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Space Battleship YAMATO Anecdote 3
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Space Battleship ヤマト 2199

最後の戦艦
 Anecdote 3.0 予告・・・
The last Space Battleship


 第三次火星域会戦での敗北により完全に機動戦力の枯渇した地球防衛軍。 絶望的に追い詰められた戦況の中で、宇宙戦艦ヤマトの信じられない程の活躍により一時的にはガミラスの地球本土に対する攻勢は止まっているが、頼みのヤマトが太陽系を離れつつある今、地球防衛の戦力を何としても整備しなくてはならない・・・

 もちろん、現在の極度に疲弊した地球の現状で新造艦など間に合うわけもなく、MF作戦に参加できなかった損傷艦の修理改装を急ぐ中、一応は自力航行が可能な状態で帰還した航宙機搭載巡洋艦「くまの」のエネルギープラント化とともに宇宙戦艦「えいゆう」の修理改装も急ピッチで行われている。

 「方舟」計画時のヤマト主機関でありイスカンダル系波動機関に代わり下ろされた試製波式艦本一号波動機関1基へ換装装備することにより大幅に出力の上がった「えいゆう」は、4基12門が備えられたフェザー主砲のビーム出力強化とともに、将来装備のテスト運用目的もありガミラス艦に通用することが分かった18インチのヤマト型主砲を凌ぐ20インチ口径のショックカノン1門が艦首に固定装備された。

 しかし、ヤマトのイスカンダルへの往復29万6,000光年に及ぶ遠大な航宙と放射能除去装置の取得に不安を持つ地球連邦政府首脳部は、改装中の「えいゆう」をヤマトに替わる地球脱出船として狙っており、地球防衛軍司令本部との軋轢が生じている・・・


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと352日・・・ あと352日−
 
 Anecdote 3.1 蘇る英雄
The reviving Space Battleship EIYOU


「んっ? いや、もちろん最初は艦長じゃなかったなぁ〜
 ワシを、いったい何歳だと思っておるんだ?」

「確か栄清22年(2175年)か23年の年明けだったかなぁ・・・ まだ正月気分も抜け切らんうちに突然艤装委員を拝命して大分に行けというんで何も分からず第二工廠へ赴任したんだが、まだ宙錬を出ていくらもせん駆け出しの二尉で、フネの竣役とともにそのまま航海士だったねぇ」

「しかし、まぁ〜 その頃はワシも若いから何も分かっちゃいなかったが、太陽系周辺が急にキナ臭くなったってことで、それまでの比較的ノンビリしたムードから突然に軍備拡張が始まってなぁ〜
 そこで、当時ロシアで試験運用が続けられていた反部質推進実験艦ツィオルコフスキー(竣役後:グローイ)を基本モデルとして各国で大慌てで戦艦が大量建造されたんだが、日本で最初に建造が始まったのがワシの乗った宇宙戦艦「えいゆう」ってわけだ」

「んっ? いや、いいフネだったよ」

「何しろ、それまでの護衛艦や練習航宙で乗った古い巡洋艦と比べると、びっくりするほど大きくてなぁ〜
 それに、下の人たち(機関部員)は慣れない機械に苦労しとったようだが、ワシら航海にとっては細々と燃料を気にしなくてもいいのは素直に有り難かったよ」

グローイ級宇宙戦艦:世界統一政体の成立とともに必要性の薄れた軍備の削減が世界的に行われ、太陽系内惑星域の警備を主任務とするパトロール艦程度の装備となっていた地球防衛軍(正式には前身の国際連合宇宙保安機構)ではあったが、後にガミラスによる攻撃と分かる小惑星帯での物資輸送船とパトロール艇の連続遭難を受けて建造の開始された16隻(改グローイ級2隻を含む)に及ぶ大型量産軍用艦で、反部質推進の試験運用が終了し戦闘艦として俊役した一番艦のグローイ(ロシア語で英雄)に因んで各国の英雄または英雄を表す言葉を艦名とした。
 当時実用化されたばかりの反部質による膨大な対消滅エネルギーを利用したリアクター推進機関を搭載する惑星間航行用の全備重量3万トンに迫る大型艦で、三連装三基(英雄型は第一次大改装により四基に増設)の14インチ(改グローイ級である金剛型は連装16インチ)大口径フェザー砲を主兵装とする地球防衛軍で初めて宇宙戦艦と呼称されることになったエポックメーキングな艦である。

「そうだなぁ〜 ワシは結局四度もあのフネに乗っとるから珍しいかも知れんなぁ・・・
 最初が今話したように航海士として乗り組んで、2年くらい乗っておったかのぉ・・・
 その後いろんなフネを点々としておって、次に乗ったのが橋本さんの後で11代目の艦長だったよ」

「何しろ酷い激戦だったからなぁ・・・
 そのころは、もう絶対防衛圏の火星すら奪われて押し込まれとったから、後の無い無茶な作戦の連続で、櫛の歯が欠けるように僚艦が一隻また一隻と消えていった・・・」

「そうさなぁ・・・ 何しろ、余りに大勢の人が死んだからなぁ・・・」

「それで、まぁ〜 地球軌道会戦で統合艦隊旗艦だった「えいこう」も沈んで艦隊が消耗した結果、第二艦隊旗艦「えいゆう」を中心に生き残ったフネを結集した第一遊撃艦隊を編制するということで、ワシが月面基地司令に転出して降りた後、最後の決戦に沖田司令長官が乗られてMF(マーズ・フリート:ガミラス火星基地攻略)作戦に参加したわけだが、知っての通り第三次火星域会戦での手酷い負け戦でのぉ・・・」

「その後、結局のところ月面基地も敵航宙機の猛攻撃を受けて壊滅だ・・・」

第三次火星域会戦:22世紀末に発生したガミラス戦役における地球防衛軍最後の大規模な組織的戦闘で、ガミラス火星基地攻略を目指した地球防衛軍に残された機動的に使える全宇宙戦力を投入したMF作戦であったが、老練なシュルツ司令に率いられたガ軍オリオン方面空間機甲軍主力、航宙母艦6隻、戦艦14隻、重巡洋艦18隻、護衛艦90隻による迎撃を受け、航宙母艦2隻、戦艦1隻、航宙機搭載巡洋艦3隻、巡洋艦5隻、駆逐艦37隻、強襲揚陸艦8隻、航宙機多数を失うという壊滅的な損害を受け実質的に艦隊戦力を喪失した。
 


「その後は、ヤマトのお陰で一息ついてワシも命拾いしたんだが、その頼りのヤマトがイスカンダルなんていう遥か彼方へ行っちまうっていうんで残った壊滅状態の艦隊は大騒ぎだ・・・」

「そこで、ワシに第三艦隊司令長官役の貧乏くじが廻ってきたんだが、何せ地球に残っとるのは、宇宙戦艦「えいゆう」と重巡洋艦「くまの」、それに古い巡洋艦1杯と駆逐艦3杯っきりしか有りゃせんのだから・・・
 しかも、どれも大破に近い状態で飛ぶのがやっとときているんだからどうしようもない・・・」

「それでも、何も出来ませんっていうわけにもいかんから、取り合えず飛べる駆逐艦を月軌道の警戒に出して月面基地に残った航宙機隊と薄い警戒線を張ったんだが、司令だから顔には出さんが実際は死刑執行を待つ囚人の気持ちだったよ・・・」

「しかし、後から分かってみれば当時はガミラスの連中もヤマトに策源地となる火星基地と侵攻艦隊主力を破壊されててんやわんやだったらしいなぁ・・・
 そんなことで、恐る恐る偵察プローブを出してみると暫くはガミラスの侵攻はなさそうだってことで、我々も損傷艦の修理改装におおわらわってわけだ」

「問題は修理改装を行うっていったって、その頃は民生用に生命維持機能関係の機械を最優先で動かすのがやっとで、工廠をまともに動かすエネルギーにさえ事欠く有様でのぉ・・・
 しかも、ただ損傷艦を修理したってガミラスに通用しやしないんだから困ったもんだ」

「そこで仕方なく、武装と船体は酷い有様だったが機関の損傷が僅かだった「くまの」を陸(おか)に上げてエネルギープラントとして使用して戦艦の「えいゆう」だけでも大改装を行うってことになったんだが、そうなると艦政本部が絡んでくるわなぁ・・・」

「んっ? 何が問題だって?
 そりゃ〜あんた・・・
 古今東西、現場の人間とお城の偉いさんとは仲が悪いって相場が決まっているってことだよ。
 我々は前線で自分の命を張って結果の責任は自分の命で取るんだから任せてくれればいいのに、こいつらと来たら弾の飛んでこん穴倉の奥底から訳が分からん口を一々挟んでくるんだからワシらとしては面白いわけはないわなぁ」

「そんなことで艦政本部の黄色い首した参謀連中や青首の技術士官、それと高級そうな背広姿の数人とネクタイの上にパリッとした染みひとつ無い作業服を着込んだ民間人の団体がドヤドヤと大勢やってきてなぁ〜 厄介なことになったと思っておったら、えらい良い話を持って来るんだなぁ〜」

「何かって?
 いや、大改装でガミラス艦に通用するように攻撃力を上げるといってもフネの出力を上げる方法がなくて困っておったところへ、艦政本部の役人がヤマト型の旧主エンジンが一基余っておると言うんだなぁ〜
 しかも、これが元々は鹵獲したデストロイヤー級駆逐艦の波動機関を拡大コピーしたものなんだが、グローイ級の代替艦用として開発されていたものなんで少改造で手早く積めるって上手い話なんだ」

「更に一緒に来ていた背広姿の民間人・・・後で分かったところでは南部重工業の重役連中らしいが、社内で極秘に試作している20インチショックカノンがあるから使ってみないかというんだ・・・
 これはヤマト型の18インチ主砲の発展型で将来装備のテストも兼ねて使ってくれということなんだけど、どうやってそんな大きな物を積むのかと聞いたら、艦政本部の技術士官が手際よく詳細な図面データーを持ってきておって、艦首に一門を固定装備するというんだね」

20インチ衝撃砲:イスカンダルよりもたらされた波動機関関連技術の副産物として、超光速タキオン粒子と通常粒子との猛烈な速度差による超粒子衝撃波を利用した大威力粒子砲で、ヤマト型の九九式18インチ砲に続いて南部重工業を中心に開発された戦艦主砲用20インチ(51センチ口径)ショックカノン砲。
 初代地球連邦艦隊旗艦となったアンドロメダ型の主砲として改良型の四式改二型が正式採用後、18インチ砲とともに長く地球連邦軍戦艦標準主砲として使用された傑作砲である。

「あまりに上手い話し過ぎて怪しいんだが、他に打つ手のない我々には選択の余地はないわけなんだ。
 悪魔に魂を売った感じで承諾すると、南部重工業の技術者が取り付いて早々作業開始だ。
 その日の内に大工事が始まって艦中心部のバイタルパートまでバラしているんだよ。
 まぁ〜 上の方で最初っから話は決まっていたって訳なんだねぇ・・・
 その上ってのが、思っていたよりも遥かに上だったってのは後で分かったんだけどね」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「いやぁ〜 しかし、この第二次大改装の後はビックリするほど良いフネになったよ。
 呂式二号からの機関換装による大幅な出力増加により船体エネルギーシールドも強化されたので防御力も上がったし、速力も多少のデブリなど気にせず軽く30ノットは出せる・・・ 葉巻形の艦首のお陰でワープを除けばヤマト型より速いほどだ。
 主砲は簡単にショックカノンに換装するわけにはいかんのでフェザー砲のままだったが、機関出力の大幅な増加に伴ってビーム先端出力は40%アップし射程も300ほど延びた・・・ 当然命数は落ちたけど、威力が上がるのは有り難い話に変わりはないはなぁ」

「それに艦首の20インチショックカノンの威力は絶大だったなぁ〜
 4,500の超遠距離でゲルベ級重巡洋艦はおろかガミラス級戦艦ですら当たり所が良ければ一撃で撃破できる・・・ 20秒に1発というヤマト型の1/5の発射速度だが慎重に戦闘すれば十分だった」

「ん? たしかに艦載機が半減して4機になったが、どのみち地球近郊の戦闘となったから基地機の援護が期待できるので特に大きな問題は感じなかったなぁ・・・
 それより艦首砲装備のために格納庫がへずられたってことだったが、艦載機格納庫の前部が密閉された大きな空き部屋になっているのが疑問だったけど・・・」

「なにしろ南部重工業の技術者は、特別特定防衛機密になる艦首砲の制御装置が入っているから絶対に立ち入るなの一点張りで、厳重に封印されて艦長すら入れない開かずの間になっとった。
 まぁ〜 怪しいっていやぁ怪しんだが、当時は乗せる航宙機も不足して艦隊には廻って来なかったから戦力としては特に影響ないので余り気にならなかったけどね」

「そんなことで、戦艦1隻、巡洋艦1隻、駆逐艦3隻の艦隊の形が揃ったところでワシは指揮権を発動したんだが、丁度その頃に早期警戒衛星にとうとうガミラスの動きが現れおった。
 火星基地再建を狙っておるだろう大規模な輸送艦隊を含む侵攻艦隊が迫っているというんだ・・・」

「どんなことがあっても火星基地の再建を許すわけにはいかん。
 何としてもヤマト帰還まで我々だけで地球を守らにゃならん・・・
 ワシらは全力出撃したが、ガミラス艦隊の生き残りが妨害してきおった」

「戦艦3隻、重巡洋艦1隻、巡洋艦2隻、駆逐艦5隻・・・ それに輸送艦隊の護衛駆逐艦が6隻・・・
 やつらも損傷艦を修理したんだろう変な艦隊編制だったが、どっちにしてもこっちより有力な艦隊だ。
 しかし、敵には宙母はないのは分かっていたから航宙機と上手く連動して戦うことを考えておったよ」


「まぁ〜 「えいゆう」は運の良いフネだから、心配はしておらなんだがねぇ・・・」


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと254日・・・ あと254日−
 

 
 Anecdote 3.2 英雄の死闘
A desperate struggle of Space Battleship EIYOU


「承服できませんな!!」

 重巡洋艦の厚い隔壁を通して隣接する戦闘艦橋にまで届きそうな激しい怒気をはらんだ山南修艦長の大声が「くまの」の狭い艦長公室全体へビリビリと響き渡る。

「この非常時に本艦を軍艦籍から外して陸(おか)に上げるなどという与太話を、いくら地球防衛軍司令長官の直接命令だとはいえ、はいそうですかと簡単にお受けるわけにはいきません。
 当然、納得のできる説明をして頂けるのでしょうな」

「うむ・・・
 この部屋からの全ての外部信号接続を切ってくれたまえ」

 地球防衛本部の特別命令を伝えるために、火星域から呉ドックへ帰還した戦闘時の損傷もそのままの航宙機搭載巡洋艦「くまの」を直接訪れた地球防衛軍司令長官の藤堂平九朗は、山南一等宙佐の言葉に僅かに迷った素振りを見せたが、重大な決意をもって腹を決めると重い口を開いた。

「山南君・・・ 方舟の話は知っておるね?」

「噂には聞いておりますが・・・
 情けない話ですなぁ〜 我々は敗軍の将ということですか?」

 地球防衛軍の最高機密ということになっている「方舟」の話を藤堂は当然のようにサラリと口にしたが、その藤堂の態度から山南も覚悟を決めると、浮かしかけた腰を艦長室右舷に作り付けられているベット兼用の簡易イスに再び収め直しながら自笑気味に呟いた。

 それまで山南の動きを静かに見詰めていた藤堂は、向かい合って座っていた収納式の来客用イスから替わって立ち上がると、濃緑の制服上衣下から小型の上級士官用72式空間拳銃(コスモガン)を取り出したが、無言で見上げている山南の腹の底を覗くように一瞬視線を合わせながらスローモーションに感じるほどゆっくりとした動作でセイフティレバーを確認すると、非装甲人体殺傷用のレベル3に合せて二人の間にある小さな耐熱樹脂製応接テーブルの上へコトリと小さな音を立てて静かに置いた。

「これは・・・ どういうことですか?」

 本物の使い込まれたチーク材に見えるほどの巧みな木目プリントが成された引出し式テーブルの上で自分の方へグリップを向けて置かれた鈍く光るコスモガンをチラリと見た山南は、努めて冷静に改めて藤堂の瞳を真っ直ぐに見詰めるが、さすがにそれまでとは違う緊張を含んだ声で質問を発した。

「これから話すことに納得できなければ、私を逮捕するなり射殺するなりするといい」

「伺いましょう・・・」

 藤堂の態度に重大な決意を十分過ぎるほどに感じ取った山南も自身の腹を固めると、今一度姿勢を改めて藤堂の発言を促した・・・


「これは連邦政府首脳部を含めても、まだ数人にしか知らされていないことだが・・・
 数日前、九州坊ノ岬沖に未知の高等生命体からと思われる通信カプセルが落下し回収された」

「坊ノ岬沖へ・・・?」

 極秘の内に「方舟」の建造が続けられる秘密ドックのある坊ノ岬沖の言葉に反応した山南に、藤堂は静かに頷きながら話を続ける。

「現在も防衛軍中央分析室でのメッセージ解析作業が続けられているが・・・
 連邦政府の決定は、メッセージに含まれていたガミラス艦と同一理論で作動する圧倒的に強力な新方式の動力機関を全てに優先して製作し、可及的速やかに方舟の主機関をこれに換装してカミヨ(方舟)計画を継続するとのことだ・・・」

「しかし、そのメッセージには・・・」

 藤堂は最高度の機密をも完全に無視して、山南へ「方舟」とカプセルについて自分の知っている限りのことを話し続けたが、それに続いて口調を改めると決定的な極秘情報を口にする・・・


「そこで、実際にはイスカンダルへ向かわせるため秘密裏に戦闘艦へ再改装する。
 そのために「くまの」のコスモタイガー艦上運用統制システム一式が必要なのだ」

 誰にも明かせない秘密を明かした藤堂は、軍事法廷での死刑判決を待つ囚人のような硬い表情と態度で、まばたきもせずに山南の赤銅色に日焼けした精悍な顔を真っ直ぐに見詰めていた。

「それは、地球連邦政府に対するクーデターということですか?」

「実際のところ、情けないことに今や連邦政府といえども一枚岩ではないのだ・・・
 連邦政府首脳部は自分達を中心に選んだ人員での地球脱出ばかりを考えておるし、
 北米欧州連合は地上兵力の少ないとみられるガ軍に本土決戦で勝利するつもりだ」

「年寄りばかりで脱出して如何しようというのですか?」

「凍結保存している全人類のDNAを成体クローンに全面使用するそうだ」


「なるほど、正に方舟ですな・・・」

 僅かに天井を見上げるように身体を背もたれに預けた山南は、背を起こしながらゆっくりと視線を下げると藤堂へ確認する口調で言葉を続けたが・・・

「遥か、14万・・・8,000光年の彼方・・・
 往復、29万6,000光年ですか、まるで夢物語のように聞こえますなぁ・・・
 しかし、そのイスカンダルまでたどり着くことができれば放射能除去装置が手に入るのですな?」

「いや。 放射能除去装置など最初からどこにもない・・・
 ヤマト(方舟)は人類最後の希望・・・ 希望への象徴なのだ」

 藤堂の答えに硬い表情で身を乗り出した山南は、素早くテーブル上のコスモガンへ手を伸ばすと上目遣いに藤堂の瞳を厳しく見据えた。

「宇宙戦艦・・・ やまと・・・
 この企みに関わっているのは誰々ですか?」

 結局のところ、その重過ぎる名前故に1945年の二代目戦没から254年経った今日まで、海上自衛隊、航宙防衛隊、統合防衛軍を通して一度も使われることのなかった故国の古名でもある戦艦名を感慨深げに繰り返した山南は、続いて厳しい口調に変えると再度の質問を発した。

「私と沖田君、情報部の平田君、技術部の大山君、真田君・・・ そして君だ・・・」

 藤堂も、山南の鋭い視線にも全くひるむことなく真っ直ぐに見詰め返しながら五人の名前を挙げると、一瞬間をおいて片方の眉を軽く上げながら付け加えた。

「申しわけないが艦籍を離れる「くまの」は機関長の山崎君に任せて、君には第201駆逐戦隊司令官職を用意してある」


 コスモガンを中心に息の詰まるような緊張感が続いていたが、ふっと肩の力を抜くと手の中で銃の重みを確かめるように目線を移しながら山南は溜まっていた息を音を立てて吐いた。

「ふぅ・・・ ニンジン作戦ですか?
 しかし聞いてしまった以上、仕方がありませんな。
 共に人類最後の一年を軍刑務所で暮らしますか」

 手に取ったコスモガンにセイフティを掛けた山南は、銃身を手に持ち替えると口元に一瞬笑みを浮かべながら藤堂長官にグリップを向けて手渡した。
 


「司令官! 月面基地航宙隊偵察107号機より入電!
 警戒EEGB6843地区に敵艦隊ECM反応感知! 接触を継続中!」

「司令官。 現位置より10時方向上方20度ヒトロクマル(1万6,000宇宙キロ)になります」

「うむ・・・ データーをえいゆうへ送れ」

〈何とか先に発見することできたか・・・
 こちらの損害を抑えるためにも長距離砲戦に持ち込みたいが・・・〉

 火星域方面に迫り来るガミラス侵攻艦隊迎撃に出撃した5隻の地球防衛宇宙軍第三艦隊は、緊急の近代化改装によりコスモレーダーを装備した偵察巡洋艦「ながら」を先頭に先行するフネのエンジン噴射を避けるための最小限の左雁行形を成した単縦陣となる第一警戒航行序列を取り、偵察機より報告のあった警戒区域へ20宇宙ノットの艦隊速度で航行していた。


「偵察107号機より続報入電!
 敵艦隊、大型強襲輸送艦多数を含む31隻を視認! 宙母見ず!
 ワレ敵艦より攻撃を受けつつあり、で途絶えました・・・」

「司令官! 艦隊旗艦えいゆうより命令! 戦闘!!
 駆逐戦隊は機会を捉え独自に敵輸送艦隊を攻撃せよ、です」

 我が身を犠牲にした偵察機の最後の報告に第201駆逐戦隊司令官の山南一佐はグッと顎を引き締め自らの感情を飲み込むと、先任士官であり副官を兼任する航海長へ静かに頷く。

「全艦戦闘! 両舷全速! 面舵一杯! 上げ舵へ当て!」

「面ぉ〜舵ぃ一杯〜!」

「せんとー!」

「舵戻せ」

「戻ぉ〜せぇ〜!」

 艦隊の目耳として電子警戒任務についていた巡洋艦「ながら」を先頭に、5隻の地球艦隊は揃って右舷側へ舵を取ると、第二次大改装で大幅に速力の上がった「えいゆう」に合せた30宇宙ノットの艦隊全速で目標とするガミラス艦隊へ正面から最短進路で突進する。

「敵艦隊をレーダーに捕らえた! 大型艦を含む敵艦10隻急速に近付く!
 現在、12時方向上方5度、距離キューマル(9,000宇宙キロ)!」

「レーダー反応に異常! 5目標ロスト!」

「ワープだ! 近距離に注意しろ!!」

〈くっ 奴らの方が一枚上手か・・・〉

「全艦咄嗟砲撃用意! 全周警戒! 油断するな!」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「目標探知!! 左舷9時、下方10度、距離フタゴ(2,500宇宙キロ)!」

「一番三番主砲、左舷咄嗟砲撃!」

「てっ!」

 突然戦闘距離内に現れた敵艦隊の反応に全力砲撃を命じない司令長官の判断に疑問の空気もあった「えいゆう」の戦闘艦橋に、新たなレーダー目標感知の報告が鋭くもたらされる。

「右舷2時フタハチ(2,800宇宙キロ)に新たなレーダー反応フタ(2隻)!」

「二番四番、右舷へ! 後方ミサイル防御用意!
 駆逐戦隊は上下方向を重点警戒せよ!」

 左右の空間へワープアウトしたデストロイヤー駆逐艦へ、それぞれ二基の三連装14インチフェザー主砲を向けた「えいゆう」は、捕らえたレーダー目標へ概略方向が合ったところで初弾を咄嗟砲撃する。

「トラックナンバー0104へ命中反応あり! 敵艦脱落します!!」

「おお〜!!」

 艦橋砲である2番砲塔の右舷への急速な指向で突然正面に捕らえることになった2隻の敵艦。
 それまでガミラス艦に全く通用しなかった宇宙戦艦「えいゆう」の主砲が、駆逐艦とはいえ初弾で敵艦へ損害を与えたことに乗員の間にも素直に感嘆の声が上がる。

「諸君。 浮ついている暇はないぞ!
 続けて照準修正、どんどん撃て!」

「続けて各砲トラックナンバー0101から0103を照準! 次発急げ!」

〈何があってもガミラスの火星基地再建を許すわけにはいかない。
 ヤマト帰還まで生き残るのが我々の使命だ・・・〉


 地球艦隊の左右をデストロイヤー駆逐艦で支えている間に正面へ急速に接近してきた残余のガミラス艦隊主力は、主砲の射程距離付近で面舵を取ると慣性速度で距離を詰めながら地球艦隊の頭を抑えるような形でT字を描いた。

「正面の敵艦隊、距離ヨンサン(4,300宇宙キロ)で右舷回頭中!
 戦艦フタ(2隻)、重巡洋艦ヒト(1隻)、巡洋艦フタ(2隻)」

「艦首ショックカノン射撃用意! 目標敵戦艦!」

「艦首FSC撃ちぃ方用意! トラックナンバー0202目標ロック!」

「巡洋艦ながらへ軌道変更指令おくれ」

 二番艦である「えいゆう」の艦首砲射線上に掛かる、それまで一番艦として艦隊前方の警戒任務に就いていた「ながら」に進路の変更命令を出した旗艦艦橋では、改装で新たに装備された艦首の強力な南部重工業製20インチ45口径試製零式衝撃砲の初めての実戦発射準備を急速に進めていく。

「巡洋艦ながら及び駆逐隊、右舷へ変針! 戦列より離れます」

「うむっ 全艦載機発進。 駆逐戦隊を援護せよ」

『コスモタイガー隊全機発進!』

 地球艦隊から受けた思わぬ損害に僅かな乱れを生じさせたガミラス艦隊に反応して第201駆逐戦隊の山南司令官は「はなづき」「かや」「まき」三隻の駆逐艦を率いると果敢に敵輸送艦隊への突入を図り、報告を受けた司令長官は「えいゆう」に積み込まれた第三艦隊唯一の4機のF-96コスモタイガーを援護に向かわせる。


「航海。 制動一杯から後進へ!」

「後進一杯、ようそろ!」

 後続する駆逐艦の変針を確認した司令長官は、正面のガミラス艦隊主力との距離を出来る限り保って射程距離で勝るショックカノンによる遠距離砲戦を行い、隻数で劣る戦力の不利を補おうと図る。

「ショックカノン発射態勢はじめ! 重力アンカーはフリー!」

『エネルギー艦首砲へ伝達・・・ タキオン量子転換炉正常作動中』

「艦首砲エネルギー上昇中・・・」

 艦橋からの命令を受けた機関室では、ヤマト型戦艦の補助エンジンと同一方式の地球製簡易波動エンジンである波式艦本一号波動機関で発生させた膨大なエネルギーをタキオン量子転換炉で完全なタキオン粒子へ変換すると、艦首ショックカノンのエネルギーチャンバーへ超時空加圧充填していく。

「トラックナンバー0202へ誤差修正・・・ 照準よろし!」

「船体重力バランス艦首砲軸線と一致、同調確認した」

「ショックカノン充填一杯! 初弾射撃用意よろし!」

 司令長官の発射準備命令から23秒、全ての準備が整ったのを確認した戦闘班長の気合のこもった報告に間髪を入れずに司令長官の発射命令が被さる。

「撃ちぃ方はじめ」

「FSC撃ちぃ方はじめ!」

「てっ!」

 艦隊の最前面へ出た「えいゆう」の艦首から従来のフェザー砲とは全く違う力強い強烈なビームが真っ直ぐに敵艦隊へ向かっていくと、僅かに右上に照準の外れたビームが目標とした敵二番艦の三番砲塔を直撃、それまでの戦闘では考えられないことに強大なガミラス級戦艦の強固に防御された主砲塔を正面から完全に打通し跡形もなく吹き飛ばした。


〈えいゆうの戦いは、これからだ・・・〉


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと253日・・・ あと253日−
 

 
 Anecdote 3.3 英雄は死なず
The Space Battleship EIYOU does not die.


「んん? 名誉艦長じゃないのか?
 せっかくの記念館が空っぽになってしまうぞ」

 ガミラス戦役に続いて参戦したガトランティス戦も終わり、予備役編入の希望を通した老いた宙将の隠居場所である閑静な自宅をわざわざ訪れた山南修地球防衛軍司令長官の茶飲み話で終わりそうもない話に、こればかりは現役時代と全く変らない何時ものとぼけた声が漏れる。

「そうだ。 えいゆうは現役復帰されることになった。
 あなたにも艦隊司令長官の椅子を用意してある」

「やれやれ・・・
 やっと孫の相手をしてやれると思っておったのに、そうもいかんか・・・」

 地球が保有する全ての軍事力を統括する地球連邦軍令会議議長となった藤堂平九郎に代わって宇宙軍を統べる防衛軍司令長官となったばかりの山南宙将であったが、実際のところはガトランティス戦でほとんどの主力艦艇を失っていた地球連邦艦隊をはじめ、全ての軍用艦艇と人材の著しい不足に防衛計画すら立てようもない厄介物を背負わされたというのが現状なのであった。

「地球防衛艦隊は、建造中で破壊されなかったアンドロメダ型5番艦を中心に生き残ったアイオワ型戦艦4隻を主力に編制するが、太陽系外周艦隊の戦力が全く足りていない・・・」

「それで、えいゆうを・・・」

 頷いた漆黒の深宇宙を思わせる濃紺に染め上げられた地球防衛軍高級士官制服姿の山南は、手に持ったままだった制帽を音を立ててテーブルに置くと、現在の防衛軍の実情を淡々と語っていった・・・

「空間護衛総隊から引き抜いた艦艇だけでは、2個艦隊を編制するのが精一杯だ。
 M-22061式戦時急造護衛艦の建造も急がせているが指揮艦艇が絶望的に不足している」

「だからといって、えいゆうやワシなどロートルを引っ張り出したってどうにもならんぞ」

 本当に渋茶をすすっていた茶碗からゆっくりと顔を上げた老いた瞳の奥には、その惚けた言葉とは裏腹に歴戦の戦闘指揮官の鋭い輝きが見え隠れしていた。

「地球近郊防衛までの時間稼ぎにはなる・・・
 自動警報警戒機よりは遥かに役に立ちます」

「はっはっはっ・・・ 相変わらず実直だな。 山南生徒」

 ガミラス戦以前の遥かな過去、山南が防衛宇宙軍大学校生徒だったころ戦術科教官であった老人は、にこやかに笑いながら25年前の懐かしい呼び名を漏らした。

 この10年間に2度の滅亡の掛かった大規模な対異星間戦争を戦った地球人類、そして防衛軍は壊滅的なダメージを受けており、特に大きかった人的被害はもはや枯渇といってもよいレベルなのであった。

〈しかし、我々は人類を守らねばならない〉

 そう、淡青の地球連邦旗の前で誓ったのだ。
 我が命に代えて地球を、人類を守ると・・・

「地球防衛軍は・・・ 地球人類は貴方と必要としている」

「分かった。 我が存在の全てに代えて、誓って人類を守る」

 山南長官の目に写るのは、もはや引退した老人ではなく歴戦の戦闘指揮官そのものであった・・・
 


「艦隊司令長官入室!
 総員敬礼!」

 懐かしい艦橋へ6年ぶりに戻ってきた老年の司令長官は、久しぶりに着込んだ堅苦しい司令官用外套の裾を伸ばすようにしながら総員7名の戦闘艦橋クルーの出迎えに、ゆっくりとそれぞれの顔を見返しながら綺麗な海軍式の応礼で答えた。


「今回の第三次大改装で艦橋の設備も提督が居られた頃と大分変っておりますが、基本的に指揮系統は同じですので戸惑うことはないと思います」

「うむ・・・」

〈この擬似端末ってのは慣れないな・・・〉

 従来の電磁接触式と物理的スイッチを併用させた入力装置から、ここ数年で軍用装備にも使用されるようになってきた立体空間把握式の擬似空間端末に未だ慣れることのできない宙将は、心の中で溜息混じりにぼやいていた・・・

「大きな変更は、機関が完全なイスカンダル系波動方式の伊式艦本五号波動機関に換装されましたので、主砲は全て正規の直行式14インチ三連装ショックカノンに変更されております。
 またそれに伴い、現用のアイオワ級と比べれば小規模ではありますが、波動砲も艦首軸線ショックカノンに変って装備されておりますので攻撃力係数は従来の8,500%と大幅にアップしております」

 艦隊副官も兼ねることになる「えいゆう」先任士官である予備二等宙佐の戦闘班長は、本職の技術系の話を嬉々として行うが、近年の技術に疎い司令長官は最低限必要なことのみ記憶するように努めていた。

「速力の方はどうなっておるんだ?」

「はい。
 機関出力は140%ほどアップしておりますので加速は上がっておりますが、残念ながら船体強度の問題もあり最大速力自体は32宇宙ノットでほとんど変りません。
 また、同じ理由によりワープ機関は搭載されておりません」

 副官の説明が続く艦長席から見える前部の各制御席では、今回のテスト航宙に向けての計画と準備がクルーの間で続けられていたが、粗方の準備が整ったのを見て取った司令長官の命令が発せられる。


「分かった。
 それでは出師準備に入ってもらおうか。
 月面基地で僚艦と合流する」

「分かりました・・・ 出航用意!」

 司令長官の命令に敬礼を返した副官の戦闘班長は、よく通る張りのある声で艦橋全員に命令を復唱するとともに全艦に向けて出港準備を命ずる警報スイッチを入れた。

『全艦出航用意! 全艦出航用意! 外郭の気密を確認せよ』

「出航用意・・・ ようそろー
 太陽系外周第三艦隊旗艦BBS-225えいゆうより呉コントロール、出航許可願います」

 舵を握る航海長の昔から変らない生真面目な通信に、同期の呉軍港航路統制官は規定通りの許可をだすと、くだけた態度の敬礼を付け加えた。

『呉コントロールより、AF03-01。
 出航許可します。 どうか安全な航宙を・・・』

「ありがとう。 機関出力上げろ」

「周囲安全確認よろし」

「もやい放てぇ〜」

 航海長の操作に答えて機関室では、いささか無理のある配置で苦労させられる波動機関を絶妙にコントロールしているベテランの山崎機関長が、まだ新機関に慣れていない部下の細かい動きをも見落とすことなく規定の出力へとエンジンの回転を上げていった。

『波動エンジン回転正常・・・ 出力1/4』

「抜錨! えいゆう発進」

「ようそろー 抜錨! 慣性コントロール、マイナスへ・・・」

「マルフタ・・・ マルロク・・・ マルキュー・・・ ヒトマルヒト・・・ 船体浮上した」

 呉宇宙軍港との最後の物理的繋がりである連絡ケーブルを切り離した「えいゆう」は、船外慣性コントロールによりスムーズに船台を離れると徐々に晴れ渡った青空へ向かって上昇していった。

「両舷バランス正常・・・ 上昇速度、毎秒100・・・110」

「現在高度3,500・・・4,000・・・ 安全高度確認よし」

「ようそろー 両舷微速前進・・・」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「現在時刻0950。 間もなく会合予定時刻です」

「艦首正面1時方向、1万4,000宇宙キロにレーダー反応!」

 巡航速度で5分後に規定座標到着予定という正に旧日本海軍以来の伝統を完全に踏襲した艦艇は、メインモニターの中で徐々に大きくなりながら詳細なデーターが映し出される。

「輻射紋解析。 ゆふづき、すづつき、あきづき、みつづき・・・」

「後方に新たなレーダー反応! 巡洋艦1、護衛艦12・・・ 第43護衛隊群です」

 4隻の303護衛隊を前衛に完全な戦闘警戒隊形を取った17隻の戦闘艦は、暗黒の宇宙空間から次々ににじみ出るように現れると、新たにもたらされたガトランティスの新技術より標準規定された高熱反射型の鈍い白色に近い塗装を煌かせた。

「あまり探知距離が伸びておらんな」

〈どうも、白色塗装というのは気に入らんな・・・〉

 熱探知妨害などの利点を頭では分かっていても、司令長官の目には、どうみても以前の濃いグレーを基調とした無反射塗装と比べると現行の白鳥のような真っ白い艦体色は欠点にみえて仕方がない。

「第43護衛隊群はレーダー欺瞞フィールドを使用しています。
 船体色も実戦では熱光学迷彩を掛けますので問題ありません」

「なるほど・・・ 常在戦場か」

 さすがに、この10年で二度も絶滅寸前にまで追い込まれた地球人類には、ガトランティス戦終結から1年を経た現在でも宇宙が平和だなとという考えは浮かんでこなかった。


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「長官。 間もなく訓練予定宙域です」

「うむっ」

 303護衛隊の4隻の護衛艦を前衛に宇宙戦艦「えいゆう」を中心とした球形陣を取った全18隻の太陽系外周第三艦隊は、今回の訓練宙域に規定されている小惑星帯に近付いていた。

 火星軌道と木星軌道の間に広がる小惑星帯は、地球の存在する太陽系中心部内惑星域を守る防衛帯としてこれまでの戦いでも利用されてきたが、平時となる現在も急速な復興に欠かせない鉱物資源の採集源となるともに地球防衛軍の訓練宙域としても一般的に使われている。

「それじゃ、計画通り頼む」

「はい。 全艦状況開始!」

「ようそろー 訓練プログラム展開よし」

『全艦訓練状況開始! 全艦訓練状況開始! 総員配置に就け!』

 地球防衛軍司令本部より伝達された厳封データーを自動的に行われた閉鎖回路での2重のウイルスチェックに続いて各中央コンピューターに展開した艦隊各艦は、コンピューター上の訓練用擬似状況データーに対応しながら実行訓練をはじめていく。


「レーダーに反応あり! 1時方向。距離1万8,000!」

「的速40宇宙ノット! 艦種不明、数およそ20!」

 コンピュータープログラムにより艦橋の機器類は実際の状況と全く同じように設定状況を再現しており、訓練に参加している全乗組員にとっても実際に肉眼では敵を目視できないことと被弾による物理的な被害がない以外は実戦と全く違いがないリアルな状況が広がっていく。

「8時やや上方1,200に航宙機多数出現! 急速に近付く!」

「全艦全兵器使用自由! 咄嗟射撃はじめ!」

「前衛隊は右舷へ回り込め!」

 対艦隊戦陣形として前衛に配置されていた303護衛隊を突然の近距離戦での混乱から一時的に離脱させ的編隊の側面から攻撃させる命令を出した司令部は、さらに正面の的艦隊が通常兵器で対処不能な戦力だった場合に備えて本隊先頭艦となっている巡洋艦「ゆうばり」へ針路の変更を命じる。

「ゆうばりへ針路変更命令! 本艦の艦首軸線を開けよ!」

「現存的航宙機17! 撃破7! 味方被害軽微!」

「的艦隊捕捉! 距離1万4,000宇宙キロ!
 戦艦6、巡洋艦4、護衛艦12、近付く!
 さらに後方に、宙母2、巡洋艦4、護衛艦16、確認!」

 的艦隊の戦力が明らかになったことで戦闘班長が司令長官の顔を意味ありげに伺う・・・

「うむっ」

 片眉を軽く上げて旧知の戦闘班長を見やった司令長官は、コマンダーシートの戦況盤とコンピューターによる的可能行動予測パターンを最終的に確認すると静かに頷いた。

「艦首正面反行戦用意! 主砲斉発第一射法!」

「艦首波動砲通常充填はじめ! 機関最大出力!」

 ここ数年の波動機関技術の著しい進歩により、ほとんどの軍用艦の波動機関にはスーパーチャージャー(超高圧縮タキオン再充填装置)が装備され、補助エンジンを使用できない状況や、元々補助エンジン機構を持たない「えいゆう」などでも発揮出力は制限されるが波動エンジンでの動力航行を行いながら同時に波動砲の充填を進めることができるようになっている。

『了解! 機関出力最大よろし! 波動砲充填開始よし!』


〈さてさて、どうなることやら・・・〉


 

−2207.0729 宇宙戦艦えいゆう航宙日誌補足−
 

 
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