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Space Battleship YAMATO Anecdote 2
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Space Battleship ヤマト 2199

第二遊撃艦隊
 Anecdote 2.0 予告・・・
The second flying squadron


 第一遊撃艦隊、第一機動艦隊と比べると小規模ではあるが今作戦の真の主力となる第二遊撃艦隊。 強襲揚陸艦として使用される高速宇宙輸送艦によるガミラス火星基地の地上部隊攻撃が狙いである。

 8隻の「みうら」型高速輸送艦に乗せられた完全武装の空間騎兵隊員1,916名はもちろん、輸送艦の乗組員、護衛艦の乗組員全てが陸戦準備をなして強行揚陸、近藤誠一提督以下艦隊総員2,301名が作戦に成功しない限り生きては帰らない覚悟を固めていた。

 しかし、もちろん僅か17隻の第二遊撃艦隊に強力なガミラス艦隊を単独で突破する能力などあるはずもなく、作戦の成功は第一遊撃艦隊と第一機動艦隊の勇戦、そして敵艦隊の失策と神の奇跡に期待するという危うい前提に掛かっている。

 ガミラス艦隊に見つかれば、攻撃力・防御力・速力全てに圧倒的に劣っている第二遊撃艦隊に生き残る道はない。 果たして第二遊撃艦隊は敵火星基地へたどり着けるのか? 攻略部隊は火星の土を踏むことができるのか?


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと492日・・・ あと492日−
 
 Anecdote 2.1 第一連合騎兵団
The first union cosmo trooper battalion


〈・・・・・・〉

 地球出発から丸1日、戦艦の狭い兵員室に部下11名とともに押し込められた空間騎兵隊第一連合騎兵団第六中隊第二小隊長の斉藤始は、それまでの目の廻るほどの慌しい出撃準備で疲れているはずなのだが、妙に高ぶった神経に目が冴えて眠れない長い夜を狭苦しい三段寝台で過ごしていた。

 同室する普段は豪胆な歴戦の空間騎兵隊員たちも同じように眠れないのか、頭の後ろで両手を組み上段の暗い寝台の底を只見詰めていた斉藤の耳に、部屋のそこかしこでボソボソと囁くように会話する微かな声が断片的に漏れ聞こえてくる。

〈明日は戦場だ・・・〉

 眠れないまでも少しでも身体を休めて体力と気力の回復を図るために無理に目を閉じた斉藤の脳裏に、昨日の出航前の地球で過ごした最後の夜のことが思い出される・・・


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「斉藤・・・ どうしても行くのか?」

「ああ・・・ 止めても無駄だ」

 現在所属する中隊は異なっているが元々宙兵団同期の斉藤と清水は、出撃前の最後の上陸に南九州沖地下基地郊外の寂れた居酒屋で町中を覆う喧騒に逆らうように静かに酒を酌み交わしていた。
 今回の作戦は言うまでもなく日時内容を含めて全てが地球防衛軍の最高機密に属する事柄であるが、洋の東西古今を問わず作戦前の最後の上陸となれば軍港の盛り場は制服の男達で一杯となり、町の誰もが口には出さないが特異な張り詰めた空気に特別な何かを感じていた。

「しかし、一人息子の貴様が死んだら田舎のお袋さんは・・・」

「だからだ! だから俺達がガミラスを止めなきゃならんだろ!」

 敵ガミラスの情け容赦ない無差別戦略爆撃により僅かな生存空間を地下に求め必死に生き延びている人類にとり、今や前線も銃後もない極限の状態であり地球人類全てが死線の渕を彷徨っているのだ。

「どっちにしろ、方舟には・・・」

「分かってるさ!! 分かってるよ・・・
 お前だって、分かってて行くんじゃないか?!」

 顔の前に持ち上げたグラス越しにフッと笑った清水は、そのままグラスを一息で空けると溜まった息を音を立てて吐きながら言葉をつないだ。

「まぁ〜な・・・ それが俺達の仕事だ・・・
 しかし、貴様は囮の第一遊撃艦隊だ。 間違いなく生きて帰れないぞ」

「鈍足の輸送艦なんぞに乗っていくお前らよりマシだよ・・・
 俺が乗るのは腐っても地球最強の戦艦なんだからな」

 高速輸送艦といっても10〜15宇宙ノットが一般的な輸送船と比べて高速というだけで、30宇宙ノット前後のフネが当たり前に揃っており、「磯風」型など35宇宙ノット近くを出せる高速艦も多い戦闘艦とは違い、「みうら」型の速力は一杯でも20宇宙ノット程度に過ぎない。

 今回の作戦において強襲揚陸艦として使用するための緊急改装で、船体外部に取り付けられた大型ブースト機関を最大出力で使用したとしても30宇宙ノット出せるか・・・ しかも、継続時間は最大推力で僅かに5分・・・
 35宇宙ノット以上を軽く出してくるガミラスのデストロイヤー級やクルーザー級、更に高速高機動な航宙機とのことを考えると、斉藤の指摘もあながち間違っているとはいえないのが実際の話だ。

「ああ・・・ しかし、命懸けなのは俺達だけじゃないからな」

「ドックで作業している奴らだって分かってるんだぜ・・・
 すごい奴らだよ・・・ 俺には、とても真似でねぇ」

 後ろの席で飲んでいる数人の作業員風の男達をチラッと見た斉藤は、自分たち自身は乗れないことの分かっている最後で唯一の地球脱出船、人類最後の希望である「方舟」の建造作業を黙々と行う・・・ 生還の期し難い作戦に赴く兵士と違った、ある意味において更に過酷な任務をこなし続ける名も無い英雄達を思うと、それ以上続く言葉がでなかった。

 斉藤たちにしても、火星到着まで生き残ったとしても残り僅か3日の命・・・
 僅かに選ばれた人類を地球外へ脱出させるために時間を稼ぐ捨石となる兵士達・・・
 地球人類の種の継続・・・ その担い手となる人員がどのような基準で選ばれるのかなどは一介の下級士官に過ぎない二人には関係のないことで、只それぞれに身近な守るべき人を一日でも長く守ることに自分自身の死というものの意味を見付けようとしていた。
 


「死に方用意・・・」

「んっ?」

 清水が肘を付いた両手の中に包むようにして握ったグラスに額を付けながらボツリと呟いた言葉に、斉藤は無意識のうちに永いこと見詰めていた自分自身のグラス表面で揺れる液体から突然のように意識を取り戻すと顔を上げた。

「250年前だ・・・
 第二次世界大戦末期に艦隊特攻として出撃した旧日本海軍士官が言った言葉だそうだ・・・」

「死に方・・・ 用意か・・・」

 間もなく自分自身の人生が終わる・・・
 平和時の人間が100年掛かって探し出す自身一生の意味・・・
 そして、それぞれに達成し到達する何か・・・

〈俺達に、そんな時間は与えられていない・・・〉

「しかし、考えようによっちゃ死ぬ時が分かってて準備できるんだから・・・な」

「ああ・・・ それまでに意味を見付けるさ・・・」

 交わす言葉もなくなった二人は、ただ黙々とグラスを乾し無言で酒を注ぎ合っていた・・・


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


『総員起床!! 総員起床!!』

「何だよ・・・ ついさっき寝付いたばかりじゃないかよ・・・」

「おいおい、まったく勘弁してくれよ・・・」

 4時間の当直と8時間の非番を繰り返す三交代勤務を行い続ける艦隊将兵と違い、地球標準0525時に一斉に叩き起こされた巡洋艦以上の艦隊各大型艦と8隻の輸送艦それぞれに乗り組む空間騎兵隊員は、それまで馴染んでいた日本標準時間との時差に戸惑いながらも暖かい寝台から嫌々這い出すと、下士官の鋭い叱咤を浴びながらベットメイクと身支度を素早く整える。

「急げ!! 気合を入れろ! 宇宙軍に舐められるんじゃないぞ!」

「柔軟体操10分! 朝飯前に部屋と通路の掃除もだ! もたもたするな!」

「お前とお前はトイレだ! ピカピカに磨き上げるんだぞ!」

 毎朝恒例の喧騒を背中に聞きながら第一連合騎兵団第六中隊第二小隊「えいゆう」分遣隊を直接指揮する斉藤二尉は、第一遊撃艦隊旗艦「えいゆう」の戦闘艦橋下部に隣接された戦闘指揮所へと続くエレベーターへ足早に向かっていった。


 同時刻7万宇宙キロ離れた空間を火星宙域へ向けて進む輸送艦「みうら」では、同じような指揮下隊員の慌しさから離れた第一連合騎兵団第一中隊第三小隊長の清水二尉が、第二遊撃艦隊輸送隊司令部と第一連合騎兵団司令部の集まる中央作戦室へと急いでいた。

「さて、死に方用意だ・・・」


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと490日・・・ あと490日−
 

 
 Anecdote 2.2 艦隊護衛戦
The desperate struggle of a fleet guard game


『艦橋CIC。 左舷前方10時、ハチマル(8,000宇宙キロ)にECM反応多数出現! 急速に近付く!』

〈見つかったか・・・ あと少しだというのに・・・
 やはりガミラス艦には超光速航行能力があるのか・・・〉

 第二遊撃艦隊護衛隊旗艦の巡洋艦「あぶくま」艦橋では、司令長官の近藤誠一提督が腕組をしたまま戦闘指揮所からの報告を無言で聞いていたが、有力な敵艦隊に見つかった以上は機動力の劣る輸送艦を含む第二遊撃艦隊の編制戦力では逃げ切れるわけもなく、撤退しながら背中を切られるよりは正面から戦って死中に活路を求めるというのは第一遊撃艦隊よりの撤退連絡を受けて合同司令部で話し合った結果の決定であった。

「いわなみ以下、第14駆逐隊は輸送隊を護衛して当初の予定通り火星圏へ全速突入。
 第31、第32駆逐隊は本艦に続いてガミラス艦隊を迎撃せよ!」

 圧倒的に強大な戦艦を含む敵艦隊へ真っ直ぐに突入していく巡洋艦1隻に駆逐艦5隻・・・
 同じ釜の飯を食ってきた戦友たちを僅かな時間でも守るべく自らの命を盾に死地へ向かう男達・・・
 異常な精神の支配する戦場にあってさえ、誰にも否定できない崇高な行為を行う戦友たちの最後の姿を目に焼き付けながらも別の死地へ向かう男達の行動は止まることはない・・・

「全艦艦隊全速! 強襲揚陸艦は補助ブースト機関を全力使用し火星域へ全力突入せよ!」

「両舷全速〜 方位サンヨンマル」

『機関全速! 両舷機黒一杯!』

 この敵艦隊への突入で補給をも受け持つ母艦である巡洋艦「あぶくま」を失えば、全速で火星基地へ突入する第14駆逐隊の駆逐艦にも地球へ帰還するための燃料は残されていない・・・

〈例え最後の一人になったとしても我々は諦めない・・・〉


 旗艦である巡洋艦LCS-311「あぶくま」を先頭に斜めに続く右斜行形の誘導弾戦隊形を取った第二遊撃隊6隻の突入隊は、主兵装の反陽子誘導弾の有効射程距離まで突入すべく必死の回避機動を描きながら僚艦の被弾に構わず全速で突入していく。

 もちろん全速突入といっても真っ直ぐに敵艦隊へ向かう針路は取らない。
 強力な重力場が近くにある場合以外には厳密に直進をする粒子砲やフェザー砲が主戦兵器となっている現在、撃ってくる目標へ真っ直ぐ向かう針路など瞬時に解析され撃破されてしまう・・・
 第二遊撃艦隊突入隊は目標を敵艦隊の左舷側に定め、徐々に右舷方向へ回り込むことになる進路を取るとともに上下に激しく機動しながら敵艦隊との距離を縮めていく。
 言うまでもなく指揮下の駆逐艦は「あぶくま」の影になるように雁行隊形を取っているので、敵艦隊よりはレーダーを使っても直接探知位置特定をすることはできない。

「敵艦隊、捕らえた!
 距離ヨンマル(4,000宇宙キロ)! 戦艦フタ(2隻)、重巡洋艦ヨン(4隻)、護衛艦ジュウフタ(12隻)!」

「誘導弾有効射程まで後ヒトゴ(1,500宇宙キロ)!!」

「敵艦隊、発砲!!」

「全艦! 全力回避機動!!」

 全力の回避機動とはいっても突入速度を維持するために針路変更は行わずバーニアでの機動制御を行いながらメインエンジンの全力噴射を続ける突入艦隊は、40宇宙ノットに迫る艦隊速力を維持したまま流星のように敵艦隊への突入を続ける。

「旗艦に敵弾集中!」

「んっ!」

 距離が縮まるとともに徐々に正確になってきた敵艦隊よりの砲撃が先頭の旗艦「あぶくま」に集中、影になる二番艦の「きよかぜ」から見ても明らかに重大な被害を受けたのが分かるほどの閃光を発する。
 


「左舷側艦尾に被弾!」

『機関損傷! 出力維持できません!』

 機関長よりの致命的な報告に一瞬天を仰いだ近藤提督は、奇妙に感じるほど落ち着いた態度で自ら艦長席のコム端末に触れると指揮下の「きよかぜ」に通信を送る。

「「あぶくま」より「きよかぜ」へ」

「きよかぜカチ(艦長)受信。 近藤さん、大丈夫ですか・・・」

「おお〜 よう燃えとるよ・・・」

 自照気味に明るく答えた近藤提督は、次の瞬間口調を変えると最期の命令を発した。

「第31駆逐隊司令に命令! 本艦の救助不要!!
 ワレに顧みることなく全駆逐隊をまとめ敵艦隊へ突入せよ!
 宮島! 我々の分まで頼む!」


〈近藤さん・・・〉

「くっ!
 全艦、全力突入!! ワレに続け!」

 機関部被弾により急激に速度の落ちた「あぶくま」は、指揮下の駆逐隊の突入を援護するために自艦を的に敵弾を引き付けるように最大射程での砲雷戦を開始する。

「遠射程誘導弾戦はじめ!」

「全射線全弾連続発射よぉ〜い! 艦隊速度同調発射!」

「全射線発射よぉ〜い良し! ・・・・・・てっ!」

 誘導弾発射のために一瞬回避機動を止めた「あぶくま」は、全発射管12射線を使い駆逐艦への補給用も含めた72発の誘導弾を連続発射するが、有効射程外のため突入を続ける駆逐隊の速度に合せた最微速モードで途中の誘導は駆逐隊に期待する。

 駆逐隊に速度を同調させるのは、自動発信する欺瞞情報により僅かでも敵艦隊のレーダーを混乱させる目的もあるが、最後の突入時には残った燃料を全力噴射して加速し敵艦隊に先行突入する。

「引き続き本艦は駆逐隊の突入を援護する! 右舷主砲砲戦はじめ!」

「取ぉーり舵!」

「主砲打ちぃ方はじめ!」

「てっ!!」

 連装三基の主砲を右舷に向けた「あぶくま」は、次々に命中する敵弾よる被害を無視するように敵艦隊への砲撃を続けるが、巡洋艦の限られた防護力では撃破されるのも時間の問題かもしれない・・・

「我々は絶対に諦めない!」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「火星まで後ヒトヨンマル(1万4,000宇宙キロ)! 約8分です!」

『9時方向ECM反応! 距離ハチマル(8,000宇宙キロ)!!』

〈くそっ 間に合わんか・・・〉

「艦載機発進用意!」

 強襲揚陸艦隊を護衛する最後の盾である3隻の駆逐艦を率いる第14駆逐隊司令「いわなみ」艦長は、今回の作戦のために輸送艦の外部ブースターに臨時係留した各1機のコスモタイガーとカーゴへパイロットを乗り込ませる発進準備命令を出したが、一旦戦場で艦載機を発進させてしまえば着艦機構を持たない輸送艦隊に機体を回収する術はない。

 さすがにギリギリまで発艦させる命令を出すのはためらわれるが、突入隊の将兵誰もがガミラス艦隊が追撃に現れた真の意味を分かり過ぎるほど分かっており強襲揚陸艦「みうら」の艦橋も厳しい沈黙に包まれた。

〈護衛隊は全滅か・・・〉

 つい10分ほど前まで艦隊を組んでいた戦友たちの命を盾にした行動に答えるには、例え最後の一人となったとしても火星への突入を成功させるしかない。


「もういい! もう十分だ! 我々を射出してくれ!!」

 メインパネルに拡大されて映し出される第二遊撃艦隊最後の駆逐艦3隻。 正面より接近しつつある敵艦隊を迎撃するといういうより、輸送艦の盾となるように横隊に広がって死地へと向かう味方艦隊を見ることに耐えられなくなった第一連合空間騎兵団団長の佐山一等陸佐は、隣に立つ「みうら」艦長に噛み付くように叫ぶが・・・

「我々は、あんた方を火星に届けるのが仕事だ!
 我々が生きている限り、お客さんには指一本触れさせませんよ」

「しかし、このままじゃ駆逐艦が全滅しちまうぞ!」

「あんた方が命を賭けるのは火星に降りてからだ。
 宇宙では我々が命を賭けるってことになってるんですよ」

「敵艦隊、距離ゴーマル(5,000宇宙キロ)! さらに近付く!」

 決死と必死・・・ 自分自身が生還を期し難い決死の突撃を行っているのに可笑しな話ではあるが、出したら最期、必死となるコスモタイガー出撃を最後の最後まで迷った挙句であろうギリギリのタイミングでの第14駆逐隊司令よりの通信命令が「いわなみ」より伝えられる。

『いわなみカチ(艦長)より各艦、コスモタイガー発進開始』

「みうらカチ了解・・・ コスモタイガー発進」

 復唱を返し航宙統制官に静かに頷きを送る「みうら」艦長の厳しい表情で前方を睨む横顔を、もはや佐山団長も口を挟むどころか瞬きもできずに見詰めていた。


『コスモタイガー発進! コスモタイガー発進!』

「村井二尉。 準備はどうだ?」

 全艦に鳴り響く発進警報にかぶさるように唯一の繋がりである細い通信ケーブルを通して送った航宙統制官からの静かな問い掛けに、まだ発艦もしていないコスモタイガーが、まるで10万光年も離れている彼方の世界にいるように感じるパイロットの達観した返事が返ってくる。

『発進準備完了です! 短い間でしたが、色々とお世話になり有難う御座いました』

「うむ・・・ たのむ・・・」

 また一人、若者が死地へと向かう・・・ 作戦上許容しうる損害と報告書では表されることではあるが、現場で直接命令をやり取りする個人にとっては簡単に割り切れる問題ではなく、命令として送り出す航宙統制官も滲む涙を見せまいとするのが精一杯であった。


 一瞬の間を置いて、ケーブルが切り離される小さく鈍い振動が静まり返った艦橋へも微かに伝わった・・・


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと488日・・・ あと488日−
 

 
 Anecdote 2.3 遥かなる星
The star which becomes far


「うらなみ! 敵巡洋艦に突入自爆!!」

「うらなみより通信!
 宛、輸送隊・・・ すまん!」

「・・・・・・! くそぉ〜〜〜!! あと2,000・・・
 2,000宇宙キロだというのに・・・ 届かんのか!」

 護衛の駆逐艦、航宙機の全て、そして数多(あまた)の戦友を失い輸送艦自体も満身創痍の状態になりながら、諦めることなく火星への突入を続ける第二遊撃艦隊の僅かな生き残り・・・

「敵17! 11時ヒトフタ(1,200宇宙キロ)!!」

「あと1分!! 1分なんだ・・・」

 火星圏内までの僅か1分が永遠の時に感じる刹那、「みうら」艦橋でも生き残っているのは艦長以下僅かに3名・・・ 切迫した状況に言葉を惜しんで報告する正規のレーダー手のほかは、舵を握っている名も知らぬ甲板員のみ・・・


「ちくしょ〜! これじゃ、火星に着くまでに全員死んじまうぞ!!」

「宇宙軍の連中、何やってんだ!!」

 地表へ降りれば怖い物知らずの空間騎兵隊員も、何もできない輸送艦の中で突然飛び込んでくる被弾により次々に戦友たちを失いながら、血と肉片に塗れたパワードスーツ(強化戦闘服)に身を固めた身体を縮めて床に伏せていることしかできない。

「お前達! 何をしている! 空間騎兵隊の名が泣くぞ!!
 空間騎兵隊は常に全軍の最先端に立つ!
 何のために強化服を着ているんだ! 立て! 立って戦友の盾になれ!!」

 艦内の応急補修を補佐する応急修理分隊に指定されていた清水の直接指揮する分隊は、それぞれに硝煙と血に塗れたパワードスーツを危険にさらして奮闘していたが、兵員室でただ縮こまっているだけの兵士に耐えられず叫んだ。

「あれを見ろ! 宇宙軍は我々のために命を張っているんだ!!」

 舷側の小さな監視口から一瞬入った微かな光、「うらなみ」の最後を告げる光を指差した清水二尉は、今や正確な意味は伝わっていないが、機甲歩兵降下突入隊員の誇りとして伝統となっている北海道を形どったシルエットの上で角を振り上げる雄牛をデザインした左肩のマークを煌かせ、血に塗れ硝煙に煤けたパワードスーツの全身を大きく広げ自ら「みうら」乗組員の盾となる。

「・・・うっ!!」

「第一小隊立て!」

「第三小隊整列!!」

 兵員室で震えていた兵士達は、目の色が変った士官達の命令と気合の入った下士官の号令を受けながら場違いな戦闘へと参加していった。

「・・・誘爆の恐れがある、武器は全て下ろせ!
 急げ! モタモタするな!!」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「火星まで、あとハチ(800宇宙キロ)!」

『補助ブースト機関停止! 加速止まります!』

 ブースターを起動したときから分かっていたことだ。
 全力噴射が続くのは5分、永遠に感じる300秒・・・
 しかし、しかし火星には届かない・・・

 人類の誰もが望んでも遥かに遠いと諦めていた火星まで、あと800宇宙キロ・・・
 僅か24万キロの距離にまで4,000人の命を踏み台に、4,000人の流した血を燃料にしてやってきたのだ。

 ここで立ち止まるわけには断じていかない!

「ブースト切り離せ!」

「しかし、カーゴが・・・!!」

 外部機関のエネルギーが切れた「みうら」では、もはや重荷となったブースターの切り離しが命じられるが、ブースト機関には今だ発進していないパイロットの乗った一機のカーゴが残されている。

「命令だ! 切り離せ!」

「くっ! 外部ドック爆破ボルト作動!」

 この距離からカーゴを発進させたとしても一機の護衛航宙機もない現状では敵防宙網を突破できるわけもなく、空間騎兵隊降下要員を乗せないままパイロット二人だけのカーゴは囮として発進される。

 絶対の目的は、あらゆる手段を正当化するのだ・・・

「カーゴ発進!」

『サンダーバードマルフタ(02)発進します!』

 爆発ボルトによって外部機関が切り離される直前に発進されたカーゴは、あえて重量物を積んでいるように低速で機動するが、もちろん良い的であり数秒で撃破される。

「・・・・・ !」
 


「正面マルサン(30宇宙キロ)に敵巡洋艦!!」

「くそっ! ダメか?!」

 艦橋の拡大モニタースクリーンをはみ出し、敵艦の艦橋にいる兵士までが見えるほどに異常な接近をした敵艦。 「みうら」艦長は、その真っ直ぐ正面から覗く敵の砲口に観念したが・・・

「上方40度より異常反応近付く! 速い!!」

 衛星フォボスの影から艦橋の誰もが驚く間もなく突然視界に現れた光の玉は、「みうら」の目前に迫っていた強力な巡洋型クルーザーへ敵艦の死角となる真上から猛烈な速度で衝突した。

「味方の駆逐艦だぞ・・・」

「M-21881式・・・ DDS-117、ゆきかぜです!」

 例え同型艦といえども僅かに残る異差により異なる光電磁波輻射パターンを記録した輻射紋は、今作戦で第一遊撃艦隊に所属してる突撃駆逐艦「ゆきかぜ」を示しているが、今はその理由を考えていても仕方がない。

 40宇宙ノットへ迫る猛烈な速度で減速することなく衝突する680トンの金属物体と化した「ゆきかぜ」は、膨大な運動エネルギーにより敵の巡洋艦船体に金属紛体となってめり込みながら視界の果て、さらにはレーダー範囲外へと一瞬で消えていった・・・


『全艦揚陸態勢! 全艦揚陸態勢! 総員衝撃に備えよ!』

 正面へ迫っていた敵艦が突然消えた「みうら」では、この天佑に揚陸可能ギリギリの距離にも迷うことなく全発射管を使っての強襲揚陸を開始するととともに、直接接地揚陸に備えて電路が生きている艦内には激しい衝撃準備警報が鳴り響いていた。


「野郎ども、聞け!!
 我々は、防衛軍そして地球人類の悲願、ここ火星へ来た!
 4,000人と16億人の命を背負っているってことを忘れるな!!」

「レンジャー!!」

 騎兵団長の前に漆黒の無反射塗装を施したパワードスーツを整列された男達は、佐山一佐の渾身の激に血を吐くような絶叫で答える。

 もちろん無数の敵の待ち受けるであろう地獄へとカプセル降下する空間騎兵隊突入隊員も、輸送艦もろとも限界速度で火星地表へ突入を続ける宇宙軍将兵も、僅か200名に満たない生き残った兵士で戦況を覆せるなどとは考えてもいない・・・

 しかし、この作戦には地球人類の最後の意地と一つまみの可能性が掛かっているのだ。
 そして、その可能性を作るために命を落とした4,000人の名も知られぬ英雄たちの願いも・・・

「降下! 降下! モタモタするな!!
 空間騎兵隊の根性を見せろ!!
 弾薬とエネルギーの続く限り戦え!
 敵を一匹残らず皆殺しにするんだ!!」

「レンジャー!!」

 目前で宇宙軍将兵の命懸けの行動を見せられ続けていた空間騎兵隊の男達は、もはや彼らの流した神聖な血に相応しい数の敵兵を道連れにすることしか考えていない鬼神と化していた。

 普段はバカ話や酒と女に明け暮れる男達は、火星の名の由来となった軍神ですら恐れる表情に変った顔をパワードスーツのヘルメットと対放射線遮光バイザーに隠し次々に火星表面へと降下していった。


「距離フタ(200宇宙キロ)! 全艦突入態勢!」

「総員接地揚陸戦用意!!」

『衝突警報! 衝突警報! 地表まで10秒、総員衝撃防御態勢を取れ!』


 火星から放たれていた僅かな最後の電波が途絶えたのは、それから23分後のことであった・・・


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと487日・・・ あと487日−
 

 
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