反応がない。
 気のせいかとも思いながらバーニア操作により機体を若干左右に振ってみると微かに画面隅に反応が見え隠れする。

「こちら山本機! 敵艦隊発見! ヤマトより真針路10時半上方5度1万7,500宇宙キロ!」

「これより接近して確認します!」

『こちら加藤! 山本隊の支援に向かいます!』

 敵艦隊へ1,800宇宙キロまで接近したところでレーダーに詳細な情報が映り、艦載機発艦中と思われる小型の反応が複数現れている大型艦の反応が捕らえられた。

「敵大型宙母確認! 艦載機発進中!! 直ちに攻撃します!!」

『山本! 我々が合流するまで待て!』

 敵航宙母艦から発艦している航宙機は行動パターンから明らかに迎撃用の直援機ではなくヤマトへ向かう攻撃機と思われ、このまま発艦を続けさせるわけにはいかない。

「大規模な攻撃隊が発艦中! 待てません!! 全機突撃せよ!」

『了解!!』

 奇襲に成功した山本機を先頭に4機のF-96Bコスモタイガー改は、無数に向かってくる対宙火器の射線を掻い潜り敵航宙母艦へ急速に接近すると、敵艦中央部の艦載機発進口へ集中して対艦ミサイルによる肉迫攻撃を敢行する。

『こちら加藤! 後3分で到着する! もう少しだ!』

「くそっ! 戦闘機だ! 全機対宙戦闘!」

 左舷側の発進口を破壊したところで既に発艦していた戦闘機と思われる敵航宙機の一部がブラックタイガー山本隊に向かってきており右舷側に対する攻撃の続行が難しくなっているが、ブラックタイガー隊の対艦攻撃が緩めば更に航宙機が発艦してしまうジレンマに陥る・・・

〈対艦ミサイルは撃ちつくした・・・ 何か方法はないのか?!〉

 多数の敵機との激しい戦闘に巻き込まれ、搭乗員用耐圧服を着ていてさえブラックアウトするほどの高Gに耐えて回避機動を行いながら山本は必死に血流の減って霞む頭を回転させるが、簡単に妙案が浮かぶはずもなく貴重な時間だけが足早に過ぎ去っていく。

〈加藤隊の到着を待っていたら宙域はガミラス機で埋まってしまう・・・〉

「くっ! くそっ!」

 敵ミサイルの破片を3個の赤い国籍と29個のガ軍キルマークが描かれた右翼へ受けた山本は、コントロール不能へ陥りつつある愛機を何とか騙しながら全力噴射でガミラス機を振り切り敵航宙母艦へ肉薄していくと、機体に残った97式対航宙機ミサイルを全弾連続発射しながら限界速度のまま真っ直ぐに右舷発進口への突入体勢に入っていった。

『山本さん!!』

「玲。 すまんな・・・ もう機体が止まらんよ・・・」

〈なぁ・・・ もう、この辺でいいだろう・・・?〉

 多数の護衛艦と目前に迫った敵航宙母艦から猛烈に浴びせかけられる対宙射撃に明るく照らし出されたコックピットでは、スロットルを非常ブースト一杯にまで押し込み激しく振動するスティックを両手で握っていた山本が、突然それまでの激しい緊張から開放された優しげな表情を自身の中の妹の笑顔へ向けると、眠るように静かに目を閉じていった・・・


『山本ぉ〜!! 何をしている、脱出しろ! これは命令だ!!』

「加藤さん・・・」

 現実世界へ引き戻すヘルメット内に響き渡る激しい怒号を受けて我に返った山本に、加藤の血を吐くような激しい剣幕の叱咤が続けて突き刺さるように飛び込んでくる。

『俺たちに勝手に死ぬ権利はない! 地球の人たちは、俺たちに命を託しているんだ。
 最期の最期まで生きる努力を捨てるな!! 山本ぉ〜! 生きるんだ!!』

「隊長・・・ そうですね・・・」

 真っ直ぐ全力突入を続ける機体の軌道に影響を与えないようにキャノピーを手動で開きコックピットより這い出した山本は、射出座席のヘッド部を掴むと機体と並行するように静かに後方へ向けて体を躍らせる。
 ゆっくりと機体後部へと流れた山本は、両腕で頭を庇いながら丸まった身体が二枚の垂直尾翼の間を通ると、全力噴射を続ける後方のエンジン噴流に巻き込まれ一瞬で彼方の闇の中へと消え去っていく。

 パイロットの脱出により無人となったコスモタイガー改の突入で、対艦装備満載で発進口内に待機していたガミラス攻撃機が次々に誘爆を起こし、巨大な炎に包まれたガミラス大型戦闘航宙母艦は航宙機作戦能力を失い攻撃力を喪失していく。

「加藤隊全機! 敵宙母に止めを刺すんだ!」

『了解!!』


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


『こちらブラックタイガー加藤! 山本隊が敵航宙母艦を撃破しました!』

 次々とガミラス側の罠に捕らえれてて危機的状況へ陥っていくヤマトへ、ブラックタイガー隊の加藤隊長より敵機動艦隊への攻撃成功を知らせる通信が入り、重苦しい雰囲気の第一艦橋の将兵にも幾分明るさが戻ってくる。

〈これで、これ以上の航宙機攻撃はない・・・〉

 ブラックタイガー隊の航宙母艦撃破に一瞬緩んだ第一艦橋へ被弾の衝撃が走る。

「艦底部に至近弾!」

「被害状況を知らせろ!」

 航宙機攻撃の危険がなくなったとはいっても依然として、ヤマトの射程外から砲艦の砲撃を受けていることに変わりはなく、ヤマトは一方的に損害を受け続けていた。

「第三艦橋との接合部が損傷。 乗員が閉じ込められています」

「何! 酸素は?」

「はい。 今のところは大丈夫です」

 どうやら損害は気密が破られるような重大なものではないようだが、エレベーターシャフトの通っている接合部しか連絡手段のない第三艦橋の被害に古代は応急作業班の出動を命じる。

「直ちに救助班を向かわせろ! 第三艦橋と連絡を取る」

「繋ぎます!」

 相原通信士の操作により予備の艦内非常通信網が繋がり、間近に訪れた突然の被害に混乱した第三艦橋からの生の音声が入ってくる。

『・・・ エレベーターシャフトが塞がっているようです・・・』

「こちら艦長代理古代だ! 第三艦橋聞こえるか?」

『・・・ こちら第三艦橋、安藤です。 閉じ込められました。
 負傷者もいます、早く医療班を・・・』

「安藤一尉。 今、救助隊が向かっている。 もう少し頑張ってくれ!」

 一刻を争う緊急性はないと判断した古代は救助を応急作業班に任せて、当面の優先する問題である砲艦を含む敵艦隊の対応に意識を集中する。

「島! ワープは可能か?」

「波動砲用にエネルギー充填は十分だから航路計算だけだが?」

「艦長代理! どのみち反応を探知されるから小ワープでの接近戦は無理だ!」

 古代の作戦に真田技師長は当然の反論を行うが、古代は落ち着いて作戦の説明を続ける。

「真田さん。 反転して後方に向けて小ワープすると見せ掛ければ・・・」

「そうか、敵は反応して慌てて前進してくるか・・・ そこを波動砲だな!?」

 古代は真田技師長の言葉に頷くと、続いて第一艦橋のクルーを一人ひとり見渡し作戦を理解したか確認を取っていく。

「よし! 180度反転ようそろー」

『波動エンジン再充填95%』

『全艦波動砲発射態勢! 全艦波動砲発射態勢! 同時に緊急機動に備えよ!』

 艦内には波動砲発射と緊急機動の警報が合せて流され続け、総員が不足する人員を補うように各部署を駆け回りながら全力で任務を遂行していく。

「ワープ用空間探知レーダー作動! 目標6時方向5万宇宙キロ」

「艦首が敵艦隊の死角に入ったら波動フィールド収束モードで再生成!」

「艦首波動フィールド。 収束モードへ」

 徐々にヤマトの艦首が廻り、波動砲口が敵艦隊の死角へ入っていく。

「敵艦隊に前進反応あり! 距離7,000宇宙キロ!」

『艦首波動フィールド。 収束モード生成確認』

 艦首部の見張りを兼ねる艦首魚雷管制室より波動砲の最終安全確認となる波動フィールド生成の目視確認がもたらされ、古代は最後の安全手順として確認情報を端末に入力する。

「敵艦隊急速前進! 距離6,500・・・6,000・・・5,000・・・」

『波動エンジン充填120%!』

「波動砲発射10秒前! 総員、対ショック対閃光防御!」

 古代はヤマトが急速反転している中、波動砲のターゲットスコープを睨み続け敵艦隊が照準に入る一瞬の発射タイミングを逃さないように待ち続ける・・・

「島! 急速再反転!!」

「ようそろー! 180度急速反転!」

 ヤマトの再反転に気付いた敵艦隊は針路変更が間に合わず、そのまま刺し違える覚悟で全力での砲撃戦を仕掛けてきておりヤマトにも被弾が相次ぎ、次々に被害も発生している。

「コスモレーダーフィールドアンテナ破損!」

「第二艦橋被弾!」

「発射5秒前・・・4・・・3・・・2・・・1」

「反転急制動!!」

「敵艦隊と軸線一致!!」

「発射!!」

 古代の発射タイミングに合せて島航海長は絶妙のタイミングでヤマトに限界の急制動を掛けてヤマトの軸線を敵艦隊に合せると、ヤマトの艦首波動砲口からは波動砲の巨大な次元波動エネルギーが接近してきた敵艦隊へ迸る!


「やったか!?」

 波動砲のエネルギー奔流は敵艦隊を包み込んだように見えたが、レーダーアンテナの破損により敵艦隊へ与えた損害はもちろん、敵艦隊の動向自体が不明な状態に陥ってしまった。

「敵艦隊付近のエネルギー反応は消えました。
 撃破したようですが詳細は不明です」

 第一艦橋では敵艦隊撃破の確認が取れず真田技師長を中心に他のセンサー類で空間の状況を探るが、思いもしない位置からの不明なエネルギー反応が現れる。

「真下に強力なエネルギー反応!」

「何?!」

 コスモレーダーアンテナを破壊された現在の状況では探知のできないヤマトの艦底部方向から円盤状の敵小型艦が近付くと、備わったマニピュレーターで第三艦橋へ取り付いた。

「何らかの音声信号が入っています。 記録のない単語が多く翻訳遅れます」

『・・・ КиёжЮ¢Ь£,ЩблГФ#кдйнЭЙЛЧ」ёбП
 いかない,ЪЖеЯЗБЕ▽яЁДэючЫф§∀КЦЩ¶イスカンダル!』

『・・・ ウィルメスト デ・ラーク ド ガミロン! エルタ、偉大なる地球に栄光あれ!!』

 相原通信士の操作により通信機から意味不明の音声が流れるが、後半には自動翻訳機の処理が追いつき、落ち着いた男性の声ではあるが切迫した内容の通信であることが第一艦橋の乗組員にも否応なしに伝わってくる。

「エネルギーレベル急激に上昇中!」

「奴は自爆する気だ!!」

「このエネルギーレベルではヤマトも只では済まんぞ!」

「艦底部の者は中央居住区へ避難せよ! 急げ!!」

 ヤマトは地球脱出船として作られた名残で居住部をはじめとした艦中央部のバイタルパートは外殻装甲以上の重装甲で覆われており、生存性の高い重要防御区画となっている。

『艦長代理! 第三艦橋の救出がまだだ!』

 古代は被害の予想される艦底部の乗員に避難命令を出したが、救助班を指揮している斉藤によるエレベーターシャフトの応急修理は終わっておらず第三艦橋乗員は脱出できていない・・・

「くっ・・・!」

 古代の脳裏に冥王星軌道での地球との最後の通信をした後の安藤の笑顔が浮かぶ・・・

〈両親も頑張ってる。 おれも絶対に生きて地球へ帰るんだ〉

〈沢山の命を預かっている指揮官とはそういうもんじゃないか?〉

〈このヤマトは何があろうとも任務を達成して地球へ帰らねばならんのだ〉

 ここでヤマトが重大な損傷を受ければヤマトはもちろん地球人類の未来がなくなる・・・
 古代の肩に地球でヤマトの帰りを待っている全人類16億人の重さがのしかかる・・・


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「雪、聞こえるか? 対艦ミサイルは残っているか?」

 相原通信士を通さず直接コム端末を操作した古代は、ブラックタイガーの森機を呼び出し奇妙に平坦に聞こえる冷静な声で話しかけた。

「はい。 対艦ミサイルは4発とも残っています」

 ヤマトの左舷後方に位置して第三艦橋の状況も見えていた森雪は、古代と通信しながら第三艦橋と接舷している敵艦をどうやってミサイルで攻撃するか考えていたが・・・

「分かった・・・ ミサイルで第三艦橋との接合部を撃て。 第三艦橋を切り離すんだ」

「・・・・・・」

 森雪自身も、考えた結果それしかないという訓練された軍用機パイロットとしての冷静な判断と、自分の手で共に暮らしてきた仲間の命を奪うことになる攻撃を受け入れられない個人としての精神が葛藤して返事ができない。

「森二尉、命令だ! 返事をしろ!」

「了・・・解・・・」

 古代の命令に自分の感情を封印すると、森雪はその場でF-96Bコスモタイガー改の機首をバーニア操作によりヤマトに向け、第三艦橋との接合部にレーザー照準をロックすると、スティックに備えられた98式対艦ミサイルの発射レバーを静かに引いた・・・

 森雪のコスモタイガーから放たれた対艦ミサイルの直撃により切り離された第三艦橋は、ヤマトから500メートルほど離れた所で大爆発を起こし、第一艦橋にも思った以上の衝撃が発生する。


「安藤! 済まん!」

 第一艦橋では乗組員全員の無言の固い視線を集中して浴びながら、古代は自分だけが別の世界にいるように感じる絶望的な孤独を一人味わっていた。

〈指揮官の孤独か・・・〉


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと214日・・・ あと214日−
 

 
 Episode 4.5 信念
The last belief


 艦橋トップの艦長室へ先ほど終息した戦闘の報告へやってきた古代は、制帽と外套を脱いだ制服姿で背もたれを起こしたベットに横たわっている沖田艦長の横へ直立不動で立っていた。

 沖田艦長に報告を続ける古代は、自分が艦長代理として初めて指揮した戦闘で傷付き死んでいった仲間たちの姿が脳裏に浮かび感情を抑えきれなくなっている。

「・・・戦死8名、負傷者11名。 損害、第三艦橋大破喪失、左舷第三パルスレーザー群大破、左舷第五パルスレーザー群中破、コスモレーダーフィールドアンテナ中破、第二艦橋小破、艦首左舷ミサイル発射管小破、第二主砲塔小破、F-96Bコスモタイガー1機を喪失しました」

「第三艦橋の喪失は、接舷し自爆を図った敵艦排除のため自分の判断によりコスモタイガーの機載ミサイルを使用して切り離しました。
 配置されていた6名全員の戦死は自分の責任です・・・」

「自分の判断ミスにより大切な乗員を失いフネを傷付けてしまいました・・・
 自分は艦長代理失格です・・・」

 沖田艦長は古代の報告に何も口を差し挟まずに静かに頷きながら聞いていたが、自分の思いをぶちまけるように一気に語った古代の言葉が一旦途切れたところで目を開けると、古代の瞳をしっかり見詰めて語りかけた。

「いや、君は最善を尽くしているよ」

「しかし、第三艦橋に取り残された6名を見殺しにしました・・・
 自分に艦長代理の資格はありません」

 かつて火星域会戦で兄を見殺しにした沖田艦長を批判していた古代は、戦闘時には他に取り得る手がないと決断したことではあるが、どうしても自分自身の判断を認めることができず許すこともできなかった。

「なぜ戻ってきた・・・ ならば、なぜ防衛軍へ戻ってきた?」

(なぜ・・・?)

 確かに、沖田艦長のいう通り5年前も自分の判断した結果起こったスペースコロニーの被害に自分自身が許せず退役したはずなのに、なぜ今また防衛軍へ戻ってきたのか・・・

「艦長がどんな人間なのか知りたかったからです・・・
 兄を見殺しにした沖田提督という人物がどんな人間なのか・・・」

「そうか・・・」

「それに、もう一度緑の地球を見たくなったのです・・・
 子供の頃に見た緑の草原を・・・ 自分の手で取り戻したかったのです」

 古代は、子供の頃に兄の守とともに遊んだ自然の溢れる故郷の三浦半島を思い出していたが、その緑溢れる風景が突如として上空から落下してきた遊星爆弾の爆発により地面は割れ灼熱の業火とともに成層圏にまで立ち昇った巨大な毒々しいキノコ雲に覆われる・・・
 


「教えてください。 自分は艦長代理としてどうすれば良かったのでしょうか?」

 古代は、何か救いを求めるように沖田艦長に対して苦悩に満ちた表情で尋ねるが・・・

「古代・・・ 結果は悔やむためにあるのじゃない・・・
 我々がすべきことは過ぎ去った過去にではなく今この瞬間にあるんだ。
 その瞬間に人知を尽くせば良い・・・」

「理屈はそうかも知れませんが自分と艦長は違います・・・
 艦長は何時も淡々と厳しい局面を切り抜けてこられました」

「そうじゃないよ古代。 そうじゃない・・・」

 自分自身のことで頭が一杯だった古代は、艦長の言葉に引き付けられるように沖田の顔を改めて見詰めると、そこには髭に隠されてはいたが鏡に映ったような古代と同じ苦悩の表情が読み取れた。

「古代! 指揮官は最善と思う判断を行うだけだ。 結果は誰にも分からん・・・
 神などではない我々にできることは、ただ最善を積み重ね続けることだけだ」

「君は立派に艦長代理の勤めを果たしている」

「・・・・・・」

「古代。 ワシは君に話さなければならないことがある・・・」

 沖田艦長はベットから上半身を起こしベットサイドに置いてあったグラスから水を僅かに含むと、古代に向かって重大な話を告げていった・・・


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


 艦長室から出た古代は、沖田艦長から聞かされた話に混乱した頭のまま当てもなく艦内通路を歩いていると、どこを歩いたのか何時しか士官兵員室の辺りに来ていた。

 古代は森雪を含む4名が過ごしている兵員室の前で僅かに戸惑うが、意を決してノックする。

「だれ?」

『古代だ。 ちょっといいかな・・・?』

 二段ベットの下段に長い時間呆然として座っていた森雪は、古代の訪問に慌てて涙を拭うと努力して普段の表情を作ろうとしていた・・・

「何ですか?」

 静かにドアが開き遠慮がちに一歩部屋へ入ってきた古代に、振り向き立ち上がった森雪は努めて冷静に問い掛けたが、涙で流れた化粧が全てを物語っているようで古代は掛ける声を失った。

「・・・ 謝りにきた」

「何をですか?」

「あんな命令をして・・・ 悪かった」

 本心では古代の気持ちが嬉しいし有り難く思えるが、普段演じているエースパイロットとして更に気丈に振舞おうとするが脳裏に先程の現実が蘇ってくる。

「何で謝るんですか? 謝る必要なんてありません!
 艦長代理はやるべきことをやっただけで、当然の命令です」

〈地球を・・・ みんなを頼みます・・・ 母さん・・・ 父さんを・・・〉

「例えそれが・・・ 例えそれが仲間を・・・
 この手で仲間の命を奪うことになったとしても・・・」

 森雪は、またしても蘇ってきた第三艦橋爆発のシーンと、安藤の最後の通信音声に懸命に抑えていた感情が溢れ涙が頬を流れ落ちる。

「すまなかった・・・」

「すみません・・・ 取り乱してしまって」

「何も言うな・・・ もう何も言わなくていい・・・」

 古代自身も何も言うことができずに、ただ落ち着くまで森雪をその胸で抱き止めるだけだった・・・


『全艦ワープ態勢! 全艦ワープ態勢! 総員ベルト着用!』


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと213日・・・ あと213日−
 

 
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