「ヤマトか・・・」
帝国主義時代末期、最後の植民地を巡って列強諸国と対立した新興有色人帝国。
敗色濃い西暦1945年4月7日、艦隊特攻として失われた悲劇の戦艦・・・
ついに自らの祖国と国民を救うことの出来なかった史上最強の戦艦・・・
3,000名を超える英霊とともに戦火の中で沈んだ人類最後の水上戦艦・・・
〈地球人類最後の種の保存を託すフネに、この名が相応しいのか?〉
厳しいという言葉では簡単に表せないほどの絶望的状況に陥ってる現状に、設計においても様々な制約を課せられた困難な長時間の設計作業に疲れた大山は、コンピューターモニターの光だけに照らし出された静まり返った部屋で下らない考えを弄んでいた。
〈他に名の付けようもないか・・・〉
地下都市の奥底へも刻々と浸透を続ける放射能汚染による待ったの効かない時間的制約もあり、今回の計画は設計企画と僅かに時をずらすようにして建造ドックとなる地盤の整備作業と実際のフネの建造準備等が同時平行して行われており、全ての計画・設計・開発・調達・土木・建設・建造・艤装・整備が延滞ややり直しなど一切許されない信じられないほどタイトなスケジュールに組まれた困難なものであった。
20世紀末に企画された計画に続いて、21世紀に実際に行われた引き揚げ作業が資金難によって中断されたまま放棄されていた250年前の水上戦艦を人類の未来を掛けた恒星間移民宇宙船へと改造する。
普通の状態で聞かされれば今時の小学生でも笑い出しそうな荒唐無稽な漫画のような計画・・・
「戦艦大和・・・」
* * * * * * * * * * * *
「あんな鉄屑の塊を改造してどうしようと言うんだ?!」
「なに、実に単純な話だ・・・」
「現在の防衛軍には月面のオニヅカ工廠を除けば4万トン級以上のフネを建造可能な造船所はない。
よって、造船ドックから作らなきゃならないが、時間的に地下深くに作っていたのでは間に合わない・・・
しかし、地表近くに作ったところで直ぐにガミラスに発見されてしまうだろう 」
文字通り不眠不休で進められるフネの設計作業とともに、実際の造船に先立つ建造ドックの建設作業が急ピッチで行われている九州沖地下の方舟計画実施本部では、大山を中心とした少数の幹部メンバーが次々ともたらされる難題と調整、それにともなう不眠不休の果てしなく続く論議を行っていた。
「何しろ、我々には絶望的に時間がないのだ」
「そうは言っても、あんな物を如何しろというんだ・・・」
計画実施本部の壁面に大きく設置されているモニターに表示された方舟・・・
茶色い砂に半ば埋もれるように見え隠れする朽ち果てた巨大な戦艦の残骸・・・
本来は大きく三つに分かれて折り重なるように原形を留めないほどに破壊されて沈んでいた船体を、過去に行われた引き上げ準備として艦首部に続けて引き起こして並べられた艦中央の艦橋部が、乾き果てた海底からやや右斜めにそそり立つように放射線に溢れた地表へ露出していた。
「しかし改造といっても、実際にはカモフラージュに使う外側の錆びて朽ち果てた薄皮一枚を残して艦底部の地下空洞に設けられた建造ドックからアプローチしてくり貫くように新たな船体を建造する、それは今までに全く経験のない困難な作業となるだろう・・・」
「3,000柱に達する英霊達の弔いも十分に行う必要があるな・・・」
「ああ・・・ 二重の意味でな・・・」
方舟建造の時間を得るためにガミラス火星基地へ全力攻撃を掛ける最後の地球艦隊・・・
そして、方舟の発進を欺瞞、援護するために囮として出撃する残余の損傷した艦艇・・・
数千人の名を知られることもない英雄達の屍を乗り越えて未来へと発進するのだ。
〈16億人を見捨てて得られる血塗られた未来への微かな希望・・・〉
もしも、それを希望と呼ぶことが許されるならば・・・
「ん? どうした?!」
『0-3番試験立抗で小規模な崩落発生! 現在状況確認中!』
方舟建造に先立つ「建造準備および発進準備工事」による予備地質調査が続けられている坊ノ岬沖の岩盤部では、民間企業の前田建設株式会社を中心とした数社の共同企業体が前例のない困難な作業を行っていたが、失敗を許されない命懸けの作戦なのは防衛軍も民間企業も全く違いがないのだった。
この地球人類の命運を掛けた後のない緊急プロジェクトは、大小問わず全ての民間土木建設企業を動員して休むことなく続けられている地下都市の伸深度掘削作業と同時平行して、絶望的に不足する残り少ない人員を奪い合うようにやり繰りして24時間体制の突貫作業で進められていた。
今はただ、出来ることを全力で行うだけだ・・・
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