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Space Battleship YAMATO Anecdote 1
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Space Battleship ヤマト 2199

第一機動艦隊
 Anecdote 1.0 予告・・・
The first movement fleet


 2170年代初頭の初接触以来、人類にとって初めての地球外高等生命体との遭遇となるとともに、その悪意あるファーストコンタクトならぬワーストコンタクトにより初の異星間戦争へと発展したガミラス戦役において事実上地球防衛軍最後の大規模な組織的戦闘となった第三次火星域会戦。
 圧倒的な戦力差から絶滅の渕へと追い詰められた地球人類が、その生存への僅かな可能性を賭けて残された宇宙機動戦力の全てを投入した決戦に参加した唯一の宙母戦力である第一機動艦隊。

 艦隊主力となる地球防衛軍初の正規航宙母艦として建造された「ひりゅう」「そうりゅう」は、22世紀末当時最大の戦闘艦であった「グローイ」級宇宙戦艦をベースに船体を35メートル延長するとともに、砲戦能力を大幅に減らした容積余裕を航宙機格納庫拡張に使用した常用搭載機24機と予備機3機を運用可能な実質的には3万トン級の実験艦的要素の強い中型戦闘宙母であり、今だ練成途上ではあったが最後の決戦に向けて土方竜提督を司令長官として月面基地を出撃した。

 ガミラスの一隻で80〜200機以上を軽く搭載する6万トン級の高速強襲揚陸母艦や10万トン級の超大型多段式航宙母艦と比べると小規模ではあるが、艦隊に2隻配備された最上型航宙機搭載巡洋艦の艦載機を含めた艦隊全体として60機以上を運用可能な第一機動艦隊は、これまでガミラスの航宙機に悩まされ続けてきた地球防衛軍にとり正に唯一とも言える希望の星であった。

 しかし、地球人類最後の決戦となる今回のガミラス火星基地攻略(MF)作戦で地球防衛軍司令部より第一機動艦隊に与えられた任務は、砲戦部隊である遊撃艦隊をガミラス火星基地へ突入させるために敵航宙戦力を引き付ける囮という悲壮なものであった・・・

 臨時編制された第二遊撃艦隊護衛戦力のために遊星爆弾迎撃任務より引き抜かれた駆逐艦8隻の替わりに航宙機戦力の半数を月面基地に残した第一機動艦隊は、艦隊直援となる32機の航宙機のみで1,000機を超えるとも考えられている圧倒的航宙戦力を擁する強大なガミラス艦隊主力を相手に作戦期間を生き残り任務を完遂することができるのか?


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと492日・・・ あと492日−
 
 Anecdote 1.1 航宙撃滅戦
The first aircraft carrier mobile fleet


「はぁ・・・ はぁ・・・ はぁ・・・」

〈生きて還る・・・ 俺は、生きて還る・・・ 必ず・・・〉

 暗黒と無音の宇宙空間をただ漂い続ける宇宙の果てしない広さから見ればチリにすら見えない直径1メートルほどの頼りない球体・・・ 神のように広い視野から見下ろすことが出来れば、原形を留めないほどにひしゃげ、焼け焦げ、無残に溶けた大小無数の金属残骸に混じって、アステロイドベルト帯の小惑星のように不規則に漂う同じような物体を数百個見付けることができるかも知れない。
 しかし、それは自然の物体では無くケプラー繊維・耐熱合成シリカ樹脂・表面硬化高熱伝導ハニカム複層アルミ合金箔の複合体であり、僅かな光を反射して煌く様は明らかに人工的なものであった。

 命を繋ぐ僅かな綱である小型の呼気循環再生式超高圧縮酸素ボンベを腹に抱き込み膝を抱えるような姿勢で丸まった地球防衛宇宙軍三等宙佐である島大介は、人間の生存が辛うじて可能な最低限の与圧が成された66式乙型艦艇格納用個人軟式空間非常救命脱出ポットで、代謝を抑えるために酸素に加えられている催眠物質により朦朧とする意識の中で、絶望的な孤独感と刻々と心の中で大きくなっていく恐怖心と永遠に感じる時間を戦っていた。

〈次郎・・・ 待ってろ・・・ 俺は・・・ 絶対に死なない・・・ いや・・・ 絶対に死ねない・・・〉

 完全な暗黒と無音の世界・・・
 狭い生存空間にマスクの中でくぐもる自身の呼吸音と、遅く脈打つ心臓の鼓動が驚くほど大きく響く。
 外界から閉ざされた瞳に映るのは漆黒の闇の中で微かに見える酸素残量を示す僅かな鈍い光・・・
 自らの命の残りを示すその表示は自己発光する半透明パネルの中央ほどを示している。
 その残量が無くなれば自動的に薬剤が出され苦痛の無い最期を迎えることになるのだ。

〈残り・・・ 4時間・・・〉

 自身が現在存在していることさえ疑ってしまう外界からの全ての情報が完全に途絶えた状況、常人ならば数十分ほどで精神を病む極限の環境で只ひたすら耐え続けてきた島は、自身の生命の残りを機械的に刻み続ける酸素残量計をただ見続けながら絶望的ともいえる救出を信じて耐え難い精神的苦痛を耐え続ける。
 頼みは僅かな出力で30秒置きに放たれる救命ビーコンのみ・・・

 第一機動艦隊で最後まで旗艦「ひりゅう」を守り続け撃破された航宙機搭載巡洋艦「ちくま」から最後の脱出組として離艦した島は、艦隊全滅 ― 文字通り一隻残らずの全艦喪失 ― により救出の見込みは絶望的だということを考えないように数時間前の戦闘を思い出していた。
 


「航海! 全速! 旗艦と敵機の間にフネを入れろ!」

「ようそろー 両舷全速! 上げ舵5度!」

『機関全速! 黒一杯!』

 艦長の命令に復唱を返した島航海長は、確実に巡洋艦「ちくま」を地獄へ向かわせることになる躁艦をためらうことなく行い、フネを艦隊で只一隻残っている航宙母艦「ひりゅう」の右舷前方へ占位させていくが、艦橋内に異論を差し挟むものは誰一人いない。

 全ての将兵が睡眠学習により深層意識深くにまで叩き込まれた今回の作戦目的を熟知しており、第一機動艦隊が囮の任務を果たし続けるためには他の全てのフネを失おうとも「ひりゅう」が戦力を保持しているように敵に見せ続ける必要があるのだ。
 もちろん、フネを失うことには自らを含めた乗員の命を失うことも含まれているが、全将兵は全てを覚悟の上で今回の決死を超える必死ともいえる特攻作戦に志願している。

「敵第二波高速にて近付く! 戦爆計、数ヒトヒャーク(100機)! 距離ゴーゴー(5,500宇宙キロ)!」

「直援航宙隊、外郭防宙圏C11区にて敵編隊と交戦状態に入った!」

「通信! 1AF(第一遊撃艦隊)、2AF(第二遊撃艦隊)、及びTDC(地球司令本部)へ最大出力で発信。
 本文。 敵航宙機多数の大規模な襲撃を受けつつあり。 ワレ可能な限りこれに耐久せんとす」

 数十分前、地球防衛軍宇宙艦隊として初めての機動部隊よりの敵艦隊に対する航宙攻撃となる対艦爆装されたコスモタイガー24機の攻撃隊を2隻の航宙母艦より発艦させたが、圧倒的多数の敵防宙隊の迎撃により敵艦隊へたどり着く前にほとんどの戦力を喪失したようであり、今度は第一機動艦隊が敵航宙機の攻撃を受ける番となる。

 もちろん、少数の航宙機による攻撃で強力な敵艦隊に大きな損害を与えられるとは地球防衛軍でも考えておらず、この攻撃は敵艦隊主力の攻撃力を第一機動艦隊へ向けさせるための作戦に過ぎない。
 問題は、2隻の航宙機搭載巡洋艦に残された合計僅か8機の直援航宙隊だけで、艦隊全体で1,000機を超えると考えられている敵航宙機隊の攻撃にどのくらい耐え続けることができるのか?


『アルファ02、03、戦術リンク喪失』

『ブラボー03、戦術リンク喪失』

『ブラボー01、04、機能停止』

 CICから入る航宙副統制官が冷静に読み上げる味方航宙機の損害に被さるように、戦闘艦橋にレーダー員の緊張を隠せない鋭い報告が響き渡る。

「外郭防宙圏を突破した敵航宙機数ハチジュウ(80機)! 外周護衛艦まで距離フタキュー(2,900宇宙キロ)!」

「全艦対宙戦闘はじめ! 全兵器使用自由!」

「せんとー!!」

 早くも敵航宙機と接触した艦隊外周を固める駆逐艦が全兵装を使い全力戦闘に入るが、数機の敵機と引き換えに味方艦もミサイルを受け次々に戦闘力を喪失していく。
 しかし、大破し航行能力や生命維持機能までをも失いながら残った僅かな対宙兵器を使って戦闘を続けることにより更なるミサイル攻撃を受けて一隻、また一隻と撃破、撃沈されていく・・・

 今回の地球防衛軍最後の作戦における任務を分かり過ぎるほど分かっている各護衛艦は、直接戦闘により敵機の戦闘能力を奪うことはもちろんだが、最後は自艦に一発でも多く敵ミサイルを受けることにより主力の航宙母艦に向かうミサイルを減らそうとしているのだ。

〈すまん・・・ いずれ地獄で・・・〉

 それまで想定の展開に無言で旗艦「ひりゅう」の艦長席に着いていた土方竜提督は、レーダー画面の中で次々に撃破されていく指揮下のフネと自らが教頭、校長をしていたときの宇宙戦士訓練校卒業生も多数含まれる乗組員に一瞬瞑目すると副長に頷き、航海長の熟練した躁艦により無理な設計で躁艦特性のよくない飛龍型航宙母艦を徐々に右舷側へ変針させるとともに、装備されているグローイ級戦艦設計の名残である一基の三連装14インチ口径フェザー砲を左舷側へ向ける。

「旗艦より変針信号!」

「面ぉー舵ぃ!」

「機関、全速ぉーく!」

「左舷対宙砲戦用意!」

 事前の作戦通りに巡洋艦の全砲門を有効射界へ収めるとともに、敵宙母機動部隊を遊撃艦隊から引き離すために針路を右へ振った第一機動艦隊主力は、全ての長距離砲を左舷へ向けると敵編隊が巡洋艦の有効射程内に入ってくるのを待ち受ける。

「敵上下機動が鋭い、気を付けろ!」

「旗艦主砲発砲!」

「撃ちぃ方はじめ!」

「主砲斉発第二射法、撃ちぃ方はじめ!」

 島の躁艦する航宙機搭載巡洋艦「ちくま」も同型艦の「とね」とともに直援する旗艦の射撃開始に合せて、戦闘班長の最大射程よりの砲撃開始命令で8インチ連装三基の主砲からフェザービームの鋭い光が遥か前方の闇を切り裂いていく。

 航続時間・継戦時間ともに短く突撃艦とも呼ばれる機動性を重視した小型軽量の(艦隊随伴誘導弾搭載護衛艦)磯風型突撃宇宙駆逐艦の航洋性を支える嚮導艦役をも務める事になる軽巡洋艦と違い、M-21791式最上型航宙機搭載巡洋艦は補給用燃料や弾薬の代わりに航宙機4機を艦内に搭載した重巡洋艦とも考えられる1万トンを超える汎用性の高い大型戦闘艦であり、地球防衛軍では圧倒的少数の戦艦を補う準主力艦として運用されてきた。

「敵機来るぞ!!」

「打ち落とせ! ひりゅうを守るんだ!」

 旗艦「ひりゅう」の前方左右を守る二隻の最上型巡洋艦は、持てる火力を最大に発揮するために敵編隊に対して大きく側面をさらしながら全力で対宙射撃を続けるが、対宙攻撃力の発揮と引き換えに被弾率を上げることなり少なからず敵ミサイルを受けていく。

「艦尾左舷に命中弾! 姿勢制御ノズル破損!」

「姿勢制御プログラム自動変更! 躁艦復旧!」

 島航海長の巧みな躁艦により致命的な被弾だけは避けているが、打ち続く被弾により艦内にも被害が広がっており、戦闘と同時に不足する乗組員による必死の復旧作業も続いているが、徐々に「ちくま」の戦力が低下していくことを誰にも止めることができない。

「とね艦橋に被弾!! 通信途絶! 戦列を離れる!」

「んっ! とねを援護しろ!」

「取ぉーり舵一杯!」

 艦隊護衛の最大戦力の一角を占めていた「とね」の被弾脱落により、「ひりゅう」の護衛はもちろん「とね」の脱出援護も加わり第一機動艦隊は早くも危機的な状況へ陥っていく。

「これじゃ、いくらも持たない・・・」


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと491日・・・ あと491日−
 

 
 Anecdote 1.2 第二次航宙攻撃
The second wave is space attacked


「被害集計を急げ!」

「敵の第三波は直ぐに来るぞ! 現有戦力の確認を急ぐんだ!」

『船体応急急げ〜!』

 ガミラスの第二波航宙攻撃隊が引き上げ始めた僅かな時間を使って、艦隊の被害と現有戦力の確認作業を始める第一機動艦隊旗艦である航宙母艦「ひりゅう」の戦闘艦橋には、戦闘班長の先ほどまでの激しい戦闘の緊張を引きずった鋭い命令が響き渡る。

 ガミラス航宙機隊の二波に渡る攻撃による第一機動艦隊の被害は甚大なものであり艦内にも暗いムードが広がっているが、戦闘班長は努めて快活に指示を下し士気の低下を食い止めることに全力を尽くす。

〈まだまだ、始まりに過ぎない・・・ 我々は全滅するまで戦わなくてはならないんだ・・・〉

「護衛駆逐隊、沈没4、大破1。 戦闘可能9隻」

「そうりゅうの生存者は、はやかぜに救助されました」

「とね、指揮機能喪失なれど、ちくまとデーターリンクにより戦闘継続可能」

「本艦、船体被害軽微!」

 次々に旗艦艦橋へもたらされる報告により艦隊の現有戦力が明らかになっていくが、激しい攻撃にさらされた割には60%以上の戦力が残っており艦隊の絶望的ムードは若干和らいでいく。

「艦隊航宙機7機・・・ いや、8機行けます!!」

「8機か・・・」

「可動全機で第二次攻撃隊を編制せよ」

 第一次攻撃隊の生き残りを中心に整備班の懸命の修理作業により先程の戦闘時と同程度の防宙戦力を期待できる報告に艦内には明らかに安堵の空気が流れたが、土方司令長官の冷酷に告げられた命令に艦内が一瞬で凍りつく。

「ち・・・ 長官!?」

「間違えるな! 我々が守らねばならんのは地球なのだ」

「しかし、僅か8機の攻撃隊では死にに行くようなものです! それより艦隊の防衛を優先すべきです」

 艦隊航宙機隊の全般指揮を取っている航宙統制官が戦力の有効利用という点で当然の反対意見を発するが、土方司令の意を汲んだ戦闘班長が厳しい口調で反論する。

「俺たちの後に誰が居るのか考えろ!! 16億人の一般市民が居るんだ!
 何としても遊撃艦隊を火星へ届けねばならん! 何としてもだ!!」

 戦力の維持と有効利用を骨の髄から叩き込まれている士官達には、囮として全滅するまで戦うという今回の作戦のことが頭では分かっていても長年染み付いた反応を消すことは中々難しい。
 その士官達の意識を変えるために戦闘班長はあえて過激な言葉を浴びせ掛ける。

「地球の人々を、家族の顔を思い浮かべろ! 皆、俺たちを信じているんだ!!」
 


「第二次攻撃隊の第一目標、宙母! 第二目標、宙母! 第三目標、宙母!!」

 第二次航宙攻撃へ出撃するパイロット達を前にモニターを通して戦闘班長が悲痛な命令を発する。

 多くの戦友たちを失った第一次航宙攻撃の地獄から奇跡的に生きて還ったパイロット達は、二度目の地獄へ舞い戻るために今やガランとした広い航宙機搭乗員準備室の一角へ集まるように揃っていた。
 軽症どころかかなりの傷を負っていると思われる者も見受けられるが、愛機が航宙可能な全てのパイロットが今回の生還の見込みが全くないといってよい作戦に志願していたのだ。

「死ねとは言わん!!
 出来うることなら、石に噛り付いてでも全員生きて還って欲しい・・・
 しかし、何としても! 何があっても敵宙母に損害を与えろ!
 地球で待っている家族のために・・・ 全人類の未来のために!!」

 戦闘班長の訓示に続いて、モニター越しに胸に拳を当てる宇宙艦隊式の敬礼を交し合った8人のパイロット達は、感傷に浸る間もなく一斉に整備員の待ち受けるそれぞれの愛機へと走っていった。

『コスモタイガー隊、全機発進用意!!』

「全機発進用意よろし!」

「艦載機発進口、進路クリヤー!」

 この二日間、戦闘班員達が休息している間も休むことなく働き続けていた整備員達は、その疲れを感じさせない気迫溢れる行動と態度で死戦へと向かうパイロットたちの乗り組みと発進準備を手伝うと、それぞれ共に激戦を戦ってきた戦友たちに心のこもった声を掛け続ける。

「御武運をお祈りします!」

「生きて還ってください!」

「ああ・・・ ありがとう。 任せておけ!」

〈くっ・・・ なぜだ? 手の震えが止まらない・・・〉

 発進準備の整った機は、最後にキャノピーの閉鎖と気密の確認を行った整備員達と短い敬礼を交し合うと次々に艦載機発進口へと続く電磁誘導路へ運ばれていき、発艦士官の指示によりカタパルトで加速されたF-96コスモタイガーは強大な敵艦隊と無数の敵航宙機の待ち受ける宇宙空間へと発進していく。

〈さらば・・・〉

 改めて宇宙空間より艦隊と戦友へ決別の敬礼を送ったパイロット達は、生死を共にする僚機と編隊を組むと艦隊左舷方向の敵艦隊の待つ空間へと帰還燃料を考えない全力加速で向かっていく。


「レーダーに反応!! 8時方向に敵第三波確認!」

「航宙機、数ヒトヒャクサンジュー(130機)! 距離ヨンヒト(4,100宇宙キロ)!」

 コスモタイガー隊の発進と前後するようにしてガミラスの第三波攻撃隊をレーダーで発見した第一機動艦隊は、艦隊で唯一残っている航宙母艦「ひりゅう」を中心とした12隻の防宙陣形を引き締めると再度の戦闘準備に入っていく。

「全艦対宙戦闘!」

「たいちゅぅー せんとぉー!」

「引き寄せるな! 遠距離で迎撃せよ!」

 もはや一機の防宙援護機もない第一機動艦隊は、味方機に気を使うことなく遠距離での迎撃戦闘を行うことで艦隊の被害を少しでも少なくしようとしているが、レーダー画面を埋めるほどの多数の敵機に迎撃が追いつかない。

「対宙長距離誘導弾、目標1から8番へ二重発射!」

「中距離クラスター誘導弾、目標10から30番を照準!」

「サルボー!!」

「各艦、長距離誘導弾発射開始した」

『各誘導弾、正常飛翔中・・・』

 データーリンクにより脅威度順に艦隊共通のナンバーの振られたレーダー反応には自動的に脅威度の高い順に長距離誘導弾が割り振られ発射されていくが、それぞれに二発ずつ発射しているにもかかわらず敵機の鋭い回避機動により思ったように迎撃率が上がらない。

「主砲対宙攻撃はじめ!」

「主砲斉発第二射法、撃ちぃ方はじめ!」

「主砲撃ちぃ方用〜意・・・ てっ!」

 長距離誘導弾に続いて射程に入った中距離誘導弾と主砲による迎撃が始まり各艦全力砲撃を行うが、損害により一回り小さくなった艦隊の迎撃力には限界があり飽和攻撃を続けるガミラス編隊が見る間に艦隊へ迫る。

「ガミラス編隊、数ヒトヒャーク(100機)! 距離ハチ(800宇宙キロ)! 四方に散開した!」

「各艦、高角砲対宙攻撃はじめ!」

「近づけるな! 撃て! 撃て!」

〈何としても、後1時間・・・ いや45分、敵の攻撃を引き付けるんだ〉

 旗艦「ひりゅう」の艦長席で戦況を見詰め続ける土方司令長官は、次々に敵弾を受け、傷付き沈んでいく配下の艦と乗組員に一瞬心を向けるが、再び司令としての冷酷な判断へ戻っていく・・・


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと490日・・・ あと490日−
 

 
 Anecdote 1.3 僅かな希望
Fleet that is little hope


『機関運転室の火災収まりません!』

「本艦推進力全喪失! 躁艦不能です!」

 ガミラス航宙機の第四波攻撃により直撃弾3発を連続して喰らった航宙母艦「ひりゅう」は、全艦が炎に包まれ沈黙し、いよいよ最期の時を迎えようとしていた。

 これまで護衛艦による身を挺しての守りにより被害の少なかった旗艦ではあったが、味方護衛艦が僅か3隻となったことにより、もはや艦隊としての防護力を発揮することが不可能となっていたのだ。

「敵艦隊反応捕らえた! 左舷より急速に近付く! 距離ゴーマル(5,000宇宙キロ)!」

「長官・・・?」

 戦力の激減した第一機動艦隊に止めを刺すべく接近してきたガミラス艦隊に、艦隊唯一の航宙母艦となっていた「ひりゅう」の大破航行不能により囮作戦の継続が不可能となった現状では、最早これ以上の戦闘継続は無意味であるとして艦隊副官を兼任する先任士官の戦闘班長が土方提督の決断を促す。

「うむ・・・ 作戦中止! 総員最上甲板へ」

「ゆうぎり、はやかぜに連絡。 本艦脱出者を救助せよ」

「ちくま艦長へ連絡。 ワレに代わりて艦隊指揮をとれ」

『ちくまカチ(艦長)了解! 本艦は旗艦脱出の援護を行う。
 ゆうぎり、はやかぜは脱出者救助後、速やかに戦闘宙域を離脱せよ』

 乗艦の大破航行不能により指揮継続が不可能となった土方提督は、最後に作戦の中止を命令するとともに「ちくま」艦長へ指揮権を委譲すると、それまでの長く続いた厳しい緊張の糸が途切れたように、文字通り糸が切れた人形のように激しい点滅を繰り返す緊急警告の表示に埋まった艦長席に力なく座り込んだ。

『総員離艦! 総員離艦! 各員最寄の救命ポット所へ急げ!』

「では長官、我々も脱出を・・・」

「私に生き恥をさらせというのか?」

 自ら育てた幾百の宇宙戦士たちを自らの命令により死地へと向かわせた土方には、今回の作戦の成否に関わらず自分だけが生き残るなどということは全く考えになく、ただ計器の光も消え機能を失った艦長席から煤けて瞳だけがギラついて見える顔を静かに戦闘班長へ向けた。

「ガ軍との戦闘はまだ続きます。 長官には最後まで戦って頂かなくてはなりません」

「・・・・・・」

 激しい炎と煙に包まれた旗艦艦橋では、最後の脱出者となった戦闘班長の肩を借りた土方提督が一瞬艦橋を振り返り、初の実戦で沈もうとしている地球初の正規宙母M-21981式飛龍型航宙母艦BCS-101「ひりゅう」を目に焼き付けるように一回り見回したが、戦闘班長に促されて静かに煙の中へ消えていった。

〈エンタープライズが沈む・・・〉

 元々「ひりゅう」「そうりゅう」は、アメリカにおける改グローイ級金剛型戦艦の1番艦、2番艦として計画が開始されたものであったが、ガミラスの航宙機に対抗するために途中から設計が変更され、1番艦の宇宙戦艦「ロナルド・レーガン」は航宙母艦「エンタープライズ」として完成されるはずであった。
 しかし、遊星爆弾の度重なる被爆により極度に疲弊したアメリカの本土決戦重視政策からの月面基地放棄に伴い、替わりに戦力の残っている宇宙防衛軍による水際迎撃政策をとる日本を中心とする極東軍管区が最終的に艤装を行い「ひりゅう」として完成させた数奇な運命のフネであった・・・
 


「島! 針路反転! 右砲雷戦用意!」

「ようそろー! 180度コースターン! 取舵一杯!」

「全艦! 右舷対艦戦闘!」

「せんとー!!」

 左回頭により「ひりゅう」「ゆうぎり」「はやかぜ」と只一隻分かれた航宙機搭載巡洋艦「ちくま」は、僅かに残った一基の連装主砲を右舷方向へ向けると、離脱する味方の盾となるべく戦艦を含む強大なガミラス艦隊の前に立ち塞がった。

「有効射程に入り次第、長距離対艦誘導弾全弾発射開始せよ」

「対艦長距離誘導弾、目標1から12番へ自動発射設定よろし!」

「敵艦隊。 宇宙戦艦4、重巡洋艦8、護衛艦15!」

「距離サンヨン(3,400宇宙キロ)! 長距離誘導弾有効射程に入る!」

 最も小型のデストロイヤー級駆逐艦でさえ地球艦隊の準主力艦といってよい大型巡洋艦「ちくま」と同等程度の戦闘能力といわれる強力なガミラス艦隊に対して只一隻で何分・・・ いや、何秒時間を稼げるのか? しかし、例え僅かな時間だとしても戦友を救うため何としても「ゆうぎり」と「はやかぜ」の撤退を援護しなくてはならない・・・

 恐怖、不安、諦め、使命感・・・ 人間の感情など感じることもなく設定されたプログラムに従い自動的に発射を開始した長距離誘導弾により艦隊戦の戦端が開かれたが、ほぼ同時に敵艦隊からも戦艦による遠距離主砲攻撃が開始され、「ちくま」の周囲を次々に強力なビームが至近弾となって掠める。
 戦艦主砲の直撃をまともに受ければ巡洋艦など一撃で大破してしまうだろう・・・

「島! 回避自由!」

「ようそろー! くそぉ〜 ミサイル到達まで当たるなよ」

 長距離誘導弾を全弾発射し終えたことにより躁艦の自由を得た島航海長は、ランダムに針路と速度を変更しながら敵弾の回避を行うが、次第に敵の砲撃が正確になってきているような恐怖感に流れ出た汗が目に入る。

「誘導弾着弾まで後5秒・・・・・・3・・・2・・・1・・・じかぁ〜ん!」


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


『機関停止!! 全動力喪失!』

「生命維持機能作動不能! 総員船外服着用!」

「はやかぜ撃沈されました!」

 強大な敵艦隊と只一隻で戦っていた「ちくま」は、何とか敵大口径主砲の直撃だけは避けて戦闘を続けてきたが、全誘導弾を射耗し接近してきた敵の小口径砲を無数に受け次々に戦友を失う地獄となった艦内では、艦医や衛生員たちも全員倒れたことにより重症となった負傷者も医務室前の通路に寝かされているだけであり、無数の遺体や遺体だった物が散乱する凄惨な状況の中で戦闘可能な者も僅かとなっていた。


『亀裂を塞げ! 空気の流失を止めるんだ!!』

『すまん・・・』

 想定を超える多数の被弾により補修資材の枯欠した乗組員たちが、船腹に開いた亀裂を塞ぐために涙を呑んで戦友の遺体を押し入れるほどの極限状況へと陥っていた艦内では、全身血で塗りこめたようなハードスーツ(船外服)を着た生き残りの男達が、慣性制御による人口重力の消失した無重力の中で一面に漂う血滴を浴びながら最後まで戦っていた。

「島! 姿勢制御バーニアで位置を変えられんか?!
 何としてもゆうぎりへの敵砲撃線を遮断しろ!」

『?! ようそろー 左舷前部バーニア非常全力噴射!』

 全武装、動力機関ともに破壊され完全に戦闘能力を失った「ちくま」は、ハードスーツ着用の時間もなく緊急非常用の酸素マスクだけを付けた艦長の命令により戦闘宙域より脱出しつつある「ゆうぎり」を何としても救うべくジリジリと自ら敵戦艦の主砲軸線上に割って入っていく・・・

『ゆうぎりに敵弾集中!!』

『敵主砲軸線上に入ります!』

 これまで島航海長の巧みな躁艦により紙一重で避けてきた敵大口径砲の集中射を、その島自身の躁艦により自ら浴びた「ちくま」は凄まじい轟音とともに一撃で全艦火達磨となり、破壊された船体の一部として艦内各所で命懸けの補修作業を続けていた男たちをも宇宙空間へ吹き飛ばすとともに、艦橋内にも高い耐熱性を持つハードスーツを着ていても耐え難いほどの熱気が一気に充満した。

「総員離艦! 速やかに脱出しろ・・・」

『艦長!!』

「オレはいい・・・早く脱出しろ・・・ 脱出するんだ・・・」

 艦橋内を突然襲った耐熱樹脂部品が燃え上がるほどの恐ろしい熱気をはらんだ爆風により、僅かに体を守る耐火性の制帽と酸素マスクの飛ばされた艦長は、むき出しの髪は一瞬で焼け落ち皮膚は爛れ視力を失った状態の中で微かに残った意識を気力で保ち、駆け寄った島に焼けた喉から絞り出すように最後の命令を小さく繰り返すと言切れた。

〈艦長・・・〉

『総員離艦! 急ぐんだ!』

 心の底から溢れるように湧き上がった人間的な感情を強引に封印すると、艦橋で生き残っている最上級者として島大介三佐は艦長の遺した最後の命令を繰り返し、無重力下に体を固定するベルトにより艦長席に座ったまま倒れた指揮官に最後の敬礼を素早く捧げ、生き残った全員の脱出を確認すると燃え盛る艦橋を後にした。


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


〈残り25分・・・〉

「次郎・・・ 次郎・・・ 次郎・・・」

 非常脱出ポットの残酸素も残り30分を切り、徐々に増加する催眠物質により意識が遠退き一段と長く感じる時間の中、島大介は地球で待つ一人息子の名前をうわ言のように繰り返していた。


『ピピッ・・・
 こちら、地球防衛軍日本統合艦隊巡洋艦くまの・・・ 生存者は応答せよ。
 繰り返す、生存者は直ちに応答せよ』

 それまで自身の心臓の鼓動音しかなかったポット内に突然の驚くほど大きく感じるキャッチ音に続いて音声通信が入り、自動的に救出準備モードに切り替わった非常脱出ポットからは催眠物質に変わって覚醒物質が出されることにより島の意識も徐々にハッキリしてきた。

〈くまの・・・? 第一遊撃艦隊所属艦がなぜ?〉

『これより非常脱出ポットの救出作業に入る。 もう暫くの辛抱だ。
 酸素残量が10分を切っている者は、応答スイッチを3度押すようにせよ』

「生き残ったのか・・・」

 意識の覚醒により若干体が動くようになった島は、手元にある応答信号のスイッチを入れて放心したような安堵感を感じていた。


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「艦長。 非常脱出ポットからの応答信号38を確認。
 その他救命ビーコン143の生命反応確認中です」

「レーダーに大破状態のちくま、ゆうぎり、すずかぜを感知。
 全艦エネルギー反応はありません・・・」

「感知した各艦には救命艇を派遣し生存者を確認せよ。
 本艦は直ちに非常脱出ポットの収容作業を開始する。
 酸素残量の少ない者が多い。 急げ! 時間がないぞ」

 沖田司令長官の「遭難した生存者を可能な限り救出」という地球帰還への付帯命令を最大限に拡大解釈して第一機動艦隊の戦闘宙域へやって来た「くまの」は、艦長である山南修一等宙佐の指揮の下、全滅した第一機動艦隊から僅かに残った生存者の救助を開始した。


「ガ軍との戦闘は、まだまだ続く・・・ 我々は最後まで戦う!」


 

−人類滅亡といわれる日まで、あと489日・・・ あと489日−
 

 
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